表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/61

五十話 最初のデート

「まぁ分からない事を考えてもしょうがないわね」


 サピエルの事はこれまで通り、置いておく事になった。

 長年考えても分からないし聞いても教えてくれないのならどうしようもないしな。


「そうねぇ。じゃあとりあえず別の話題に変えるとして、明日のデートは誰をご指名するのかしら?」

「ぶふぉっ!」


 突然イリスが爆弾のような発言をしてきた。

 俺はタイミングが悪く、口の中に水を含んでいたせいで噴き出してしまった。


 その話しは頭の片隅から意図的に押し出していたんだが……。

 俺の反応を見たイリスはいかにも面白い、といった顔をしていた。

 自分の前に出来てしまった水溜まりを処理していると、誰かの声が聞こえた。


「わ、私――」

「いく!」

「あぅ……」


 リリアが喋ろうとしていたところに、ルクシアが割って入ると目をキラキラと光らせながら立ち上がる。

 どうせみんなと出掛ける事になるのだから、リリアには悪いがまた後日にしてもらおう。


「ごはん! いっぱい、たべる!」

「分かった分かった。すまないがリリアはまた今度でもいいか?」

「あ、はい……私は大丈夫です!」

「悪いな」


 リリアが譲ってくれたので、今回はルクシアと出掛ける事になった訳だが……。

 どこか良い飯屋を探すか、それともまた神殿周りの屋台にするか?

 なにか考えておかないとな。


 そうして俺たちは、色々な話題で盛り上がりながら食事を終えた。




 次の日、リリアと一緒にみんなの分の昼食を作っていると、寝ぐせが付いたままのルクシアがのそのそと起きてきた。

 それとほぼ同時くらいにラプスウェルも起き出してきた。

 二人とは反対にイリスは既に起きていて、今は自室にいるはずなので呼べばすぐに降りてくるだろう。


 だが俺とルクシアは外食に行くつもりなので、用意するのは他の三人分。

 そんなに時間も掛からずに作り終えてしまった。

 リリアはみんなを集めて食べ始めたが、俺とルクシアはそれを見ながらホームを出た。

 ホームから少し歩いた辺りで、ルクシアが口を開いた。


「どこ、いくの?」

「ん? ああ、紅玉亭こうぎょくていだよ。あそこの飯は美味いからな」

「そう。……たのしみ」


 そう呟いたルクシアはニコリと笑った。

 俺はルクシアのそんな顔を見た事がなかったので、少し驚いた。

 やはり食事に対しては感情の起伏が分かりやすく見えるんだな。


「俺が何度もお世話になってるところだ」

「シンが? だったら、すごいおみせ」


 俺の話しを聞いたルクシアは、確信を持ったというような顔に変わる。

 なんだか最近の彼女は、俺に対して見る目が変わってきた気がする。

 恋をしている……というよりはむしろ尊敬や親への信頼といった感じだろうか。

 俺がなにかを喋ると、それに対して無条件で信じているような反応を返してくるからだ。


「とはいっても普通の宿だぞ」

「ううん、シンなら、しんじられる」

「まぁ、それならいいか」


 重く考えすぎかもしれないが、ルクシアの反応にどうにも引っ掛かるものがあるな。

 だが今はとにかく考える事を中断してルクシアに一つ、とても大事な事を伝えておく。


「紅玉亭にはサーヤっていう給仕が働いている」

「……? うん」

「いいか、そいつとは絶対に話すな。面倒くさい予感しかしないから」

「わかった」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ