小説家。
みんなが幸せなクリスマス。
たくさんのクリスマスを書き上げた彼女は?
「先生、おはようございます」
「おはよー・・・」
「またコタツで寝られたんですか?」
「だって新しい話考えてたらつい・・・」
「風邪引かれますよ」
「平気よ、そんなやわじゃないもの」
いつもお世話になってるお手伝いの藤原さん。
毎日朝から来てくれて夜遅くまでいてくれる。
「先生、今日何の日か知ってます?」
「クリスマスでしょー。それくらい知ってます」
「あら、クリスマスなんて興味なさそうなのに」
「ないけど、それくらい知ってるわ」
クリスマスは毎年仕事ばかり。
いつもいつも愛用のPCに向かってる毎年のクリスマス。
小さい頃は毎年楽しみだったクリスマス。
サンタさんを信じてベッドに潜り込んでたのが懐かしい。
「今は気付けはコタツで爆睡だもんなぁ」
「先生何か言いました?」
「いや、藤原さんお茶ちょーだい」
「はい、今」
そんな今日の予定は雑誌の担当者が来るまで
ずっと続く執筆活動。
こんな日に仕事してる人間なんてそういない。
みんな幸せそうにイルミネーションなんか見ちゃって
羨ましくなんてないんだけどさ。
「先生のん気にマニキュアなんて塗ってないでくださいよ」
「いいじゃない、調度落ちちゃってきたんだもの」
「そんなこと言ってるとまた野上さんに怒られますよ」
「うわ、嫌な名前聞いたわ」
野上幸也
あたしの担当であるその男は、
名前に似つかわしくない性格をしてる。
こんな日にまで仕事をする
仕事大好き人間だ。
「あ、先生話をすればなんとやらですよ」
「は?」
「お電話」
まわしますねーと藤原さんは姿を消す。
数秒後に鳴る子機を睨み付けてやった。
「はい」
『先生、そんなふくれっつらしてないで仕事してください』
「ふくれっつらなんかしてないわよ」
『んじゃマニキュアなんて塗ってないで』
「は、あんたどっかから見てるの?」
『今度は何色です?この間まで赤でしたよね、黒か?』
「・・・・で何の用よ」
『あぁ、忘れていました。お伺いするの少し遅れそうなので19時くらいになります』
「・・・わかった」
『それまでに話まとめておいてくださいよ』
本当むかつく奴。
全部見透かしてるようで
いけすかない担当だ。
いけすかない担当が当てたマニキュアの色は黒。
むかつくけど、当たるほど昔からの付き合いだ。
あたしがまだ雑誌の一般投稿欄に投稿していた時から
読んでいてくれたらしい。
初めて会った時は物凄い紳士でかっちりスーツのメガネをかけた男。
野上幸也ですなんて笑顔だったのに。
ちょっとかっこいいなんて思った若いあたしを殴りたい。
年齢が1つ2つくらいしか変わんないから年代が一緒なのよね。
そりゃ今だって若い方よ?
マニキュアを乾かしながらクリスマスの話を考える。
年明け早々雑誌に載せる恋愛の物語だ。
恋愛なんてここ数年してないわ。
なんて言ってたら小説家が廃るけど。
コタツに入り横になる。
遠くで藤原さんの声が聞こえる。
あ、駄目だ。
意識が遠のく。
おやすみなさい。
「先生、あなたが書きたいものを書いてください」
「・・・え」
「テーマがなんです、題材がなんです、上がなんです」
「・・・」
「あなたが書きたいものを自由に書いてください」
「・・・でも」
「でもじゃない。あなたは何の為に小説家になったんですか?」
「・・・」
「自分の世界を書きたいなら、自由にそれでいいんです」
なーんて初対面の時に言ってきて
まともな人間だと思ったけど
実際しょうもないやつだった。
編集の他の人間に聞いた話だと
女関係は特にだらしない癖に仕事は出来る奴だから困る。
なんて何回聞いたことか。
いつもいつも人の仕事にうるさい癖して
自分は自由にやってる。
本当むかつく。
「先生、先生」
「・・・は」
「何寝てるんですか、ったく」
「・・・」
目を覚ますと目の前には野上がいた。
呆れた様子の野上を前にあたしは起き上がって時計を見る。
「藤原さんによれば、昼前から寝てたらしいですよ」
「あー考え事しててコタツ入ってそれで寝て」
「で?話は出来たんですか?」
「大方ね」
一瞬野上が驚いたって顔をした。
珍しいわ。
「しかし寝起きからあんたの顔見るなんて最悪ね」
「先生、そういうものは本来口に出さないんですよ?」
「知ってるわ?わざとよ」
野上の咳払いに自分のPCと向かい合う。
昨日打ち掛けだったものに文字を足していく。
「そういえば」
「?」
「今日はクリスマスですね」
「そうね、あたしには関係ないけど」
藤原さんは帰ったのだと思う。
きっと夕飯は何かした作っておいてくれたと思うから
あとでチンして食べることにしよう。
「クリスマスに仕事なんて野上あんたも物好きね」
「本当なら仕事したくないですよ」
「じゃあ何で?」
野上の返事が来ない。
あたしは振り返る。
「野上?」
「先生に」
「ん?」
「先生に会いたくて」
ん?ちょっと待って
何で野上はクリスマスに仕事する理由を
あたしに会いたいからって言ったの?
「え、どういうこと?」
「・・・こういうことですよ」
手を引っ張られたと思ったら
野上に抱き締められてた。
「の、野上!」
「本当ならもっと前に言うはずだった」
「・・・」
「あんたの文章を読んだ時、この人の担当になってやるって思った」
「・・・」
野上は淡々と言葉を並べる。
あたしは何も言えない。
「あんたは書く文章とは違って何もかも雑だし、適当だし」
「悪かったわね」
「自分の書きたいものを書けないとなると凄い悔しい顔してたり、
考えにつまるとマニキュア塗ったり、冬になるとコタツで猫みたいに寝たり」
「・・・」
「そんなとこもひっくるめて好きになったんだ」
野上の顔が見えた。
頬が少し赤くて、目がいつもと違う。
「・・・あたしだってあんたのこと嫌いじゃないわよ」
「・・・」
「好きじゃないけど」
「・・・クッ」
野上今笑った!!!
あたしは野上の腕から離れる。
「野上、今すぐケーキ買ってきなさい」
「・・・」
「あんたが帰ってくるまでに終わらせとくから一緒に夕飯食べるわよ」
「わかった、いってきますね」
野上はコートを着て立ち上がる。
あたしはカタカタとキーボードを打つ。
「・・・黒のマニキュア似合ってるよ、流架」
「!!!!!!!バカ!!!さっさと行け!!!」
恋人という関係ではないけど
大切だという存在が出来たクリスマス。
物語の中の女性たちのような
そんな素敵なものではないけど
あたしたちのクリスマスは
こんな感じ。
生きている人間たちの分、
クリスマスの過ごし方だって五万とある。
今も何処かで誰かが幸せに過ごしてると思うと
とても幸せな気持ちになる。
Merry*Christmas
幸せが訪れますように。
この作品でクリスマス作品は終わりになります。
いやー楽しかったww
読んでくださってありがとうございましたw