フリーター。
クリスマスは、いい思い出がない。
綺麗に光るイルミネーション。
陽気に流れるクリスマスソング。
少しだけちらつく雪。
今日はクリスマス・イヴ
だけど、浮かれてる人ばかりじゃない。
それがあたし。
クリスマスにはいい思い出がなかった。
小学校のあるクリスマスに両親が離婚して
どっちも引き取らなかったから
父方のお祖母ちゃんに引き取られた。
中学校では両親がいないからって虐められた。
きっかけはクリスマスにサンタが来たことある?ってことだった。
味方はお祖母ちゃんだけだった。
高校は両親の仕送りと自分のバイト代で何とか通った。
高校3年のクリスマス、たった一人味方のお祖母ちゃんが死んだ。
そして今日はそれから2年後のクリスマス。
高校を無事卒業してフリーターになったあたしは
1年365日バイトばっかりしてきた。
幸い友達はいなかったから、お金を使うこともなくて
一人暮らしには少しいい所に住めてる。
両親との関係は高校卒業するまでだった。
最後に会ったのがいつだったかすら思い出せない。
そんなクリスマスの今日も勿論バイト。
この時期は少し時給がいいから、いつもは1つだけど
2つするようにしてる。
昼間はいつもの喫茶店兼レストラン。
夕方からはケーキ屋で短いサンタの格好をしてケーキの売り子。
寒いけど、時給はいいから背に腹は変えれない。
ケーキ屋はこの辺にしては珍しいタイプのケーキ屋で、
宅配なんかもやってる。
宅配はバイク乗れる人が優先的にまわされる。
宅配のがお金はいいので、あたしは勿論宅配。
バイク乗る時はコート着用可なんだけど、
届け先に着いたらコートを脱いで行かなきゃならない。
「フロマージュです、ケーキ届けに参りました」
この格好になることはもう慣れた。
高校を卒業してから毎年そうだし、この時期は何処の店員も同じ格好してる。
「わーお姉ちゃんありがとー」
「毎年ご苦労様」
「いえ、みなさんの嬉しそうな顔を見れればそれで」
上辺だけの笑顔にも慣れた。
笑顔でいると、お客さん達は喜んでくれる。
店長は笑顔でいることはとても大切なことだ、って言ってたけど
あたしにはむしろいらないとさえ思う。
今日の宅配は4件。
全部終わって、そのまま帰宅。
毎年働くからか、サンタ服は自分で持ってるように言われてる。
バイクを止めて、公園に入る。
ベンチに荷物を置いて座る。
自分用に買ったコンビニの小さいケーキを食べる。
寂しいとか、辛いとか、そんな感情はない。
「A very Merry Xmas
And a happy New Year
Let's hope it's a good one
Without any fear」
この曲は何故か覚えてる。
まだ両親が離婚する前に、よく父親が聞いていた歌。
ジョン・レノンはいい奴だったとか
まるで知り合いのことを話すように父親は言っていた。
「その曲は一人で歌うもんじゃないんだよ」
「・・・?」
「ジョンとヨーコが2人の子供たちの為に作った曲なんだ」
「高梨さん・・・」
バイト先ケーキ屋のフロマージュのパティシエの高梨さん。
かっこいいとか言われて、雑誌やテレビでも紹介されてる人気者。
「何か用ですか?」
「いんや?」
なら何で来たんだろう?と思った。
もう時間も遅くなってきてる。
「また1年か」
「え?」
「君がうちの店に来なくなる」
「そうですね、今日が終わればまた1年」
普段はケーキなんて食べないからケーキ屋にも行かない。
本当にこのクリスマスの時期にだけだ。
「・・・これ、渡すためにきたんだ」
「?」
四角い大きな箱と小さい箱、そこにはあたしの名前が入っていた。
「俺から君へクリスマスプレゼントと誕生日プレゼント」
「・・・」
「店長から聞いたんだ、何かしてあげたいけど、あの子はそういうの受け付けないだろうからって」
「・・・じゃあ何で」
「俺が個人的にあげたいだけ」
高梨さんから受け取った箱。
膝の上に置いて、眺める。
誕生日プレゼントをもらうのは何年ぶりだろう。
お祖母ちゃんが死んでからだから2年ぶり?
「なぁ、雅ちゃん」
「はい?」
「バイトしてるとこ教えてよ」
「・・・」
高梨さんは立ち上がってあたしの方を見てる。
小さい箱を見る。
「教える訳ないじゃない」
「・・・やっぱりなぁ。本当入る隙間ないんだから」
「誰かに簡単に踏み込まれちゃ、あたしでいる価値がなくなる」
自嘲気味に笑った。
高梨さんは微笑んでる。
「んじゃ一人で辛いなら、電話してよ」
「辛いと思わないのでしません」
「じゃあ、泣きたくなったら」
「泣きたくならないのでしません」
「じゃあ」
「・・・何があっても電話しませんよ」
大きい箱を片手に持って、それを床に落とした。
グシャッという音と箱の隙間から見えるケーキの破片。
「一緒に歌おうよ」
「は?」
「ジョン・レノンとオノ・ヨーコみたいに」
「・・・そんな楽しいクリスマスは別にいらない」
「楽しくなくてもいいんだ」
この人、引き下がる気はないらしい。
落ちたケーキをわざと踏み付ける。
「折角ならお酒奢ってくれません?」
「あぁ、そっか20歳だもんね」
「今からうちで2人だけの楽しくないクリスマスパーティでも」
「いいね、それ」
バイクを押しながら、家路に向かう。
高梨さんは落として踏み付けたケーキのことは何も言わなかった。
道中の歌は勿論
ジョン・レノンとオノ・ヨーコのハッピー・クリスマス
「A very Merry Xmas
And a happy New Year
Let's hope it's a good one
Without any fear」
雪が降り出す。
サンタ服にコートなのにちょっと暖かいくらいだった。
「クリスマスなんて従来楽しい思い出の人のが少ないんだよ」
「みんな本当は辛いのに隠してるのかも」
「雅ちゃんは?」
「辛いと思ってないからいいの」
「なんだ、それ」
クリスマスは毎年訪れる、その度にこの歌が流れる。
ジョンやヨーコにも辛いと思うクリスマスがあったのだろうか。
「はー飲み過ぎた」
「・・・」
「高梨さーん」
「・・・えへへ」
結局そのまま飲み明かしたあたしと高梨さん。
先に潰れたのは高梨さんだった。
コタツで寝てる高梨さんを眺める。
寝ながら笑ってるなんて変な人。
「So this is Xmas
And what have you done
Another year over
And a new one just begun
And so this is Xmas
I hope you have fun
The near and the dear one
The old and the young
A very Merry Xmas
And a happy New Year
Let's hope it's a good one
Without any fear」
高梨さんと付き合うようになったのは
それから半年ほど経ってから。
別に好きじゃないんだけど
居心地が良かっただけ。
「ねぇ、雅」
「ん?」
「ケーキ落とすの辞めない?」
「やだ」
「なんで」
「ケーキ嫌いだから」
これが幸せっていうのかな?
わからないけど、楽しいと思えるからいいじゃない?
みんなにも幸せが訪れますように。
何か一回投稿したのに消えた。。。
お久しぶりですw
最初からこれですけどww
あと4作投稿しますー。