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昼は熊カレーセット

 

 よっしゃカレー作るど。


【薬膳箱】をチェック。カレー用の香辛料は……あるね。基本のスパイスであるターメリック、クミンシード、コリアンダー、カイエンペッパーを見つける。


 有名なターメリックはカレーの色の決め手だ。

 クミンシードはセリ科の種。爽やかな香気と食感を楽しめる。

 コリアンダーはパクチーの種を乾かして粉末にしたもの。

 カイエンペッパーは赤唐辛子のこと。


 以前、弟に作ってあげたカレーを思いだす。

 どこで覚えたのか五歳児の弟は、本格的なカレーが食べたいと駄々をこね、「ねーたん、ちゅくって」と舌っ足らずにも我儘を言ったもんだ。


 実家の喫茶店のカレーでは駄目らしい。

 業務用のブレンドでは満足しない弟。お店のカレーは大人用だしねえ。

 かと言って子供用に甘くしたのを母が作っても「ねーたんのカレーたべたい」とくる。あんた結局、姉ちゃんにカレー作らせたいだけじゃないのかい?


 しょうがないから、ネットでカレーの作り方を調べた。スパイス調合を覚え、それだけだと辛いからお子様用にアレンジして、弟に食べさせた。

 弟はハンバーグも好きだからハンバーグカレーにして。頬いっぱいにカレー含んで食べる姿は……まあ、可愛かったから、いいや。


「やっぱハンバーグしゅき!」って言ってたのは憎たらしかったけど。

 カレーじゃないんかい。カレー褒めてよ。五歳児の気まぐれ恐ろしい。

 ああでも、そんな弟にも、もう二度と会えないと思うと寂しいかな……。


 午前中いっぱい熊肉処理しながら、ブイヨン作りとガラムマサラ作りに勤しんだ。

 並行してご飯を炊いたり、チャパティ作りの用意もしている。

 個人的にカレーにはライス派なのだけど、朝の無発酵パンが意外とウケていたのでチャパティも。


 チャパティは全粒粉、塩、水だけで作れる簡単な無発酵パン。

 材料を混ぜて練り上げて、濡れ布巾をかけて寝かせておく。


 熊肉処理は昨日と同じで、下茹でして臭み消してからの圧力調理である。


 ブイヨンは、ざく切り林檎と香味野菜と捨てずにとっておいた野菜の皮をひたすら煮込む。お肉なしだけど野菜の旨味が凝縮されて美味しい野菜出汁(ベジブロス)になる。


 ガラムマサラ調合には薬膳箱の中に薬研があったから、これを使った。

 乾煎りしたマサラの材料は、胡椒、カルダモン、ナツメグ、桂皮、丁字、月桂樹の葉。これらを薬研でバリバリズリズリゴリゴリ挽きまくる。

 カレーはマサラが決め手だよね。弟の為に覚えたレシピでの調合だ。


 材料揃ったからカレーペーストを作ろう。


 まず、大鍋に胡麻油とクミンシードを入れて香りを出す。すりおろした玉ねぎを加え茶色になるまで炒める。すりおろし林檎、生姜、大蒜もプラス。よく混ぜる。


 ここでトマト潰したものと蜂蜜、本当はバターやヨーグルトも入れたいところ。でも、薬膳箱にはない。

 発酵食品はないのかと思ったけど、醤油や味噌や酒があるから、単に西洋風なものが入っていないだけかもしれない。


 が、案ずることなかれ。なぜか牛乳があるから。牛乳いれる。乳ジャバー。

 混ぜ炒めてからスパイスを順次投入。塩もふぁっさー。

 全体を軽く混ぜ、ブイヨンじゃばー。水分飛ばし。

 ガラムマサラを加え、一煮立ちさせてカレーペーストという名のカレーの(もと)が完成した。


 さーて、ここに圧力調理で茹でておいた具材を入れていくよ。


 具材は日本の一般家庭で使うのと同じものをチョイスした。人参、じゃが芋、玉葱、そして熊肉どっさり。どこのご家庭にもあるね。

 大丈夫。たとえ下茹で中に熊のと思わしき硬い毛が浮いてこようとも、取り除けば問題ない。カレーにしちゃえば皆カレー味。よきタンパク源。


 ブイヨンでカレーの素をのばして混ぜ混ぜ。

 味見しつつ塩足したり蜂蜜足したりして煮込む。

 隠し味にソイソース。醤油のことね。これも加えて味を調えた。これで一気に白飯に合うカレーになるのだよ。むふふ。


 それからカレーのお供、ラッキョウ漬けを作ろう。

 熟成庫さん出番ですよー!


 熟成庫に塩水inラッキョウを、重石をして入れる。

 熟成時間は手動でタッチパネルを操作。あく抜きするだけなので一日常温の設定で。すぐに「ピピピッ」って鳴った。レンジのよう。


 取り出したラッキョウは容器に。蜂蜜と酢をドバーと投入。

 これを再び熟成庫へ。


 とりあえず一週間漬け込み設定。ピピピッしたら容器ごとラッキョウを振る。

 木の容器だから振ると蓋が開いてしまうので、麻縄で厳重に縛った。振ってからはひっくり返し、また一週間設定して熟成庫で眠らせる。この工程を何回か繰り返して、合計一か月後……。


 う・ま!!!!

 出来ちゃったよラッキョウの蜂蜜漬け。

 所要時間たった三分。

 まさかの、かの有名な料理番組と同じタイム。


 ラッキョウ一個、味見をしながら機嫌良く次へ。

 チャパティを焼くよー。


「いい匂い。もう直ぐ皆帰ってくるよ。何か手伝おうか」


 ナイスタイミングだナオムさん。


 お言葉に甘えてチャパティ焼くのを手伝ってもらう。

 私が打ち粉しながら生地を丸く成形し、それをナオムさんが鉄板に乗せていく。

 両面を焦げ目つくまで焼いてもらって、それから網の上でも直火焼してもらう。

 ぷくっと膨らんだら焼き上がり。香ばしくて美味しそう。


 チャパティばんばん焼いていたら、銃士隊の皆も帰ってきた。


「食いもん獲ってきたぜ! ヒマリ、これ夕食に出してくれよ!」


 麿眉毛のロルカンくんが、自慢げに運んできたのはウサギだ。一メートルくらいの。う、うさ、うさぎ……だよね? でかいけど。


「ブランレプスだ。この時期だけに食べれる珍味だぞ」


 そう教えてくれるのは、目つきは凶悪だが心優しいスキンヘッドのグレッグさん。


「元は茶色なんだけどな。換毛期に白く生え変わる。冬を乗り切るために秋の内に餌をたらふく食べて肥えてるから、今が一番旨いんだこれが」


 と、物知り毛もじゃなマホンさんも、知識を披露してくれる。


「またサイコーの飯頼むぜ」


 黒レンズ眼鏡ことグラサンかけているオリヴァーさんは、ニカッと陽気にサムズアップだ。

 イエッサー。夕食はウサギ尽くしでありますね。


 ところで狩ったのは誰? と、疑問をぶつけたら全員がシドさんの方を見た。


 そ う だ と 思 っ た。


 熊カレーは大好評だった。みんな大好きカレー。カレーにしておけば間違いない。カレーは万能。カレーは奇跡。このスパイス配合を編み出した先人に感謝だ。


 ラッキョウは好き嫌い別れた。

 女子は「これイイネ」と気に入った様子だったので「アンチエイジングにおすすめです」と、脂肪燃焼させる効果を伝えたら、ブリジットさんがラッキョウもりもり食べだした。

「食べ過ぎると体臭キツくなります」と言うまで口に含んでいた。


 ラッキョウ嫌いなのは男子だね。

 ロルカンくんやノラティオさんなんか、すごい変顔していたもの。

 逆にロワ隊長とグレッグさんは気に入ったみたいで、カレーと共におかわりだ。


 マホンさんがラッキョウの効能について色々訊いてきたので、知っている限り答えた。

 総菜屋の婆ちゃんが毎年ラッキョウを漬けていて、「血液をさらさらにするんだよ」とか、「動悸や息切れなんかとってくれるんで、助かるんだよ」とか、教えてくれたのを思い出して、高血圧や心臓病の予防に効果的と伝えた。


 そこへなぜかエイ先生まで加わって、ラッキョウ談義になった。

 ラッキョウが老化を防ぐことに興味津々みたい。


 老化を考える女子高生ってどうよ。自分のことだけどね。

 そして今日も制服でエプロン姿。着替えがないのでしょうがない。

 下着だけ姉貴たちに借りた。初めての下着シェア……大変恐縮です。


 ちらちらっとシドさんの様子を窺う。普通に食べている。

 食べる時も仮面姿だ。なにかしらの儀式だろうか?


 またヒュールさんと、こしょこしょ内緒話している。

 会話内容が聞こえそうで聞こえない。もどかしい……。

 あの二人、銃士隊仲間にしては距離が近くないかな? かな??


 微かに疑いつつ、トマト、胡瓜、チシャを入れたサラダをつつく。

 これにかけるドレッシングで柚子ポンと胡麻だれを出したら、再びどちらがいいかの論争が勃発してしまった。


 いつもグラサンなオリヴァーさん、柚子ポンを主張。

 いつも煙草銜えてるアンドロスさん、胡麻ダレ主張。

 両者一切譲らずフォークで打ち合い、ギリギリしている。

 だからあんたら子供か。


「はあ……麦酒飲みたい……」


 こっちは飲兵衛だね。ボーデシアの姉貴、この訓練が終わったら酒場でパァーと打ち上げするんだと、そればかり。


 大人って大変だ。というか、軍人さんは大変だ。この国では今のところ戦争がないらしいが、数十年ほど前まで他国と争っていたそうだ。

 その時の教訓で銃士隊が組織されたと、ロア隊長が教えてくれた。


「争いなんて不毛なもんだけどな。いつ起こるか分からない、いつ起こってもいいように軍備は必須だ。平和ボケして侵略された国の末路は悲惨そのものだぞ。

 そこに住む人々の生活も滅茶苦茶になる。国を護るためにも、家族を守るためにも、日頃の鍛錬は必要なのさ」


 深いお言葉、痛み入ります。

 平和ボケしたのほほん大国日本で育った私には想像もつかないことだ。

 戦争なんて起こって欲しくないけど、来る時は来ちゃうもの、らしい。


 異世界に飛ばされるなんてことも、来る時は来ちゃったもんなあ。

 ちょっと遠い目しながら、午後の訓練に向かうみんなを見送る。


 今度はブリジットさんが残るみたいだ。エイ先生も。


「いってらっしゃ~い!」


 大きく手を振って見送る。

 シドさんが振り返って、こっちを見てくれた気がした。


 そういや、カレーの感想聞けなかったなあ。

 おかわりしていたみたいだから、食べれるものであったとは思うけど……。


<銃士隊男子の皆さん>


ティガー・ロワ

└冷徹な瞳の銃士隊隊長。黒熊こぐまと呼ばれるエクステを被っている。珍しいギフト持ち。


ヒュール・ディナンブル

└泣き黒子がセクシーな水色髪のお兄さん。実は小隊長。白熊はくまのエクステをすべき人だが雪山だと埋没するから被っていない。


グレッグ

└目つき凶暴なスキンヘッドだけど心優しい人。


マホン

└でかくて毛もじゃでゴツムキ筆頭だが博識な人。


オリヴァー

└黒レンズの眼鏡ことグラサンマン。柚子ポン派。


ロルカン

└猫目麿眉毛の陽気なティーン。


ノラティオ

└シドがいなけりゃ銃士隊で狙撃トップの腕前。刈り上げくん。


アンドロス

└煙草ぷかーしてる人。胡麻ダレ派。


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