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高田つぐみのひみつ  作者: 車男
6/7

つぐみと新しい上履き

 「おはよう、つぐ!」

「あ、おはよう!」

校門をくぐったあたりで、つばめちゃんと会った。今日もストレートにした髪が決まっている。風が吹くとふわっとなびいて、いい香りが私を包む。

「そうだ、今日届くんだっけ、新しい上履き!」

「上履き?…あ、そっか!」

新学期始まって2回目の月曜日。それは演技ではなく、土日の休みを挟んだせいで、今日上履きが届くことを私はすっかり忘れてしまっていた。そっか、裸足生活、今日でおしまいなのか…。ちょっと残念。

「わたしもちょっと購買に用事あるし、一緒に行くよー」

「そう?ありがとう!」

昇降口につくと、私は素足で履いていたスニーカーをぐいぐいと脱ぐと、汗ばんでペタペタする足を、相変わらずどこかからとんで来た砂でざらざらするすのこに載せた。つばめちゃんが上履きに足を通すのを見ると、その足を踏み出す。

「つぐって、ほんとに裸足好きだよねー。結局先週の1週間、ずっと裸足のままだったよね。スリッパ借りたらよかったのに」

「まあ、上履きがなかったからねー。スリッパは歩きづらいし!」

「部活のシューズとか、無かったっけ?」

「それ履いちゃダメな感じだったし、1週間くらい、我慢できるよ!」

「もう、そんなこと言ってー。足の裏、毎日真っ黒だったでしょー?」

「えへへー」

なんなら、ずっと裸足でも全然いいんだけど。それは色々アウトだろうから、大人しく私は購買へ行くと、約束通りとっておいてもらった真新しい上履きを受け取った。購買のおばさんはとても申し訳なさそうにしていて、なんだか私も申し訳なくなってしまった。

「ほんとに待たせてしまって、ごめんなさいね。大丈夫だった?」

「はい、なんとかなりました!」

「次はこんなことないように、在庫確認しとくからね!」

上履きを受け取った私は、それをその場で履くのがなんだか惜しくなって、箱に入れて手に持ったまま、教室へ向かった。裸足のまま、ペタ、ペタ…。購買のおばさんはたぶん、大丈夫かなあの子、とか思ってたりするのだろう。

「あれ?つぐ、上履き履かないの?」

いつ食べるのか、チョコのお菓子を買ったつばめちゃん。手に持った上履きと裸足の足を見比べながら不思議そうに聞いてくる。

「うん、足汚れちゃったから、一度拭いてから履くよ」

実際、靴箱から購買までしか歩いていないので、そこまで汚れはついていなかったけれど、つばめちゃんも、

「そっか、新しい上履きをいきなり汚したくないもんね!」

と納得してくれた。

 教室に着くと、上履きを手に入れてもなお裸足のままなのを疑問に思ってか、何人かに話しかけられたけれど、後で履くよ作戦を使ってひらひらとかわしていく。席に着き、上履きを箱から出すことなく床に置く。そのまま教科書とかの準備をしていると、やがてホームルームが始まった。なんやかんやで、裸足の足は机の棒に置いたままだ。

「じゃあホームルームはここまで!1限目は移動教室だから、遅れるなよ!」

担任の先生が教室を出ていくと、クラスメイトはそれぞれ1限目の準備を始めた。

「つぐー、化学だよ、行こう!」

「あ、うん!」

わたわたと教科書などを準備すると、私は裸足のままペタペタと教室を出た。

「あれ?つぐ、上履きは?」

「あはは、時間なくってさー、後で履くよ!」

「…つぐ、上履き履く気、ないでしょー?」

「えー、そ、そんなことないよー」

そんなことなくはないんだけれど、やっぱりもうちょっと裸足でいたくって、化学室まで裸足のままペタペタ向かうことにした。

「あ、高田さんちょうどよかった!ちょっと実験器具持ってくるの手伝ってくれないかな!?」

化学室に入ったとき、化学の先生と目があってしまって、授業準備を手伝うことに。

「いいですよー」

「あ、わたしも行きますー」

机に教科書を置いて、つばめちゃんと一緒に、化学準備室に入る。掃除があまりされていないのか、廊下や化学室よりも床のざらざらが激しい。気がするんじゃなくて、明らかに掃除してないでしょここ、って感じ。でもそれが逆に私にとってはドキドキして、先生やつばめちゃんに気づかれない程度に意味もなくうろうろ、足の裏をこしこし…。器具は一度では運びきれずに、3回往復してようやく運び終わった。最後に化学準備室を出るときに足の裏を見てみると、半日過ごした時みたいに、灰色に汚れがついていた。いいとこ見つけたな!

 教室に戻り、2時間目は国語。友達と話をしていると休み時間はあっという間に終わり、足を拭く暇もなく授業が始まる。そのまま3,4時間目と裸足のまま授業を受けると昼休み。つばめちゃんはもう上履きについて言うこともなくなり、私も上履きの存在を忘れかけていた。お弁当を開いて食べようとしていると、もう一つ忘れていたことを思い出す。

「…あ!私、今日当番の日だった!」

「え、やばいじゃん!早くいかないと!」

「ごめんね!また明日一緒に食べよう!」

”当番”というのは、水泳部のことで、新入生が話を聞きに来るかもしれないということで、毎日交代で昼休みも部室になければいけないことになっていた。今日の当番は私と、同じ2年生の子だった。きっと待っているんだろうな…!

 私は素早くお弁当を包むと、上履きを履くことなく裸足で教室をでた。走ると怒られるので早歩きで、タンタンと裸足の足音を廊下に響かせながら体育館棟の部室を目指す。

「ごめんね、おそくなって!」

ざらざらの外階段を上がってようやく到着。ずっと裸足で早歩きをして来たせいで、さすがにちょっと足の裏が痛い。

「いいよー、スマホ見てゆっくりしてたから!誰も来なかったし!」

一緒の当番の子は穏やかな性格の子で、でも泳ぎは速かった。怒ってなさそうで、一安心。

「…あれ、つぐちゃん、また裸足なの?」

「あ、うん、急いできたもんだから、えへへー」

やっぱり制服に裸足だと目立つようで、思い返すと、ここまでの道のりも、すれ違う人はみんな私の足元を一瞬でも見ていたような気がする。そんなに気にならないけど!

「ねね、裸足ってやっぱり涼しいよねー。…ウチも裸足になろうかな」

私が席に座ったところで彼女がそう言うもんだから私は目を輝かせて、

「うんうん、気持ちいいよ!床ひんやりするし!」

と裸足を全力で推してみる。すると食べていたパンを一度置くと、彼女は横を向いて、

「それじゃあ今の間だけ、靴下脱いじゃおうっと」

そう言って上履きを脱ぎ、するすると、履いていた紺ソックスを脱いでいった。脱いだ靴下は一緒にして丸めて床に置く。

「ふうー、ほんとだ、冷房が気持ちいい-」

そう言いながら、足を伸ばして指をくねくね、くねくね…。お弁当の味もわからないまま、そっちに視線を固定して、お弁当を口に運んでいく。ああ、かわいい…。爪には何も塗っておらず、水泳部らしく、少し日焼けした素足。それが目の前でくねくねと動いている…!前にも一度言ったかもしれないけれど、私は自分が裸足になるのも、他の子(特に女子!)が裸足になっているのを見るのも好きなのだ。できることなら裸足仲間を作って一緒に裸足で過ごしたい!…けれど、なかなかそんな気が合う子はおらず…。

 せっかく裸足になってくれた彼女も、

「あ、そろそろ授業の時間だねー。教室に戻ろっか。誰も来なかったね」

そう言いながら、脱ぎ置いていた靴下を再びするすると履き、上履きもしっかり履いてしまった。やっぱり普通は靴下を履くものなんだろうな。当たり前か。ちょっとがっかり。

 部室に鍵をかけ、返すと、私は裸足のまま、教室へと戻った。戻ったところで次の授業も移動教室だったことに気づく。いけないいけない!早く準備していかなきゃ!

 「起立、礼」

「はい、あまり遅くまで残らないようにー」

ホームルームが終わり、私は荷物を持つと教室を出た。足元は(もちろん?)裸足のまま。結局この日一日、移動教室などですっかり真っ黒になった足を拭いて上履きを履くタイミングが見つからず、そんな気も起きず、裸足のまま過ごしてしまった。まだ箱から出されてもいない上履きは、そのままカバンの中に入っている。持ち帰って名前を書いて、また明日持ってくるつもりだった。今日も部活の練習があるので、昼休みぶりの部室へ向かう。さて、今日も泳ぐぞー。


 翌日、相変わらず素足にスニーカーを履いて、自転車をこいで登校する。昇降口に行くと、つばめちゃんがちょうど靴を履き替えているところだった。

「おはよ、つばめちゃん!」

「あ、おはよー。今日はちゃんと上履き履くんだよー」

「あはは、だいじょうぶだよー、昨日名前を書いて…」

そう言いながらカバンに手を突っ込む。明らかに、箱がない。

「書いて…?」

「…部屋に、置いてきた…」

「うそん…」

火曜日、今日も一日、裸足生活が確定しました!!(やった!!)


つづく


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