墓標
最終回です
季節は春になった。
ゴリは羽曳野にある霊園に来ていた、冬に雪の中で凍死した山田雄一郎の墓があると聞いて。
霊園の職員に場所を聞いて向かうと、先客が居た。
身長は180くらい、痩せ型の若い男が山田と書かれた墓標に手を合わせている。
ゴリがそのまま見ていると、相手の方が気が付いた、会釈してその場を去ろうとする若者にゴリが。
「あんた…ひょっとして公平さんかい?」
山田雄一郎が銀行の封筒に書いていた名前を言うと相手が反応した。
目を見開いてゴリを見ると。
「失礼ですが…貴方は?」
ゴリは警察手帳を見せると。
「山田雄一郎の事件の担当だった者です」
その後、霊園の駐車場にある喫煙所に2人の姿があった。
ゴリは煙草、公平は缶コーヒーを飲みながら。
「今は?学生さんかね?」
そうゴリが聞くと、ええっと返事が返って来た。
「高専の3年目です、後2年あります」
機械制御課でロボットの開発をしていると言うと。
「保険会社からは保険金を返納しろって言われてまして」
母親が保険金は生活費に使った、学費は自分達の稼ぎだと言い、裁判で争っているらしい。
「子供の頃…ロボット教室って所に通ってて」
初回は無料で、次から月謝を取る方法で勧誘するのだが。
「通いたいって父に言ったら…良いよって言ってくれて」
後から塾の月謝と変わらない額だと聞いて。
「父さんは、やって見ないと物になるか解らないからって」
笑って頭を撫でて、通わせてくれたんです。
「ウチって車が無いんですよ、だから長距離の移動はいつも電車で」
和歌山のマリーナシティに行った時も電車で行った、3千円の安物の釣り道具のセットを持って。
「釣れるのも小さいのばかりですけど…楽しかった」
黒潮が運んで来るから、珍しいのが居るだろ。
「そう言って餌を付けて投げるだけにして渡してくれたんです」
そこまで言うと、目に涙を溜めながら。
「無理なんてしなくて良いのに…なんで…」
ゴリは吸っていた煙草を一斗缶の灰皿に入れると。
「親はさ…子供が喜んでくれるから、働けるんだよ」
子供に飯を食わせる為に、寝る場所を確保する為に、必死になって働く。
「親が1番辛いのは、子供が腹を空かせて泣いてる姿なんだよ」
それが飯であれ、玩具や塾の月謝だとしても。
「金が無くて諦めさせるのが、1番辛い…泣きたくなるくらい辛い」
だからこそ、自分は霊園に来たのだろう。
若者から、視線を逸らす様に遠くを見ると。
桜の花が咲き乱れていた。
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最後までお付き合いくださり、ありがとうございます。
作中で出ていたタコの話し、和歌山の話は実話です
今回の話を書くきっかけは、36協定のせいで収入が減ったせいですね。
発作的に書いちゃいました。
嫁とも喧嘩しましたよええ、その辺は実話ですね。
子供はね、本当に可愛いんですよ。
小さい頃の記憶が今の生きる糧ですね、本当に(遠い目)
私が書く物語は、物には記憶があると思う、その辺が一貫したテーマです。
それでは皆様、また他の物語でお会いしましょう。