理由
南河内署は架空の警察署です。
ゴリが病室で寝ていると南河内署の同僚から連絡が入って来た。
「うちの管轄でホームレスが凍死したんですが」
所持品に拳銃があると。
地元の病院に転院するから、そう言って無理矢理退院すると、近鉄南大阪線に乗って南河内へ、駅からタクシーに乗って南河内署に入ると知った顔が迎えてくれた。
「ゴリさん、久しぶり!」
鳴神に迎えられて捜査一課の扉を潜ると一係課長がゴリの左手を見ながら。
「あんまり無理しなやゴリさん」
そのまま捜査の擦り合わせにになった。
「第一報は昼前や、雪が溶けて死体が出て来た」
大阪にしては珍しい12月の雪、おまけに10センチ以上積もっていた。
「近所の人が通報して、交番から巡査が着いた時には心肺停止、たぶん凍死やと思うが」
変死なので解剖に回ると言い、ゴリに写真の束を渡して来た。
「所持品はサファリランドの小型のボストンバッグ、中には着替えと一緒に」
拳銃、予備の弾倉、弾薬、その他に、銀行の封筒に入った現金。
「封筒には2人分の宛名に、それぞれ小袋に分けて現金が入っていた」
合計で300万近く、出所を捜査中だと言い。
「拳銃のライフルマークを鑑識で調べてる、おそらく西成の事件と関係があると見てる」
捜査が進むにつれ、新たな事実が出てきた。
「仏さんの身元がわかりました、亡くなっていた土地の元の持ち主で山田雄一郎」
歯医者のカルテと一致したのだが。
「捜索願いが出ております、自殺してそのまま行方不明になった可能性があると」
安治川大橋から落下したバイク、その持ち主の死体が上がらなかった。
「家族が捜索願いを出して規定の日数がたった為、死亡した者と扱われました」
住宅ローンも団体信用組合が肩代わりした為、土地を売る為に更地にした後、生命保険と土地の金を持って家族は嫁の実家の四国へ。
元の会社の同僚などの聞き取り調査から、金に困っている話も出て来た…そして自殺未遂の件も。
「やりきれねえよ…実際」
ゴリはそう言って溜息を着くと、署の外の喫煙所で鳴神と煙草を吸っていた。
「家族の為に稼いで、足りないって文句言われて、死ぬ気で川に飛び込んで…でも死にきれなくて」
西成に流れて来てからも、身元がわからない様に気を使って細々と生きて。
「簡易宿舎の娘さんから聞いた話なんだが」
金の精算の時も、食事の時も。
「軍手をずっと着けて外さないんです」
西成には事故で指を無くしたり、極道から足抜けしたりする人が手袋を外さない事はよくある。
「だから、そうなのかなって思ってました」
たぶん、極端に身元を隠す為に外さなかった、生きているとバレたら保険金はパーになる。
「だからこそ、誰にも会えなかった、相談も出来なかった」
鞄の中にあった銀行の封筒には、黒いマジックで。
「子供達の、学費と結婚資金って書いてあったよ」
次回、最終回予定。