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魔獣に追いかけられ

 

 数か月前――――。


 私は雪原を走っていた。

 見渡す限り真っ白な銀世界を。


 普通に眺めることができていたら、たぶん綺麗だなと心洗われ見入っていただろう雪景色も、只今でっかい猛獣に追われているので、そんな余裕なんぞ、ひたすらない。


「おひえええええ異世界きて初目撃の獣が凶暴凶悪な野獣だなんてえええ恐ろしいよおお異世界怖いよおおお助けてお母ちゃーああぁぁんんんん!」


 真っ白な雪の上、両腕両脚を懸命に上下振りまくって逃げ走る。

 けど、飛び出す台詞はどこか実況中継くさくて、あ、まさかけっこう余裕あるの私? と、脳内の片隅で感心してしまう。

 一応、追ってくる獣と距離が離れていて、全力で逃げれば私の勝ちだという確信があるからこその、ゆとりなのである。


 絶叫中に余裕かましてすみません。

 あーいえ、これにはワケがあってね。


 実は私こと垣原(かきはら) 陽葵(ひまり)は、異世界召喚に伴い、異世界で生きやすいよう様々な【贈り物(ギフト)】を、この世界におわす大勢の神様たちから貰っている。


 たった今、獣から必死こいて逃げるのに役立っているのが【翼足】。

 鳥の神からのギフトで、足に翼が生え、鳥が空を飛ぶように、私は地上を早く走れる。どれだけ早いかというと時速80~100キロ。高速道路を走る車と同じくらいだね。


 それから武の神から貰った【体力無尽蔵】のギフト。

 その名の通り体力が無尽蔵にあり、尽きることはないからスタミナ切れで疲れることも倒れることもない。


 この二つのギフトのおかげで、足を取られやすい雪道を軽快に疾走し続けることができている。大変ありがたい能力。鳥の神と武の神ありがとう!

 会ったことないけども。


「うえーと……『ブランベア:魔獣。雪山のみに生息する白色の熊。体長二~三メートル。体重三百~八百キロ。頑丈で四肢が太く長い鉤爪を有し嗅覚に優れる。短毛。短尾。雑食性だけど肉が好き。人を見ると時速40~50キロで追いかけてくる。凶暴』……て、熊なのに冬眠しないの?! しかも北極に住んでないシロクマって!? さすが異世界摩訶不思議!」


 出会った瞬間、本当に追いかけられたので観察する暇がなかった私は、走りながら後ろをチラ見して、視界に映った説明文を読んでみる。


 これまた【万物説明文】という能力で、万物の神から貰った鑑定のようなギフトである。

 この世界にあるものすべて、万物ならばすべて、視界に映せば吹き出しのようなものが出てくる。そこにある説明文は日本語なのがにくいね。


 読めばそれが何であるかだいたい分かる。しかもオン・オフ可。吹き出し邪魔なら消せるし、最初っから意識していないものは吹き出しすらでない。

 ということは、意識すれば吹き出しが出現するということ。

 視界中が万物の吹き出しで埋まってしまうことはないのだ。いや便利だね。


 その便利ギフトで、説明文を声に出して読んでみたのは、これまた余裕なのだろうか。

 いやいや、決して。

 景色を楽しむことはできていないのだ。余裕ぶるのも大概にしろよ自分。


 もう一回、ちらっと後ろを見る。

 白色のでかい熊が猛然と四肢を動かして私を追ってくる。


「口ん中あああ牙があああ涎もぶしゃああってやっぱ怖いよおおベアアアア」


 ギフトの恩恵で追いつかれることはないという自負はあっても、怖いものは怖い。


「たあすけてええええ」と、私はエプロン姿でひた走る。


 何故にエプロン姿かというと、この世界に召喚されたのがバイトの最中だったからだ。バイトといっても実家である喫茶店の手伝いだけど。


 召喚された時に一応の説明を、万物の神と万理の神にしてもらったんだけどね。

 あの人ら……いや神様たちがおっしゃるには、私を召喚したのは初の試みで、この世界に数多おわす神々の力を合わせ()()()()召喚したってこと。

 頑張ってって……。


 まあ、おかげで召喚に関わった神様たち全員からもれなく、【贈り物(ギフト)】と称した魔法やら加護やらを貰えている。


 このギフトってやつ、この世界の人であっても普通は持っていないものらしい。

 似たようなものでスキルというのがあるらしいが、それは努力して掴み取った能力――スキルで、ギフトとは違うものだとか。


 ギフトは完全に神様からの貰い物で、偶然とかラッキーで貰える人はいるけれど、何十万人に一人が精々一つか二つ貰えるもの。低確率で珍しいものなのだ。

 なのに、こんなにも沢山のギフトをいただいた私は異常ってこと。


 でもこれ、召喚が成功して良かったねっていうご褒美というか、勝手なことした神様たちの、私へのアフターフォローみたいなものだしね。


 私の召喚って、失敗する可能性は考えなかったのかな神様たち。

 沢山の神様たちで挑まなきゃいけなかったくらい大変なことだったと、前例が無いから、色々と試行錯誤して頑張らなきゃいけないくらいのものだったと、聞いている。

 もし失敗していたら、私はどうなっていたのかな……。

 この辺に関しては深く考えちゃ駄目だと思うの。私の心臓のためにも。


 さて、ブランベア。


 真っ白で凶暴なヒグマみたいな造形の魔獣が、私に襲い掛かろうと牙を剥いて追ってきているよ。

 私は必死で逃げている。


 神様から様々なギフトを貰っているとはいえ、魔獣に立ち向かって倒すなんてスーパーヒロインみたいな度胸、私にはない。

 多分、ギフトのあれやこれやを使えば攻撃魔法とか出来ると思うんだけどね。怖いの。


 今は只、翼足を動かして雪原を駆けるのみ。


 それでね、逃げながら考えたけど、体力が無尽蔵にあるから、このまま崖まで誘導して熊だけ落とす作戦ってのはどうかな?

 誰に問うでもなく自問である。そして自答。はい。崖がないよ。辺りは雪原。雪ばかり。木さえ見当たらない。

 すっっっっごく遠くの地平線に樹氷が見えるかな。


 崖はどこ? もしかして、ない。地面の割れ目でクレバス的なのは? ないかな? 探しているけど見当たらないというか全部真っ白で、どこがそうなのか知識もないから分からないよ!


 あ、そうだ。こういう時こそ吹き出し説明文を――――と、思ったところで、パーーンという乾いた音が辺りに響いた。


 ホワーーッツ?! 銃声?!


 聞き慣れない音だから憶測だけど、銃声っぽい音が辺りに響いても、私は怖くて急に止まろうとは思わなかった。

 逃げて、逃げて、逃げて、しばらくしたら魔獣が追いかけてくる気配がないことに気づいて、やっと足を止めた。


 ここ、どこ……?


 後ろを振り返ったら、【万理の導き】という万理の神様からのギフトである矢印が、視界に映っていた。

 これは吹き出し説明文と似ている仕様で、必要になると矢印がポップアップして、それが導きの方角を指し示す。


 大人しく矢印の方向へ歩く。

 戻るかっこうになってしまったが、神の導きなら従うのが賢明なのを知っているので、そのまま矢印方向へどんどん進んだ。


 途中で、矢印の中に小さな文字で何か書いてあるのに気づいて、読んでみた。

 ちっさいなこの文字……ホントちっさ。万理の神様の声の小ささを思い出す。こんなところに反映しなくてもいいのに。


「えっと、『ブランベア死亡。垣原陽葵は銃士隊に会う』

 ――――銃士隊とな?」

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