侵入
免許証の住所には古びた5階建ての府営住宅が何棟か建っていた。
一階の集合ポストの名前を確認すると302号室に免許証と同じ名前がある。
エレベーターの無い、古い府営住宅の階段を登りながらトカレフのスライドを引いた。
ジャコッっと乾いた音と共に7・62ミリのトカレフ弾が薬室に吸い込まれる。
そのまま右手にトカレフを握ると人差し指をトリガーガードに掛ける。
トカレフには安全装置は無い、同年代に作られたコルトM1911A1などは握らないと解除し無いグリップセフティと親指で操作するサムセフティの二段構えなのに対し、出来る事はトリガーガードに指を掛けるか撃鉄をハーフコックにするしか無い。
左手で鍵束を取り出してシリンダー錠に入れると滑るように入った、そのまま鍵を解除してゆっくりとドアノブを回す。
中は暗い、そのまま身体を入れるとドアを閉めてロックを掛ける。
暫くそのままで聴き耳を立てる、音や気配が無いか充分確認してからドアチェーンを掛けて中に入った。
靴を履いたまま部屋の中に入る、玄関を過ぎるとすぐにトイレと風呂場、続いて台所だ。
六畳の洋室にベットや机、四畳半の和室に箪笥が置いてあった。
風呂場やトイレ、箪笥や押し入れの全ての扉を開けて無人を確認してからトカレフをハーフコックにしてベルトに挟んだ。
机の引き出しを下から次々と開けて行く。
開けたらそのままに上まで来ると1番上の引き出しには鍵が掛かっていた。
再び鍵束を取り出すと1番小さい鍵が合いそうだ。
鍵を解除して中を見るとトカレフの弾の箱数個と共に銀行の通帳とキャッシュカードが4桁の数字を書いたメモと共に出て来た。
通帳を開いて残高を確認すると300万近く残金が残っている。
男は頬を上げてニヤリとするとどうやって預金を引き出すか考え始めた。