四話 ネゴシエートはお腹から
俺はリリアの話しを聞いて原因を考え込んでいると、サーヤが食事の乗ったプレートを二つ持ってきた。
サーヤにお礼を伝えて、そのまま早速食べ始める事にした。
考えすぎて冷めてしまったら申し訳ないからな。
リリアはオムライスとやらがそんなにも美味かったのか、無言になってスプーンを往復させていた。
と思ったらテーブルマナーも何もあった物ではなく、オムライスをスプーンでツンツンとつつきながら、先程の話の続きを喋りだした。テーブルマナーなんて知らないから別に俺は構わないのだが、王女的にそれでいいのだろうか。
「別に皆さん仲が悪い訳じゃないんですよ? でも実際に戦闘が始まると、どうにも噛み合わない感じになりまして」
俺はリリアの話に耳を傾けながら、いつも注文する物を味わっていた。
パンと手ごねの挽き肉――サーヤはハンバーグと言っていたか。
更に野菜のスープも一緒に頼んである、これは少し硬いパンを浸す事によって柔らかくする為だ。
それらの料理を、いつも通り決まった順番で口へと運んでいく。その合間にリリアの話へと相槌を打つ。
「それでですね。ギルドで何か丁度いいクエストが無いかと探していると、Sランクパーティの方が抜けるとかいう話が聞こえてきまして」
「そりゃあ見世物みたいに、わざわざあんなとこで話しをしていればな。誰でも聞こえてるだろうさ」
俺は少し苦笑しながら答える。
あの瞬間は別に何も思う事は無かったが、こうしてリリアに言われると少し恥ずかしい気持ちが湧いてきてしまった。
やはり結構注目されていたのだろう。
「なのでその方に力を貸して貰えれば、と思いまして」
真剣な顔でそう言ったリリアからは、藁にも縋るような気持ちが伝わってくる。
俺はリリアの話に怪しいところが無いかを一応考えてみる。
考えた……が、エルフの王女様が俺を騙す理由も無ければ、反対に俺が断るような理由も無い事に気付く。
それこそ大観衆の中、パーティを抜けたばかりだからな。
ついでに亜人種ばかりのパーティというのも、少し面白そうで興味が出てきたのだ。
子供の頃からサピエルのパーティでヒト族としか組んだ事がなく、地道にサポーターをこなしていただけの日々。
それを考えれば気分転換がてら、受けてみてもいいんじゃないか。俺は段々とそう思ってきていた。
「力を貸す、か」
「やはり……駄目、でしょうか」
「はっきり言うとそうだな……まだ決めかねてる」
「そうですか……」
リリアがそれはもう、分かりやすく肩を落とした。
そんなリリアに俺は声を掛ける。
「決めかねてる、だ。入らないとしても折角だし、少し見るくらいはしてやるさ」
項垂れていたリリアは、俺の言葉を聞くとまたも凄い速度で顔を上げた。
首を痛めてないかと思ったほどの速さだったぞ。
「本当ですか? 嘘じゃないですよね! 今聞きましたからね!」
嬉しそうな顔でそう念押ししてくるリリア。
俺は呆れながらも笑い返してやる。
「そんな事で嘘なんて言わないから安心しろ」
「ふふっ、やったぁ!」
喜ぶリリアは、大変に愛らしい笑顔を振り撒いてくれた。
すぐに立ち上がって「じゃあ早速、皆さんに教えてきます!」そう言ったリリアの事を、俺は引き留めた。
「待てリリア! オムライス。まだ残ってるぞ、食べないのか?」
「あっ、すいません! つい嬉しくなっちゃって」
改めて椅子に座って残りのオムライスを食べようとするリリアを見ていると、この少女が実は王女だなんて嘘じゃないのか?
そう疑いそうなほどに無邪気というか。
喋り方や一つ一つの動きが綺麗なだけで、中身はまだまだ子供なんだなと俺に感じさせた。
「構わない。ゆっくり食べていいぞ、俺は忙しくないからな」
「ふふっ、ありがとうございます。それじゃあゆっくり頂いちゃいますね」
そうして俺はリリアが食べ終わるまでの時間、夜の帳が降りていくのをのんびりと眺めていた。