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記憶

 学の無い低所得者な男だった。


 それでも結婚して子供が出来ると人生に幸せを感じる。


 そんな時、国の景気が悪くなった。


 基本給の低い男は残業で生活費を補填していたが、それでも限界はある。



 あれは子供が幼稚園の時だ、サンタさんに手紙で戦隊物の玩具が欲しい。


 そう書いていたのに貰ったのは数百円の外国製のビニールタコ(カイト)で、泣きながら失望している子供に嫁が。


「サンタさんからの玩具やんか、ほら」


 そう言って無理矢理に納得させようとしているのを見て。


「やめろ……俺が買うから…もうやめてくれ!」


 それから夜に観光バスの掃除、休日にはパン工場とバイトを入れた。


 ずっと働き詰めだったが、何とか家計の足しにと頑張って子供の為に働いた。


 子供が成長するに従い、金の額も上がって行った、習い事、塾、夏期講習、冬季講習、そして受験対策。


 嫁は子供の頃、親が離婚して母子家庭で育った、金が無い為に商業高校を卒業して就職。


 成績は良かったが大学進学は諦めていた、それだけに子供には十分な学歴を持って欲しかったのだろう。


「あの子達は成績が良いの、良い大学も狙えるのよ」


 ひたすら子供の教育に情熱を注いでいた、そんな時に会社をクビになった。


 副業禁止にも関わらず長期に渡ってバイトをしていた為。


 理由はそうなっていた…が要は不況で希望退職者を探していたが、見つからないので生贄にされただけだ。


「どうするのよ!生活費と子供の学費!」


 次の仕事の見つからない俺に、嫁は呪うように責め続けた。


「大学に受かっても入れないじゃ無い、何とかしてよ!」


 まとまった金が必要な俺は生命保険に頼る事にした。


 バイク事故ならバイクの保険と生命保険と両方入る、もう10年以上掛けてあるので自殺でも保険は下りる。


 俺はバイクと一緒に安治川大橋からダイブした、死ぬつもりで…しかし死に切れなかった、気が付けば安治川の土手にしがみついている。


 それから、西成でホームレスをしていた。




 そこまで思い出した時、タクシーが着いたので降りると雪がちらほらと降っている。



 目的地からは少し離れた団地で降りると、歩く度に撃たれた傷がズキズキと痛む。


 じっとして止まっていた血がまた出血し出す、雪も本格的に降って来た。


 頭から雪を被りがら男は目的地に急いだ、ふらつく足取りで前に進む。


 あの角を曲がれば、そう思いながら曲がると目の前に開けた空間が見える。


 

 目の前に更地が広がっていた、売地と書かれた看板に不動産屋の番号が書いてある。


 暫く、呆然としながらその光景を見ていた男は元は玄関のあった場所から更地に入った。


 台所のあった場所から、リビングのあった場所に来ると地面にドッカリと腰を落とすと盛大に溜息を付いた。


 金の入ったバッグを抱いていると、身体を覆い隠す様に雪が降る。


 眠気が身体を支配していた、そのまま眠る前に男の口から。


「金…届けられなくて…ゴメンな…」


 その言葉を最後に、男は意識を手放した。



 バイトは本当にしてました


 家族旅行の金を稼ぎに

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