一話 終わりの始まり
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グオオオォォォ……ッ!!
俺たちの目の前に存在する巨体、ドラゴン種『ブリッツワイバーン』から断末魔であろう咆哮が辺りに響く。
体全体が黄土色で、腕と翼が混ざり合った大きな両翼が特徴のモンスターは地面を揺らしながら倒れ込んだ。
「やったか!」
誰かの声が聞こえた……いや、誰かじゃなくて俺の、このパーティ全員の声だった。
動かなくなったブリッツワイバーンを警戒したまま俺たちは一分か、はたまた十分か。時間は曖昧だったがじっと観察を続ける。
するとその巨体は光の粒子になってキラキラと崩れだした。
それを確認したパーティのリーダーであるサピエルは、金色の髪を掻き上げると華美な修飾のある剣を鞘へと仕舞った。
サピエルが警戒を解いたのを見ると俺たちも続く。
全員で今回のクエストの被害を確認してみると、なんと俺たちはそれほど大きな消耗もなく、Sランクの討伐クエスト『ブリッツワイバーンの討伐』をクリアしてしまった。
ブリッツワイバーンを倒した事によるスキルポイントや、ドロップ品がみんなのインベントリに収納されていた事を確認していると、受注した時に受け取ったクエストの紙にも討伐完了のマークが自動的に付いた。
安心した俺はついつい長い息を吐いた。
Sランクのクエストを単独パーティでクリアなんて上出来すぎだろう。
パーティのみんなも興奮気味で帰り支度を始めるまで時間が掛かりそうだった。
◇
俺たちは転移陣を使って街まで帰ってきた。
冒険者ギルドへ直行して、受付嬢にクエスト報告を済ませた。
受付嬢はクエスト紙のクリアマークを確認すると、驚いた顔をしながら報酬を渡してきた。
単独パーティでクリアだったので、すぐにクリア報酬の分配が終わった。すると久し振りにサピエルが、俺個人に向かって話し掛けてきた。
「シン。話しがある、付いて来い」
「……あぁ」
俺はどこか人気のないところで話すのかと思って見構えながら付いていく。
だがそんな杞憂もいらない程の距離……そう、ギルド内に設置されているテーブルにサピエルは向かった。
何の話か知らないがこんな人目のあるところで話す事だ。
実は難しい話じゃないのだろうか。
まぁ聞けば分かるか。そう思った俺はサピエルの対面へと座る。
「それで話しってなんだ」
「単刀直入に言う。シン、パーティを抜けろ」
別に驚きは無かった。ただその時が来たのかと、俺はそう感じただけだった。
パーティ内から受けていた最近の風当たりの強さを考えたら、むしろやっとかと思ったほどだった。
だが、こんな場所で言われる事だとは思ってなかったので少し面食らってしまったが。
「シンさん、アンタはサポーター。僕らのパーティメンバーじゃないんですよねぇ」
「お前は後ろに隠れて支援スキルばっかで、攻撃スキルの1つも使えないとか! 一体何の冗談だよ!」
パーティメンバーのクルトとグングからも野次が飛んでくる。
このパーティには子供の頃から所属していたが、ここに拘っているつもりも無い。
居心地が悪ければ別のところに行くだけ、元来冒険者とはそういう物だと思う。
正直このパーティはむさ苦しい事に長年、男だらけだったし食事洗濯などの雑用は、基本的にサポーターである俺の仕事となっていた。
そんなところにリーダーであるサピエルから、パーティから抜けろとのお達しだ。
段々と嫌気が増してきていた俺は、抜けられるなら理由なんてどうでもよかったんだが……こうしてメンバーたちから不満の声を聞かせてくれたのは抜けやすくなる、むしろありがたいくらいだ。
俺が黙っていたので、パーティから抜けたくないのだと判断したのだろう。サピエルは更に追撃をしてきた。
「俺たちにサポーターはいらない、今日のクエストもそうだ。Sランクのクエストを大した被害もなくクリア出来た俺たちなら、サポーターを養うマニーで戦力を増やして更に危険度の高いクエストを受ける事だって出来るようになる」
わざわざ説明をされなくても理解している。俺の心はもう決まっていた。
これ以上ここで話しをする理由も無いのですぐに了承する。
「分かった、今まで世話になった」
「まーったくですよ!」
「じゃあ達者でな」
「期限は明日中だ、出来るなら今日中に支度を済ませろ」
メンバーは……いや、元メンバーは各々好き勝手な事を言いながら立ち上がり、そのままギルドから出て行った。
俺はパーティ情報から『脱退』をすると席を立ち、贔屓にしている飯屋にでも行く事にした。
懐も温かくなったばかりで良い機会だし久し振りの休暇でも取ろうか、なんて軽く考えながらギルドを出ると後ろから声を掛けられる。
「あの! シンさんですよね! 私の話しを聞いて貰えませんか?」
俺が振り向くと、そこには金髪碧眼の耳が少し尖った少女。つまりエルフ族の少女がいた。
緑色がベースの色調で生地も良さそうなワンピースを着ているが、弓を背中に装備している。
他にも髪飾りなどいくつか高価そうな物が見えるが、武器を持っている以上冒険者……だと思う。
「あぁ。俺がシンだが、なにか用か?」
「あの、ギルドでのお話を聞いてしまって……その、私たちのパーティに入って貰えませんか?」
「……俺が? 君たちのパーティに?」
「はい! よろしくお願いします!」
一応オウム返しで聞き返してみたが、元気いっぱいに頭を下げられてしまった。
少女からどこか必死そうな雰囲気を感じた俺は、少し事情を聞いてみる事にした。
「あー……とりあえず何か事情でもあるんだろうし。飯屋で聞くでもいいか? クエスト帰りで腹空いてるんだ」
「あ、急にすいません! 私は大丈夫ですが……どちらのお店に向かうんですか?」
「俺が贔屓にしているところでな、『紅玉亭』って店だ」