五十五話 やさしさ
イリスから話しを聞いた俺は混乱していた。
サピエルがギルド――レオニスに連れていかれたのは一昨日の話しだ。
深い傷でもないし、治療後はおそらく拘束中のはず……。
どうやらイリスも詳しい事は分からないようだが、この件で神から話しがあるらしい。
正直ここで俺はもうあいつとは関係ない、と突っぱねてしまう事も出来た。
だがイリスから話しを聞いた段階で、俺はサピエルを心配してしまっていた。
吹っ切れたと思っていたが、そう簡単ではなかったって事かな……。
俺は悪い方向へ色々と想像してしまい、つい黙って考え込んでしまった。
そんな俺にイリスは声を掛けてきた。
「あらあら、優しいのね」
「優しい? 俺がか?」
「うふふ、他に誰もいないわよ」
「それはそうだが」
「あなたは優しいわ。だって他人の事をそんなにも想ってあげられるんだから」
イリスがそういうと俺の手を握ってきた。
俺は少し気恥ずかしくなったが、彼女の瞳が真っ直ぐに俺を見ている事に気付いた。
その目を見返すと、彼女が本当にそう思っているのが伝わってきた。
だから俺は感謝の言葉が、素直に口から出た。
「ありがとうな」
「うふふ、どういたしまして」
俺の言葉にイリスはにっこりと笑った。
狭いソファの中で俺は座り直して、彼女の話しに承諾の返事をする。
「デートの件は分かった。みんなには今日にでも説明するとして……神殿に行くのは早い方がいいよな?」
「ええ、その方が良いと思うわ」
「だったら明日、早速行く事にしようか」
「そうね。私はそれで大丈夫よ」
急な提案だったのに、イリスは勿論とばかりに頷いてくれた。
まぁこの話しを持ってきたのが彼女なのだから、当然かもしれないが。
「それで、他にも話しはあるのか?」
「いいえ。これだけよ」
イリスはあっさりと首を横に振る。
サピエルの話しを聞いた時は頭が真っ白になったが……。
いざこうして聞いた後だと肩透かしというか、これだけかという気持ちになってきたな。
「そうか。だったら飯の時間まで少し休む事にするよ」
「……分かったわ」
「すまないな。また飯時に呼びにきてくれると助かる」
「ええ、じゃあ明日はよろしくね」
俺の言葉を聞いたイリスは、一瞬だけ俺の顔色を確認してきた。
だが問題ないと判断したのか、特別なにか言う事もなくイリスは部屋から出ていった。
「サピエル、どうしたんだ一体……」
部屋で一人、俺はつぶやきながら瞼を閉じた。