五十六話 招集の報せ
「……さん……おき……くだ……! シンさん、もうご飯出来てますよっ、起きてくださーい!」
遠い昔の夢、俺がまだ子供の頃……そんな懐かしい夢を見ていた俺の耳に声が届く。
扉の向こうから名前を呼ばれた俺は、段々と意識がはっきりとしてきた。
俺は身体を起こして声の主へと返事をする。
「ああ……もう起きたから大丈夫だ、助かった」
「いえいえ、それじゃあ私は先に行きますね!」
今の声はリリアか。
ぱたぱたと音を立てながら階段を下りていったようだ。
俺は寝ぐせの確認だけすると、部屋を出た。
早くいかないと、ルクシアが待ちきれずに全部食べてしまいそうだ。
昼にあれだけ食べていても関係ないだろうからな。
「すまない、待たせたみたいだな」
「まったくよ、折角のご飯が冷めちゃうわ」
「たべる」
「そうですね、いただきましょう!」
「あらあら」
俺が席に着くと、待ちきれないとばかりにルクシアが食事に手を付けていく。
文句を言っていたラプスウェルも、俺が来るのを待っていてくれる辺り可愛らしいところもあるんだな。
リリアは用意していたのか、俺の前にまだ温かい野菜スープを出してくれた。
イリスは食事をするよりも赤い葡萄酒を傾けるペースが早い。
そして俺も美味そうな匂いに誘われるまま、食事に手を付ける事にした。
食べ始めて少し経った頃、イリスがみんなに向かって話し掛けた。
「急なんだけど、明日は私とシンさんの二人で出掛けてくるわね」
「え……」
イリスの話しを聞いたリリアが驚いた顔で俺を見る。
俺は同意するように頷くと、リリアは分かりやすく肩を落とす。
最近のリリアはこういう事が多い気がするな……。
それだけ楽しみにしてくれているのは嬉しいが、順番的に我慢させてばかりなのが少し心苦しくなってきた。
だからリリアの時は、しっかりと楽しませてやらないとな。
「すまないがちょっと急用でな。みんな、この前会ったサピエルを覚えてるか?」
「はい。すごく怖かったです……」
「勿論よ、あたしも一発入れてやりたかったわ」
「だれ?」
みんなに尋ねてみると、リリアもラプスウェルもしっかり覚えていた。
まぁあんな絡まれ方をしたからな、そりゃあ覚えているよな。
……ルクシアは覚えてないみたいだが。
「ま、まぁそのサピエルがどうやら姿を消したらしい」
「ええ。その件で神殿……神様から呼ばれているのよ」
俺とイリスの説明を聞いたリリアは納得したようだ。
ラプスウェルは「もし見付けたら何発か入れてやろうかしら」とか血の気の多い事を言っている。
すると純粋に気になったのか、ルクシアが俺に聞いてきた。
「みんなで、いく?」
「いや、俺たちだけで大丈夫だろう。とりあえずは話しを聞いてくるだけだからな」
「わかった」
「留守番よろしくな」
「うん」
俺の言葉に頷いたルクシアに対して、つい手を伸ばして頭を撫でてしまった。
それを見たリリアの羨ましそうな視線が刺さる。
ついでにイリスも、ニヤニヤとした顔をこちらに向けてきていた。