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高田つぐみのひみつ  作者: 車男
7/7

つぐみと雨の日・前編

 「わー、雨ひどいなあ…」

玄関ドアを開けると、外は土砂降りの大雨だった。昨日の天気予報でかなり雨が降るといっていたので、準備などを考えていつもより早めに家を出た。いつものように素足のままスニーカーに足を入れ、背中にリュックを背負ったまま雨合羽をかぶる。上下に分かれているタイプもあるけれど、私のはワンピースタイプ。なので足元は雨の日にいつもビショビショになってしまう。もう慣れちゃったので問題はなし!

「いってきまーす!」

フードもかぶって、素足履きのスニーカーでぐいとペダルを踏む。足元は雨合羽に覆われていないので、靴の隙間から雨が中に入り込んで、すぐに靴の中はビショビショ。でもそれが気持ち悪くて気持ちよくもある。この微妙な感覚は、私にしかわからない…!

「あとはここを曲がれば…!」

学校まであと少しというところの曲がり角、そこをスピードを落とさず曲がった先に、人がいた!

「きゃあああ」

ガシャン。やっちゃった、一瞬目の前が真っ黒になった。

「いったあ…」

「すみません!大丈夫ですか!?」

「あ、こちらこそごめんなさい!大丈夫…あ、ことりちゃん!」

派手にこけてしまった私に傘と手を差し出してくれているのは、同じクラスのことりちゃんだった。どうやら衝突は避けられたらしく、私を心配そうに見つめている。

「私はどこも…。それより高田さん、血が…」

「え、血…?ひゃあああ」

右ひざのあたり、こけた拍子にすりむいてしまったのか、血がにじんでいた。それに気づいた瞬間から、じんじんと痛みがやってくる。手のひらも擦り傷があって、じんわり血が出ていた。

「うああああ、いたいいい」

「は、はやく保健室行こう!」

「う、うん、ありがとう!」

ふたりで協力して自転車を起こして、じんじんする右足を引きずりながら、校門をくぐって自転車を所定の位置に止めると、保健室に一番近い昇降口から校舎内へ入る。校舎1階には昇降口が何か所かあり、私たちの靴箱は別の場所にあるため、ことりちゃんは黒いローファーを脱いで白いソックスのまま、私はスニーカーを脱いで裸足のまま、廊下をペタペタと歩いて保健室へ向かう。肩を貸してくれたことりちゃんは、雨でぬれて汗もかいているはずなのに、ふんわりといい香りがしていた。

「こんにちはー」

「失礼しまーす」

保健室へ入ると、そこには先生も生徒も誰もいなかった。朝の会議とかに出ているんだろうか。とりあえず消毒をしなければ、ばい菌が入ってしまう。

「えっと、消毒、しなきゃ、だよね」

ことりちゃんが白ソックスのままあわあわと保健室の棚を見ている。背伸びをしているときに雨でぬれて灰色になった足の裏が見えて、こういう状況なのにドキドキしてしまう。

「う、うん、えっと消毒液と包帯はそこにあって、あとタオルがそこに」

「うん、わかった!」

一応保健委員なので、どこに何があるかは一通り頭に入っていた。おかげで消毒とガーゼ、ケガした部分を包帯で巻くところまでできた。

「ありがとう、ことりちゃん!手際、いいね!」

「そんなことないよ、だた弟がいて、よくケガして帰ってくるから」

「弟いるんだ!そっかー、やさしいお姉さんだね!」

そう声をかけると、ポッっと頬を赤くすることりちゃん。かわいい。

「…い、一応、他にもけがしたところないか見てみてもいい?」

「うん、お願い!」

私はそう言って、足を前に伸ばす。ことりちゃんは私の前にしゃがんで、太ももから足先、足の裏まで丁寧にけががないか見てくれた。雨にぬれていたためタオルで一通り拭いたけれど、素足で靴を履いていた分、においがしないか心配だった。あと、裸足でここまで来たから足の裏もちょっと汚れてたりしないかな…?私の心配をよそに、ことりちゃんのチェックは無事に終わった。他にけがしたところはなかったらしい。足の裏を見てるとき、なんだか目つきの真剣さが増した気がするけど、気のせいだよね…?

 手のひらのけがも同じように処置を済ませたころ、保健の先生が戻ってきた。事情を話して、きちんと処置ができているのを確認して私たちは保健室を後にした。裸足と白ソックスで、ペタペタと歩く。

「ほんとにごめんね!ケガ、すぐ治るといいけど…」

「いや、ほんとに私こそ!びっくりさせちゃってごめんね!あと、これありがと!」

そんな話をしていると、ホームルーム開始の予鈴が鳴り響いた。あと3分以内に教室へ入っていなければ、遅刻だ!

「やば!遅刻しちゃう!」

「ほんとだ!あ、でも上履き…」

ことりちゃんに言われて気づいた。私もことりちゃんも、近い昇降口で靴を脱いだままで、上履きを履いていなかった。けれど、私にとっては遅刻する方がもっとまずい…!無遅刻無欠席を狙っているんだもん!

「そのまま行っちゃおう!遅刻するといろいろメンドウだよ!上履きはまたあとで取りに来たらいいし!」

ことりちゃんは少しの間考えている様子だったけれど(その間ずっと白ソックスの足をもじもじさせててかわいかったなあ)、ようやく決心したらしく、

「わ、わかった!私もこのままいく!」

「おっけ!急ぐよ!」

私はリュックを背負いなおして裸足のまま、ことりちゃんはスクールバッグを肩にかけて白ソックスのまま、ペタペタと雨でじんわりした廊下と階段を駆け上がる。右足のケガが少し痛むけれど、あまりひざを曲げないように注意して。そして無事に、先生が来る前に教室に入ることができた。

「はあはあ…よかった、間に合った…」

膝に手をついて息切れしていることりちゃん。

「ことりちゃん、けっこう速いね!私についてくるなんて!」

「た、高田さん、速いよお…」

「あ、先生来た!じゃあまた後で!」

「う、うん!」

担任の先生が入ってきて、ホームルームが始まった。今日のスケジュールや注意事項を簡単に説明する。私はその間、教科書やノートをリュックから机に移す。ついでにイスの下から足をのぞかせて、足の裏を見てみると、雨で汚れが付きやすいのか、すでに黒っぽくなっていた。ことりちゃんはというと、私の席から足元は確認できないけれどちゃんと前を向いて座っているみたいだった。ソックスのままで結構歩いてるし、汚れちゃってるんじゃないかな?それに周りを見てみると、雨で靴下が濡れたのか、素足のまま上履きを履いている生徒が何人か。中には上履きを脱いで素足を机の棒に乗せたり、イスの下で組んで足の裏を見せつけていたりしてて、私はドキドキしていた。これがあるから、雨の日は結構好きなんだよなあ。あ、そういえば1時限目は何だったっけ、あ、そうか今日は…。

「じゃあ1時限目、…生物か。遅れるなよー」

担任の先生はそう言ってさっと教室を出ていった。これはまずい。生物の先生は遅刻に人一倍厳しい。前にチャイムが鳴り終わるころに入ってきた生徒にかなり厳しく注意していたのを思い出す。注意するだけじゃなくて減点までされちゃうからたまったものではない。生物の教科書を出していると、ことりちゃんがそうっとやってきた。

「た、高田さん、上履き、どうしよう…」

相変わらず白ソックスだけの足をもじもじさせて、頬に手を当て困った表情をすることりちゃん。ああ、かわいい…。

「うーん、一旦取りに行ってまた戻ってくると確実に間に合わないよね、生物…」

「だよね…」

「私はこのままいくけど、ことりちゃんはどうする?」

そう言って私は裸足のまま立ち上がる。少しの間考えていたことりちゃんだったけれど、バタバタとみんなが準備して出ていくのをみて、決断をしたらしい。

「私も、このままいく…!」

「おっけ!」

ことりちゃんは教科書類を持つと、私に続いて早歩きで廊下を歩き出した。ことりちゃんの後ろに回って白ソックスを見てみると、やはり雨でじめじめして汚れが付きやすいくなっていて、歩くたびにちらちら見える足の裏は、早くも真っ黒になっている。ことりちゃん、気づいてるのかな…?こんなかわいい子が、靴下を真っ黒にしてるなんて、素足好きの私だけれど、靴下女子というのもなかなか好みだと気づいた。かくいう私も裸足でペタペタ歩いているわけだけれど。

「あ、つぐ!ことりちゃん!こっちこっち!」

生物室に着くと、先に来ていたつばめちゃんが私たちを呼ぶ。ここでは同じ班なのだ。

「あれ?二人とも上履きどうしたの?今日水曜日だよね?それにつぐ、足…!」

「あー、ちょっといろいろあってね、えへへ…」

上履きを履いていないことを指摘されて、私はほとんど気にならなかったけれど、ことりちゃんは結構恥ずかしかったらしく、頬を赤くして恥ずかしそうに笑っていた。

 生物が終わり、教室に戻る。授業がオーバーしたために、靴箱に行く時間はなく、私とことりちゃんは上履きなしのままだった。教室に帰る途中、私は気になっていたことをことりちゃんに告げてみる。

「また時間、無くなっちゃったねー。ことりちゃん、靴下、大丈夫?」

「え、大丈夫って…?」

「いや、その、けっこう汚れてるっぽいから」

「え、ウソ!?」

どうやらことりちゃんは自分が靴下を汚しながら過ごしていることに気づいていなかったらしく、廊下の端っこに立ち止まって、足の裏を確認した。ちらちら見えていた白ソックスの足の裏が、目の前に。床についていた部分は、ホコリや砂で真っ黒に、足の形が浮かび上がっているのだった。

「ひゃああ、真っ黒…」

「あらら…」

「ど、どうしよう、お母さんに見せられないよ…。替えの靴下も忘れちゃったし…」

目をウルウルさせて私に訴えることりちゃん。すごく、かわいい…。

「じゃ、じゃあさ、私みたいに裸足で過ごしたら?ほら、裸足だったら足洗えばいいし!靴下は脱いで後で洗っとけば、なんとかなるよ、きっと!」

廊下の端っこでとてもドキドキする会話をしているな。ことりちゃんはまた少し考えると、

「う、うん、わかった、じゃあ私も、裸足になる!」

小さな決断、だけどそれを聞いて私はさらにドッキドキ。しかもことりちゃんは、人通りもある廊下でそのまま靴下を脱ぎ出した。右足の膝をまげて、するすると下すと、つま先部分をつまんで、スポッっと靴下を脱ぎ去る。左足も同じように。そばを歩く男子が、あわてた様子で過ぎ去っていった。真っ黒になった靴下を見て、ため息をつく、裸足のことりちゃん。ああ、かわいい…。

「ほんとに真っ黒…。早く洗わないとな」

ことりちゃんがつぶやいたとき、廊下にチャイムが鳴りだした。次の授業が始まった!

「あわわ、ことりちゃん、はやくいこっ」

「あ、う、うん!」

裸足の私たちは、お互いにペタペタと足音を響かせながら、教室を目指した。

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