視線
ドヤを500円から1500円の宿に変えた。
部屋にエアコンとテレビ付、共同の台所がありガスコンロにはガス玉と呼ばれる専門のコインがあり、投入すると一定時間ガスが流れる。
フライパンや鍋もある、使うもよし外食で済ますも良し本人次第である。
風呂も小さいながらも付いている、差額は多少あるが布団も部屋も清潔感があった。
外でホカ弁を買って一階の談話室で食べながらテレビを見ていると、ロビーの電話が鳴った。
「愛ちゃん、電話に出てくれる?」
受付をしていた従業員がたぶん娘なのだろう、パソコンの前に居た若い女に声を掛けた。
電話に出ていた娘が暫くしてから受話器を置くと。
「お母さん!ヨシさん見つかったかも…」
それから2人が小声で話す会話がたまに聞こえる。
「警察から……ヨシさんの本人確認に……警察署の地下の……安置所……」
そんな話をしている時だった、玄関に数人の男達が入って来た。
20代から30代くらい、目付きが鋭く何かを探す様にキョロキョロと周りを見ながら中に入って来ると、客の男達を見ながら。
「この最近の新規の客は誰だ?」
そう従業員に聞きながらも、視線は油断なく周りを見ている。
その時、金髪の男の首の後ろがチリチリと逆立った。
この身に覚えのある感覚。
北朝鮮との国境線の空白地帯で待ち伏せを食らった時と同じ感覚だと思い出した時。
振り返った先にテーブルに腰掛けた髭だらけの男が居た。
髭や髪の毛に白い物が混じり、初老に近い労務者の男。
その男を見ていると違和感を感じる。
テーブルの上の弁当を食っている手には軍手を嵌めている。
その手がテーブルの下に隠れた時!
カチッっと聞き慣れた音が聞こえた。
拳銃の撃鉄を起こしてコックする金属音!
頭が考えるより身体が反応した。
金髪の右手が背中に周り拳銃を取り出すと左手でスライドを引いて初弾を薬室に送る!
その時!男のテーブルの下から7・62ミリトカレフ弾が発射された。