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高田つぐみのひみつ  作者: 車男
2/7

つぐみの放課後

 「あれ?つぐ、上履き取り行ったんじゃなかったの?」

「それがさあ・・・」

体育館での始業式を終え、教室に戻って大掃除、というタイミングで、私はいったん靴箱へ向かった。別に一日中裸足でもよかったのだけれど、さすがに新学期からそれはまずいかなと思った。しかし、自分の靴箱を開けても、そこに上履きはなかった。ほかの人のかなと思って、その周辺を探したけれど、どこにもない。盗られたかな、とも思って、終業式の日のことを思い出す。そうだ。かなり汚れていたから(毎日素足で履いていたせいかもしれないけれど)、持って帰ったんだ。忘れてた!

「・・・というわけで、今日はずっと裸足で過ごすよ」

「それは災難だったね・・・。でも、なんかうれしそうじゃない、つぐ?」

「え?ぜんぜん!そんなことないよ!」

そうは言いながら、今日この後もずっと裸足ということを意識すると、気持ちが昂ぶってしまう。体育館で確認すると、今朝より汚れはひどくなっていた。このまま放課後まで過ごすとどうなるんだろう。わくわく・・・!

 私の掃除場所は、教室前の廊下があてがわれた。そんなに面積も広くないので、私と、出席番号順で私の次の女の子の二人で担当する。2年生で新しく同じクラスになったその子は、田端小鳩ちゃんというらしい。身長は140㎝くらいか。おさげがかわいい、妹みたいな子。

「よろくね、高田さん・・・、なんで、裸足?」

やっぱりそこ、気になっちゃうよねー、と思いつつ、経緯を説明すると、

「何となく、なっとく・・・」

納得してくれたらしい。大人しめの子で、私から話しかけると答えを返してくれるけれど、なかなか話が続かない・・・。廊下掃除は窓も拭くらしく、担任の先生が持ってきてくれた新聞紙に水を付けて(新聞紙で拭くことで、傷が付きにくくなるらしい)、教室から持ち出した椅子(廊下側の一番後ろの名前も知らない男子の)に乗る。汚れた足のまま乗るのはちょっと気が引けるけれど、最後にちゃんと拭くから許してね・・・!

 窓の上の方を拭き、下の方は椅子に膝をついて拭く。ようやく一枚拭き終わろうとしたとき、肩をちょんちょんとつつかれた。振り向くと、小鳩ちゃんが耳元でこっそり、ささやいた。

「つぐみちゃん、足の裏、丸見え・・・」

「ふえ!?」

あわてて下を見ると、膝を椅子の上に着いたせいで、真っ黒な足の裏を廊下を行き交う人々や教室掃除の人々に見せつける形になっていた。裸足好きの私でも、これはさすがに恥ずかしい・・・!真っ赤になりながら椅子からおりて、小鳩ちゃんの耳元でこっそり、

「ありがとう・・・!」

そう言った。何かもう一言付け加えようとしたけれど、恥ずかしさからそんな余裕はなかった。

 その後は椅子に立って上を拭き、椅子から降りて下を拭き、を繰り返し、窓が無事に(?)拭き終わった。椅子の上も忘れずきれいにして、教室に戻すころには、教室掃除も終わっていた。

 大掃除も終わり、今日は後2科目テストを受ける。昼食前には帰れるので、テストが終わったらつばめちゃんとランチでも食べに行きたいな。今日の科目は国語・数学。明日は英語を受けて、その後は授業が始まるらしい。裸足の足を机の棒に置いたり、椅子の下で組んだりしながらテストを受け、ようやく放課。結局一日中裸足で過ごしてしまった。途中恥ずかしい場面もあったけれど、やっぱり裸足生活は楽しいな。気持ちいいし。

「つぐー、おつかれー。どっか食べ行かない?」

「あ、私もそう思ってた!駅前の〇ックいこ!」

「またあ?つぐ、〇ック好きだよね、ほんと」

「えへへー、だってクーポンあるし、ポイントたまるし!」

「主婦か!」

つばめちゃんにはそんな風に言ったけれど、私が〇ックを好きな理由はほかにもある・・・。


 「ごゆっくりどうぞ」

「ありがとうございます!つばめちゃん、席、どこにする?」

「うーん、けっこう多いね・・・。あ、あそこは?」

そう言ってつばめちゃんは窓際の席を指さした。

「あ、いいね!」

私は窓側から店内を見渡せるほう、つばめちゃんはその反対側に座る。座った途端、私はテーブルの下でごそごそと左右のスニーカーをすり合わせ、脱いでしまった。靴の中で包まれていた素足を開放する、ちょっとお行儀は悪いけれど、この瞬間も大好きだ。脱いだ素足でテーブルの足に触れてみる。金属製の脚はひんやりしていて、素足で挟むとさらに気持ちいい。そのまま足を伸ばしたり、椅子の下で組んだりしつつ、つばめちゃんとのお話を楽しむ。椅子の下で組むと外の人からは私の足の裏が丸見えだけれど、ちゃんとあの後、スニーカーを履く前に足を拭いたから大丈夫。といっても完全に元の肌色に戻ったわけじゃないけれど・・・。

 つばめちゃんとの会話を楽しみつつ、私は店内のほかのお客さんの方に目を向ける。私の学校から近いということもあり、店内には同じ高校の生徒の姿が多い。中には私の視線をくぎ付けにする子も・・・いた。4人席に座った女子生徒。髪を一つ結びにして、後ろ向きに座っているから顔は見えないけれど、椅子の下でローファーを完全に脱いで、紺ソックスの足が露わになっている。さらに向こうのテーブルでも、女子生徒がローファーを半分脱いで、白ソックスの足の指でもてあそんでいた。私が〇ックを推すのは、同じ学校の生徒が多くいて、こういった光景が日常茶飯事に見られるからである。ただそちらに集中してしまうせいで、時々つばめちゃんの話が聞こえなくなり、

「ねえ、つぐ、わたしの話、きいてるー?ねえ、つぐー?」

「・・・っへ?え、なんだっけ??」

「もう!またほかの子見てたでしょ!?」

「ごめんごめん!」

つばめちゃんをしばしば怒らせてしまう。そんなとき、つばめちゃんは、

「わたしの話をきかないつぐには、こうします!」

「うわ!」

器用に私のスニーカーを奪い取ると、自分の椅子の下まで没収してしまうのだ。

「ごめんって~」

そう言いながら、私は素足でつばめちゃんの足をさわさわ。紺ソックスを下げたり、あげたりしているとくすぐったくなって、

「も、もう!今度は気を付けてよね!」

そう言って、私の方へ返してくれる。いつものルーティンである。


 「ただいまー!」

「おかえり~」

〇ックでのランチを終え、帰宅する。帰宅してまず真っ先に向かうのは、浴室だ。シャワーをお湯にして、足にかける。ボディソープを泡立て、足をごしごし・・・。学校で一日過ごした後、スニーカーを履く前に一度雑巾で拭いたけれど、まだ汚れが残っていた。素足で過ごすのは楽しいし、大好きだけれど、その分しっかり手入れしておかないと、傷んだりにおったりしてしまう。今のスニーカーも、靴擦れしないものを選んで履いている。しっかり洗った後は、自室に戻ってお手入れクリームを塗る。そこまで終わって、ようやく部屋着に着替える。そこで、今日のことを思い出し、

「お母さん、持って帰ってきた上履きって、どこにある?」

キッチンでなにやら作っているお母さんに聞いてみる。この匂いは、ケーキかな。

「えー、上履き?どうしたかしら・・・」

「今日、上履きなくってさー。一日中裸足だったよー」

「あら、それは大変だったわねー。ちゃんと洗った?」

「もちろん!今ごしごしと!」

私が裸足好きで、時たま学校で裸足で過ごしていることも知っている。それを否定しないし、自由にさせてくれているのはとてもありがたい。どうやらお母さんも裸足が好きらしく、家の中では基本なにも履かずに過ごしている。昔もそうだったと、前話したときに言っていた。

「よかった。上履きねー、つぐ、自分で洗ったりした?」

「恥ずかしながら、覚えてない・・・」

「たぶん、捨てたわよ、上履き」

「えっ」

まさかの返事。上履き、捨てられた!?

「持って帰ってきたやつ見て、新しいの買った方が早いなって思った記憶があるわ。言わなかったっけ?」

「聞いてないよー!ほんとに捨てたの!?」

「うちの靴箱のところになければ、そうなるわね」

「見てくる!」

ばたばたと靴箱に向かって、確認する。一通り見てみたが、やはり上履きらしきものはどこにもなかった。

「お母さん、ないよー」

「じゃあ捨てたってことねー。明日、新しいの買ってね」

「はーい」

学校指定の上履きなので、そこらへんのお店で売っているものより割高である。しかも、学校の購買か学校提携の制服店でしか売っておらず、ア〇ゾンとかで買えたら楽なのになーと思ってしまう。

「・・・よし、できたわ」

自分のお小遣いの残りはあったかなと思いつつテーブルについていると、焼き立てのシフォンケーキが出てきた。さっきの匂いの正体はこれか。

「わあ、おいしそう!いただきます!」


つづく

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