試射
早朝に寒さから目が覚めた。
ドヤには暖房は無い、寒ければ着込めば良いのだが着替えが無かった。
ドヤの出入り口に行くとシャッターが半分だけ開いていた。
皆がここから無言で出て行く、内鍵だけで外から施錠出来ないドヤでは、フロントに鍵を預ける事も無い。
そのまま出ればチェックアウトの代わりだ、二泊分の料金は払ってあるので夕方にまた部屋に帰れば泊まりになる。
外に出ると、まずは作業服屋に寄った。
灰色の作業服に安全靴、下着や靴下なども買うと、防寒用のジャンバーも買う。
いわゆるドカジャンと言われるやつだ、膝まである長さの左右にポケットが付いている。
右のポケットにトカレフ、左に予備の弾倉を2つ入れると丁度バランスが取れた。
着替え終わった後のスエットを袋に入れて捨てると、吉野家の牛丼で腹を満たして地下鉄に乗る。
地下鉄とニュートラムを乗り継いで南港に向かう。
南港には、海外からのコンテナー船から荷受けした40フィートコンテナーが山の様に積まれている。
中身が入っているコンテナーは人も多いし警備員も付いて居るが、中が空の空コンテナーは積んで放置されていて警備員も居ない。
空コンテナーの間を通って海まで出る。
右のポケットからトカレフを出すと左手でスライドを引いて薬室に実包を入れる。
海に浮かんでいるペットボトルを狙うと、引き金を絞った。
タンッ!っと言う野太い音が出ると、7・62ミリの高速弾がペットボトルの数メートル手前に着弾した。
そのまま数発を発射して、着弾するコツを掴む。
これで弾が出ることが確認出来た、本番の時に弾が出ないと悲劇でしか無い。
2マガジン分を撃つと、その場からサッサと退散した。
帰りに工事現場を見つけたので、中に入ってガス菅の切れ端を拾う。
手首から肘までのガス菅、長さは30センチくらい。
見つけると近くにあった黒の布ガムテープをぐるぐる巻き付けてから、ドカジャンの左手の袖の中に隠す。
ニュートラムと地下鉄を乗り継いで阿部野橋に帰ると、ジャンジャン横丁で夕飯を食べてから銭湯に入った。
ドヤに着くとシャッターがまた半分だけ開いていた、シャッターの下を潜って部屋に入ると、そのまま眠りに付いた。