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高田つぐみのひみつ  作者: 車男
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つぐみと体力測定

 「つぐー、着替えにいこ!」

「あ、うん!」

木曜日の2時間目の授業が終わると、みんな体操着入れをもって教室移動を始めた。私は相変わらず裸足のまま、つばめちゃんと小鳩ちゃんと一緒に、体育館へ移動する。次の授業は、体力測定。体育館とグラウンドを使って、様々な種目を行う。まずは体育館の奥にある女子更衣室で体操着に着替える。春ということもあり、そんなに寒くないのだけれど、女子はほとんどが上下のジャージを着ていた。そんな中で、私はとりあえず、上のジャージだけ着ることにした。といっても、さっそく腕まくりをしているのだけれど。下はひざ上のハーフパンツのみ。裸足なのがさらに強調されてしまうけれど、上下ジャージはさすがに暑い!私の学校には体育館シューズはないので、みんな上履きのまま集合する。上履きのない私は、もちろん裸足のまま。部活のトレーニングシューズはあるけど、校則でそれは使えないことになっている。

「それでは、各自空いているところから回っていってください!体育委員と保健委員は、持ち場についてください!」

「あれ?つぐって保健委員じゃなかったっけ??」

「そうなんだー。だから、基本、救護のところにいて、空いた時間で一気に回らなきゃいけないんだー」

「そうなの!?」

「ごめんね、見つけたら一緒に回ろ!」

というわけで、あらかじめもらっていたプリントに改めて目を通す。保健委員はこの体力測定の時間中、救護班として活動する。体育館の一角に設けられた机での待機だ。2年生の保健委員は、各クラス2人、8クラスあるので、そのうち2人ずつ、時間ごとの交代制になっている。

 くじ引きの結果、4組からスタートで、20分交代だ。机に向かうと、すでに私のクラスのもう一人の保健委員、鴨井くんが座っていた。自分で持ってきたのか、読書に興じている。私もその横のパイプ椅子に腰かける。

「おつかれー。本、持ってきたんだ」

「おつかれ。うん、暇だと思って」

鴨井くんは2年生で初めて同じクラスになった。眼鏡をかけていて、まじめそうな印象。保健委員がとても合っている。話してみると、意外と話しやすかった。

「鴨井くんは、スポーツ得意?」

「ううん、ぜんぜん。体は堅いし、足は遅いし、ボールは飛ばないし、いいとこないよ」

「そうなんだ…、でもがんばろうね!」

「やだなー、体力測定。高田さんは、水泳部だし全部平均以上だよね」

「そんなことないよー。持久力ないからなー。あと、反復横跳びが苦手なんだ。足の動きがわからなくなっちゃって」

そう言って、今自分が裸足なことを改めて意識する。去年は入学したてだったから、始めは上履きに靴下を履いていたけれど、途中で嫌になって、反復横跳びあたりから裸足になったのを思い出す。あの時はほかの女子もつられて裸足になってたっけなあ。

「僕も苦手かなあ。…それにしても高田さん、裸足ってかなり気合入ってるよね」

「え、えへへー、そうかなあ」

別に気合入れてるわけじゃないんだよなあ…。理由を話すと長くなりそうだし、男子にこのことを話すのは何となく恥ずかしくって、私はそういうことにしておいた。特にやることもなく、スマホなんて使ってたら一瞬で没収されちゃうので、ぼーっと体育館で頑張るみんなの様子を観察していた。すでに鴨井くんは読書に戻っている。パイプ椅子の棒を足でモミモミしていると、握力や長座体前屈など、体育館での運動のほとんどを終えたつばめちゃんたちがやってきた。

「つぐー、元気してるー?」

「うん、ヒマだよー。まだかなあ」

「あと5分くらいじゃん!わたしたち、今からあっちの方行くけど待っとこうか?」

「大丈夫!これ見せたら、待ち時間なく行けるらしいから!すぐに追いつくよ!」

私の右腕には、『保健委員』の腕章が付いている。これを見せれば、某遊園地のファストパスのように、待っている人がいても割り込んで測定することができるのだ。特権特権。

「わあ、そうなんだ!じゃあ先に行ってるね!」

「うん!急いで行くね!」

そして20分後、交代の保健委員が来ると、私はすぐそこでやっていた、長座体前屈などを手早く終え、二人の向かった方へ急いだ。長座体前屈といえば、足を前に伸ばして体を曲げる種目だが、真っ黒な足の裏を前に投げ出すのはかなり恥ずかしかった。向こう側から見たら丸見えだ。何とか見えないように、指を折り曲げてやったせいで足がつりそうになった。ぎりぎりセーフだったけど。二人は反復横跳びの列に並んでいて、ちょうど私が参加したときにやるところだった。

「あ、保健委員さんも一緒にやりますか?では二人組を組んでください!」

「つぐー、わたしと組もう!」

「いいよ!でも小鳩ちゃんは?」

「あそこ、去年の同じクラスの子と組んでるよ!」

「それならよかった!じゃあ私からいい?」

「うん!」

というわけで、まずは私から測ることになった。去年と違ってすでに裸足なので、準備万端だ。

「これ、苦手なんだよなあ」

「とにかく、足を速く動かす!だよ!」

準備のため、床に貼られたテープをまたぐ。周りは男女混ざっていて、裸足なのはここでも私だけだ。

「では行きます!30秒間です!よーい!」

ピッ!

バタバタと足を動かす。上履きを履いてない分、滑らずにできているがやっぱり足の動きが難しい!明らかに前の女子より動きが鈍い。

ピー!

「終了!ペアの人は、回数を教えてあげて下さい!」

さすがに足裏に痛みを感じつつ、わきによける。回数を聞くと、

「35回だねー」

「うわー、すっくなあ」

「じゃあ次、わたし行くね!」

「うん!」

そう言って、テープをまたぐつばめちゃんの足元を見て、私は途端に気持ちが昂ぶってしまった。さっきまで上履きに靴下を履いていたはずなのに、いまは裸足になっているではないか…!。動きにくかったのか、下のジャージも脱いでしまっている。横を見ると、それが丁寧にたたまれておいてある。その横には、上履きと、その中に丸められたソックス。前を見ると、つばめちゃんの、裸足…!ごくり。

ピッ

笛とともにつばめちゃんがばたばたと反復横跳びを始める。裸足の足が、行ったり来たり・・・。数え損ねないようにしっかりと見る。見る。30秒後、帰ってきたつばめちゃんは座って足の裏をなでていた。

「ふー、裸足でやるのってなかなか足の裏が痛くなるよー」

「えへへ、つばめちゃん、なんで裸足??」

おさえたいのに、顔が嬉しさでにんまりするのを抑えられない。

「え?つぐが裸足でやってて、なんかそのほうがうまくできるかなって思って!」

「そうなんだあ、えへへー」

「もう、何よお、さっきからわたしの裸足見て―」

考えてみると、つばめちゃんの裸足を見たのは久しぶりだ。冬の間はもちろんそんなのなかったし、いよいよ私の好きな季節、夏が近づいてきたのを感じる。

「で、わたしの回数はどのくらいだった?」

「あ、忘れた・・・」

「つぐ、このやろー・・・」

 無事に反復横跳びの記録を終えると(結局、つばめちゃんは測り直しということになった。ごめんね!)、次は上体起こし。裸足のまま、ジャージを履いて上履きと靴下を手に持ったつばめちゃんと移動する。

「どっちからやる?」

「つぐからでいいよー」

ということで、私からやることに。体を寝かせて、足をつばめちゃんに持ってもらう。太もものあたりをぎゅっと抱かれて、素足の上につばめちゃんの重みを感じる。

「はいいきまーす」

ピッ

上体起こしは日ごろのトレーニングでやっているので、平均以上は出すことができた。私の測定を終えると、つばめちゃんの番。体を寝かせて、素足をこちらに差し出すつばめちゃん。つばめちゃんの素足が、目の前に…!ごくり。

「つぐー?まだー?」

「あ、ご、ごめんごめん!」

「もう、またわたしの足見てたでしょー」

「ごめんってー、はい、もった、もったよ!」

ジャージ越しにふにっとするつばめちゃんのふとももを握りしめて、申し訳なく思いつつも、素足の上にお尻をのっける。本当なら手で素足を持ちたいところだけれど、それだと安定しないから仕方ない。涙…!

「はい、おつかれー。がんばったね!」

「きっつ!つぐ、やっぱり鍛えてるとすごいね・・・!」

「まあ、それほどでも…、あるけど!」

 それで一通りの体育館種目が終わったので、みんなにはちょっと待ってもらって、残りの体育館競技をさらっと流すと、グラウンドへ移動する。つばめちゃんはいつのまにか靴と靴下を履いていて、私だけ裸足のまま移動する。ちょっと残念…。昇降口についたところで、私は自分の靴箱から雑巾(足拭き用)を取り出して、足裏をごしごし…。体育館を歩いたりしたせいで、地面についていたところは砂やホコリで真っ黒だ。どうせまた汚れるだろうし、ある程度綺麗になったところで、素足のままグラウンドシューズに履き替える。これも学校指定の、白いスポーツシューズだ。あまり通気性がよくないのか、素足で履くと途端に靴の中がむわっとして、少し気持ち悪い。靴底に残った砂のざらざらが足裏を刺激する。そういえば最近洗っていないような気がする。

「つぐー?靴履いたー?」

「うん、ごめんね、待たせて!」

小鳩ちゃんもお友達と別れたみたいで、ここからは再び3人行動。グラウンドでの種目は、50m走に持久走、立ち幅跳びなど。問題となるのはやはり・・・、

「さて、持久走はいつやろうか?」

「最初か、最後だよね・・・」

「多数決とろうか!最初の人!はい!」

「はい!」

「はい・・・!」

「はい、持久走からいこう!」

というわけで、全会一致で持久走からやることに。女子は1000mを走るらしい。男子は1500mだから、ここは女子に生まれてよかったと心から思う。

「じゃあ女子、スタートします!よーい」

ピッ

素足で履いている靴の気持ち悪さを感じつつも、さすがに1000mを裸足で走るわけにはいかないので、ここは靴を履いたまま頑張ることにする。トラック1周は400mなので、2周半を走ることになる。これも日ごろの体力づくりのおかげか、2人を大きく引き離し、最後の200mへ。と、そのラストスパートに入ったとき、私の左足の靴が、スポン、と脱げてしまったではないか。汗で滑りやすくなっていたのか、ひもが緩んでしまったのか、わからないけれど、とにかく記録は出さなきゃなので、左足は裸足のまま、ラストスパートをかける。残り100mのところで、さらに右足も脱げて(というか自分から脱いで)、さらにダッシュ!ゴール!なかなかの好タイムを出すことができた。少し遅れてつばめちゃん、その後ろから小鳩ちゃんが続く。

「はあ、はあ、つぐ、はやい・・・」

「さすがだね、つぐみちゃん・・・、はあ、はあ」

かなり息切れしている二人を前に、私はすでに息を整えてしまっていた。

「えへへ、水泳部だもん、体力には自信あるよ!」

「てか、靴、脱げてるよ、つぐ・・・、はあ、はあ」

「あ、そうだった!」

裸足になれてしまったせいか、グラウンドの石がところどころ痛いけれど、裸足で歩くのには何の抵抗もない。靴が脱げていたことも一瞬忘れてしまっていた。ペタペタと砂のグラウンドを歩いて、トラックの途中に転がった靴を回収する。砂まみれの足では履けないし、残りの種目を考えても、裸足のままやりたかったので、靴はグラウンドのわきに置いておくことにした。ちなみに、上のジャージは靴箱に押し込んでしまって、半そでTシャツにハーフパンツ、裸足という格好だ。完全に一人だけやんちゃな小学生の格好である。

「つぐー、次、50m走でいい?」

「いいよー、いまいく!」

裸足のままで50m走を走り切り、ボール投げはそこそこの結果に終わり、最後は立ち幅跳び。これが終わったら、お昼ごはんだ!

「ここで踏み切って、砂場の方へ跳んでください。しりもちをついたら、そこが記録になっちゃうので注意してくださいね」

「わかりました!」

立ち幅跳びは、直立の姿勢から足をうまく使って砂場の方へジャンプする。いかに足のばねをうまく使えるかが腕(あし?)の見せ所だ。

「つぐからいいよー」

「はーい、いきます!」

裸足の足先を線に合わせて、腕を振り、膝を曲げ、跳ぶ!砂場にダイブ!あああ、砂のさらさらが気持ちいい!結果は、去年とあまり変わらないみたいだった。考えてみると、確か去年も、外の競技は50m走あたりから裸足になっていた気がする。

「はい、お疲れ様でしたー。先生に提出して、体育館へ向かってください」

一通りの種目を終え、私は靴を手に持って、昇降口へ。つばめちゃんたちも、裸足になってくれないかなと期待したけれど、さすがに外ではそれも難しかったらしい。

「あ、ごめん、足洗うからちょっと待ってて―」

「いいよ!わたしたちも、手を洗おうか、小鳩ちゃん!」

「うん、そうだね」

昇降口横の足洗い場で、裸足に付いた砂を落とす。立ち幅跳びとかは個人的に、裸足でやったほうが絶対いいと思うんだけど、立ち幅跳びゾーンを見ても、私のほかに裸足でやる人はいないらしい。かなり冷たい水で洗うと、雑巾で拭いて、再び裸足のままぺたぺたと校内へ。きれいになった足が、放課後にはまた汚れてしまう。それを考えるとまたドキドキしてきた。


つづく


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