朝日
銀行にしろコンビニにしろ今のままでは都合が悪い。
あの日…ホームレスになってから風呂に入った事が無かった。
和室に行って箪笥の中を物色すると、着れそうな黒のスエットの上下やダウンジャケット、靴下や下着などを集めて風呂場に向かう。
バスタオルやタオル類は脱衣所に置いてあった、風呂は古い府営住宅にあるバランス釜だ、熱いシャワーを頭から浴びてシャンプーすると黒い汚ごれが足元に落ちてくる。
何度も髪の毛を洗った、汚れが固まっているのを指で剥がす。
身体も何度も洗った、最初は泡なんて出ない。
シャンプーのほとんどと石鹸を新しく変えてやっと浴びるお湯に色が無くなった。
髭を剃るか悩んだが、ATMには防犯カメラがあると思い直しハサミで軽く揃えるだけにする。
髪の毛も自分でカットして帽子を被れば目立たないくらいに短く切る。
風呂から出て服を着ると空腹から腹の音が鳴った。
冷蔵庫の中を見ると卵とベーコン、ラップした白米を見つける、ガスレンジにフライパンを乗せて火を付ける。
ベーコンをたっぷりと卵を3つ使ったベーコンエッグを作るとソースとマヨネーズを付けて貪る用に食った、食後にインスタントのコーヒーも飲む。
和室の押し入れを物色して見つけたサファリランド製の旅行用の小さいボストンバッグにトカレフの弾の箱と予備弾倉を入れると目隠しにタオルを被せる。
切った髪の毛や汚れて臭う服や靴を90リットルのゴミ袋に入れていくと袋が2つになった。
使った皿やコーヒーカップも洗うと開けっ放しの引き出しも元に戻す。
侵入した形跡を出来るだけ消すために最後に部屋の中を確認するとハーフコックにしたトカレフと通帳を身に付ける。
万が一、逃げる時に鞄を無くしてもこの2つがあれば何とかなるだろう、玄関に置いてあったクロックスのコピー商品のサンダルを履くと部屋を出て鍵を掛ける。
そのまま荷物を持って階段を降りる、この府営団地のゴミ集積所に行くとゴミ袋と部屋の鍵を捨てると、深夜から早朝に変わる時間帯になっていた。
紫色の空を見上げて駅まで歩いて行く。
駅に着くと改札口は空いていた、磁気カードを取り出して改札を通ると天王寺方面のホームの待合室で暖を取る。
天王寺に着いたら金を引き出す、その方法を考えながら始発の電車を待っていた。