捜索
話に聞いた通り、あいりんセンターの周りのホームレスの寝床であるダンボールハウスの中は無人の物が多かった。
殺人事件の捜査に人出が割かれている中、生活安全課の職員と外回りの自動車警ら隊が少ない署員で探す中で、刑事部捜査4課の署員が西成に程近い遊郭、飛田新地に向かった。
飛田新地は西成にあり、大正時代に赤線地帯の遊郭として栄え、今に至る。
料金は20分一万六千円から勿論本番ありだ。
2階建ての小料理屋が通りに並び、一階の出入り口に嬢が座って客を引いている。
気に入った嬢と2階に上がって金を払ってサービスを受ける、小料理屋の店員と恋仲になって上でお楽しみをする、それがタテマエでの風俗産業だ、勿論裏では暴力団が絡む。
飛田新地にある暴力団事務所に2人の捜査員が入って行った、店番の若い衆に若頭への面会を頼むと、中に通されて熱いお茶が出て来た。
暫くすると若頭が顔を出した、軽く会釈するとテーブルを挟んで捜査員の前に座る。
「今日は何の用事です?旦那?」
地域の警察のマル坊だけに顔見知りだ、捜査員もお茶を飲みながら。
「最近ホームレスが姿を消してるらしくてな、捜索願いが出された」
捜査員が吉田修一って名前を知らないか?、そう尋ねると。
「うちの施設に居ないか聞いてみますわ」
そう言うとスマホで連絡を取り出した。
ホームレスと暴力団、一見すると関係無いようだが実は違う。
ホームレスを集めて市役所に生活保護の申請をするのだ、貰った保護費は暴力団が丸取りしホームレスは中古のマンションやアパートなどに住まわせ、3度の食事は宅配のほか弁などで済ませる。
食費は1日千円以下、家賃や光熱費などの名目で後は全て総取りする。
そのまま住む人もいれば、自分で食べたい物や自由を求めて出る人も多いが放置しているのが現状だ、組織に金が入れば良いのだから後の面倒は見ない。
居ないそうですと返事をした後に。
「旦那、うちじゃありませんぜ、聞いた話だと外人が連れて行ってるそうです」
それを聞いて捜査員が。
「外国人?何でまた?」
若頭が肩をすくめて。
「さあ?その辺はわかりかねますが」
気を付けてください、そう言うと。
「奴らは日本の法律も警察も気にもしてませんから」
山を踏む時だけ仲間になって、金を分けたら後は自由、いざとなったら国に帰って姿を消して、はいさようなら。
「警官殺すとか屁でもねえです、おまけに奴ら」
成人したら軍に入隊する義務があるので。
「銃もナイフも素手でも人を殺せる技術を習った奴らですから」
そう聞きながら、やたらと喉が渇いた捜査員は冷めたお茶を飲み干していた。