第4話 違和感の始まり
金糸のように煌めく髪、可愛らしいストロベリークォーツの瞳。顔立ちこそブティリータのままだが、仮面がある今そっくりそのままファルルである。
ファルル姿のブティリータは鏡を覗き込み、にっこりと笑った。
(綺麗な色だけど、私の髪の方が可愛いなっ。みんなそう言ってくれるし♪)
そういえば、と1つ咳払いをする。
「ごきげんよう。」
ブティリータが開いた口からは彼女本来の甲高い声ではなく、ファルルの少し低い声が発せられた。
(完璧っ!うーんでもこの人、どっかで見たことある気がしたんだけど分かんなかったなぁ〜。ま、この仮面舞踏会で名前は必要ないよねっ。)
るんるんの足取りで大広間へ再び戻ってくる。
(えーと、私の王子様はどこかな〜?)
見渡すと、彼は直ぐに見つかった。騎士は別の男女カップルと喋っているようだ。きっと先程まで4人で話していたのだろう。
(みーつけた♡)
ブティリータは3人に近づいていく。それに気づいたエイスはぱあっと顔を明るくした。
「レディ、髪型を変えたんですね。お似合いです。」
「いえそんな、ありがとうございます。あの、またよろしければ一緒に踊って頂けませんか…?♡」
「まぁ!どうぞ楽しんで。」
エイスが喋っていたカップルの女性が声を上げたあとにこやかに送り出す。そしてお邪魔してはいけませんね、と2人で離れていった。
「まさかレディから誘って頂けるとはね。どうぞ。」
エイスはまた微笑み、手を差し出した。その王子様スマイルに胸を高鳴らせながら、ブティリータはその手を取った。
○
彼のリードするダンスは、信じられない程に優しくて上手だった。まるで新品のオルゴールのように滑らかに、優雅に、そして、息が合っていると錯覚するように。ふと周りへ目を向ければ、沢山の人達がエイスとブティリータ演じるファルルのダンスに見蕩れていた。
曲が終わり、騎士は名残惜しそうに笑った。
「ありがとうございました。俺、飲み物を取ってきますね。」
ブティリータは暫く立ち尽くす。まるで夢を見ているようだった。例えファルルの皮を被っていたとしても、それはブティリータにとって、シンデレラにかけられた魔法でしかなかった。
(こんな方と踊れるなんて…しかもみんなにも羨ましがられて…ずっと一緒にこうしてたい♡)
(でもきっと彼は離れちゃう…もっと気を引かないと!)
そこに、ブティリータへ近づいてくる影があった。透き通る白い髪にドレスと同じグレイッシュピンクのガーベラが咲いている。
(白髪?ってことは王女様!?…いや、仮面舞踏会じゃ同じ白にしてるサクラがいるんだっけ。んじゃ、気にしなくていいよね。)
「ーー良かったな〜!」
白髪の美少女はブティリータの背中をとんと叩いて素の口調でそう言った。
(こんな喋り方、やっぱりどっか田舎の人ね。あ、だったらもしかしてこいつ…)
「何よ、貴女。もしかして騎士様狙い?でも、騎士様は私を選んだんだよ?」
と上目遣いで笑う。そう言われた彼女ーールーチェは目をぱちくりと瞬かせた。
「え?どしたんハル、頭やった?」
「…え?」
一瞬の間。ぐず、と鼻をすする音。途端ブティリータは「うっ…ううぅ…」と泣き始めた。
「あ、ちょっと!ハル!?」
ルーチェは慌てて宥めようとする。だが、運の悪いことにエイスがそれに気づいてしまったのだった。
「どうされたんですか!?」
持ってきたグラスを近くのメイドに渡し駆け寄る。
「このっ…このご令嬢が私に意地悪言ってきたのっ…」
エイスがルーチェの方を見ると、彼女は彼女で意味が分からない、という顔をしていた。
「本当…ですか?」
エイスは再びブティリータを見る。ブティリータはショックを受けた顔をし、「そーなんですっ。信じて下さらないんですか?」と震え声で呟いた。
「そう、ですか…」
またルーチェの方を向き、言い放つ。
「貴女が何を仰ったかは分かりませんが、僕の彼女を傷つけることは誰だろうが許しません。…お引取りを。」
「…失礼致します。」
ほぼ勢いに任せるようにルーチェは軽いカーテシーをし、帰って行った。
「ありがとうございますっ。」
すっかり泣き止んだブティリータはエイスを見上げた。
「いえ。お姿は美しいのにそんなことをする方もいるんですね。」
彼は遠くルーチェの背中を見送る。それを見たブティリータは妬くようにエイスに擦り寄って腕に手を伸ばした。その時、エイスは彼の中で何かの違和感を感じた。自分の腕に巻き付けられる手。どこかで同じようなことがあった気がする。
「どうしたんですか?」
「あぁいえ。よろしければ、また一緒に踊りましょうか?きっと踊れば心無い言葉も忘れられるはずです。」
「はい、もちろん♡」
次回は2/11 6:30頃予定
追記: 7:00に変更します!