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メイドの杞憂 2

「つまりサマンサの様子がおかしいのね?」


 やたらキョロキョロしながら、ケイトの執務室にやって来たセシリアは、サマンサの不審な行動を目撃した事をたどたどしく報告した。


「イライザ」

「申し訳ございません」

「……あっ、そのっ。おかしい、と言うのは謀反とかそういう感じではなくてですね……」


 ケイトの要約とイライザの顔が多少ピクッとした様子に、セシリアは慌ててそう言って言葉の当たりを少し柔らかくした。


「それは分かってるわ。で、どんな様子だったのかしら」

「あ、はい――」


 セシリアは少し落ち着いて、このところ、サマンサが3食出される牛乳を4分の1程残し、私物のマグカップに移して部屋に帰っている、と言うことを説明した。


「なるほど、チーズでも作っているのでしょうか」

「それは無いと思うわよ。それにチーズならいくらでもあるじゃないの」

「ふむ。ではヨーグルト――」

「イライザ」

「はい」


 ふざけているようで真剣なイライザは、ケイトのちょっと鬱陶うっとうしそうな言葉で察して静かにする事にした。


「まあ、特に悪事を働こう、っていう様子でもなさそうだけれど、アイリスに確認させるわね」

「お任せを」

「ぴゃッ」


 自分を超していくケイトとイライザの視線を追いかけてセシリアが後ろを向くと、いつの間にかアイリスがいて仔猫の様に飛び上がった。


「い、いらっしゃいましたっけ?」

「はい。1時間程前から」


 茶目(ちゃめ)っ気一切無しの真顔でアイリスは答え、失礼致します、と主人へ言って部屋から音も無く出て行った。


「じゃあ、セシリアは仕事に戻って頂戴」

「あっ、はい。失礼致します……」


 まだ少々落ち着かない様子ではあるが、指示に従ってセシリアも部屋を後にした。


「そういえば、アイリスってウチに来る前は何をしていたのかしら」

「彼女はとある暗殺部隊に籍を置いていたそうです」

「なのになんで橋の下で大怪我してたの?」

「どうも組織に捨て鉢にされたようです」

「なるほどね……」


 ケイトはアイリスの受けた苦痛を思い、さするように自身の胸の辺りに手を触れた。


 アイリスが所属していた組織は、現在すでに国軍の掃討作戦によって消滅しており、その際、幹部は戦闘員を残して国外脱出を計ったが、沿岸警備隊によって射殺されていた。


 生き残った戦闘員は自害派とゲリラ派に別れ、ただ1人投降を選んだアイリスは双方から追われ、その総員25名の刺客を全員返り討ちにした。


 しかし、自身も重傷を負って死を待つばかりだったが、


『だ、大丈夫、ですか?』

『……』

『あ、お嬢様!』

『イザベラッ! お医者様呼んで! 早く!』

『承知いたしました』

『な、ぜ……?』

『怪我してる人を、放っておくわけにはいかないでしょう?』


 幼少期に家出して偶然やって来たケイトに発見され、アイリスは一命を取り留め、ケイトがメイドとして雇用して今に至っている。


「――アイリスは、お嬢様に手を差し伸べていただいた事で、心の底から救われた事でしょう」

「そうなら、良いのだけれど……」

「きっとそうであると、私は思います」

「ありがとうイライザ。……本人がいないのに、こういう話は良くないわね」

「私もそう思います」

「そう。ところで、秘書がいなくなっちゃったわね。イライザ、クリス呼んで頂戴」

「はいー」


 2人は話を打ち切り、何事も無かったかのように執務を再開した。


 とっぷりと日が暮れた頃。


 ケイトがやや夕食を遅らせる程、忙しく書類を片づけている中、


「……」


 夕食後、マグカップに牛乳を移して、自室へと向かうサマンサの後をアイリスがこっそりと追いかける。


「何も無い、ですよね……?」


 サマンサは上手く隠したつもりでいたが、完全に今回もセシリアにバレていて、そのやや不自然な背中を彼女は祈る様に見つめていた。


 サマンサは2階に上がったところで、フッと振り返ったが、アイリスは素早く跳び上がって天井に張り付くことで気付かれなかった。


 音もなく柱の陰に降り立ったアイリスは、天井裏に忍び込むためにメイド服を脱ぎ、下に着ていたスキニーなジャンプスーツ姿になった。


 しかし、念入りに周囲を確認したサマンサがドアを開けた瞬間、


「あっ、こらっ」


 仔猫が2匹元気いっぱいに鳴きながら廊下へ飛び出し、アイリスの前を通過した事で天井裏へ入る理由が完全に無くなった。


 その翌朝。


「なるほど。捨て猫にご飯をあげてたのね。責任もってお世話するなら飼ってもいいわよ」

「ありがとうございます。か、隠していて、申し訳ありませんでした……」

「なぁんだ、ねこちゃんでしたか……」

「良かったわねセシリア」

「はいっ」

「心配かけてスマン……」

「いえいえ……、疑ったのは私ですから……」


 ケイトに呼ばれて執務室にやって来たサマンサは、いたたまれない様子でケイトとセシリアに謝罪した。


「お名前は何にされたんですか?」

「まだ決めて無くてな……。変な名前つけたら可愛そうだし……」


 困ったように笑うサマンサの腕の中では、濃度が違う茶トラの兄弟2匹が、みーみーと元気に鳴き声を上げていた。

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