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第十一話 王都脱出へ

 墓は王城と城下町、双方から程良く離れた都の端にある。

 周囲をぐるりと取り囲む壁は、魔術による攻撃を危惧しているのかさほど高くは無いが、分厚く、三重に囲まれているのだ。

 壁の上は歩哨台でもあり、弓を構えた衛兵やらが待機している。

 本来ならば、外壁に配置されているはずの衛兵達が、内壁に配置され、都市部を見張っているのは、どう考えても私たちの存在を危惧しての事だ。


 正直に言えば、こんな所で聖騎士と遣り合えば無駄な犠牲が出るだろうし、従騎士とやらまで戦いに参加されては多勢に無勢。

 まず勝ち目はない。

 そうであるならば、まずは王都より脱出を果たして聖騎士と……いや、クラッサ聖王国と戦う術を見つけてからでなくては意味が無い。

 犬死などしては、目的が達成できない。

 聖騎士を黄泉の国に送り、女王シーズグリアを魂ごと滅すると言う目的を。


 そう告げる私の言葉には、ロズワ……ロズも頷きを返してくれた。

 ロズは沸点が低い所はあるが、無意味な突撃精神とは無縁な性格であり、そこは安心できる。

 祖国では公家が実権を握っているので、軍人が立身出世するには武勲を上げるしかない。

 その為、無意味な突撃や攻勢を掛けたがる阿呆が多くて困る。

 我が近衛師団には、そのような輩は……まあ、少なかった。

 居なかったと言えない辺り、この問題の根は深い。

 個人的な酒の席での伊田いだ中将や方喜かたよし大佐の愚痴が思い出されて、微かに苦く笑いながら如何逃げ出すかの算段を進めた。


 ロズの一族の墓前で、確認した事は抜け道の存在だ。

 これだけ堅牢な都市を築いたのだ、抜け道の一つか二つは用意している筈だ。

 王家の墓ともなれば、抜け道があるかも知れない。


「抜け道か。無い訳でも無いが、王城よりの物しか知らぬ。この墓には何も納めないのだ。ただ、祈る場所が必要だから作られたのだ。故に、墓の下には何もないし、抜け道など作ったりもしない」


 なるほど、王家の墓と言うよりは記念碑的な意味合いが強いのか。

 では、実際に王家の埋葬先は何処になるのか、一瞬考えたが今は優先順位が違う。


 結局、物陰に隠れながら四方ある何れかの門へと向かい、そこを突破するしかないと言う話になった。

 その際の規則を確りと決めて置く。

 一般人には攻撃を加えない、無駄な戦闘はしない、無理に聖騎士を殺そうとしない、逃げることを何より優先させる。

 そう言った点はきっちり互いの共通認識にしておかないと、後で痛い目に合う。

 おかげで大分は時間を食ったが、これで心置きなく脱出できると言う物だ。

 ……まずは、探索に来たらしい衛兵の一団をやり過ごしてからだが。


 墓石が並ぶ墓地に城下町から上がってくる五人の衛兵は、私達の姿を見て慌てたように駆けてくる。

 存外に来るのが遅かったなと、私は肩を一つ竦めてロズに行ってくると告げて駆けだす。

 王家の墓に並ぶ墓石は、然したる大きさではない。

 とてもではないが、陰に隠れてやり過ごすのは厳しいのだ。

 ならば、彼等には早急に眠って貰わねばならないが。

 

 その体験を何と呼ぶべきか。

 明らかに私の体の動きがおかしかった。

 意と共に剣は既に鞘走り、斬る場所を定めたと思えば、既に斬っていた。

 鉄の肩当ごと胴鎧を切り裂き、剣閃は思い描いたように走るのだ。

 あり得るか? あり得るのか、こんな事が?

 聖騎士との一戦から一皮むけたのか、私の動きは尋常では無いほどに早まっている。

 普段はまるで気づかないが、いざ剣を振るうとなると……。

 その尋常ならざる速度を証明するように、駆け抜け様に一人目を上から斜めに切り裂き、二人目には逆袈裟に切り上げ、跳ね上がった刃で三人目の首筋を裂き、四人目の喉を狙って切っ先を押し込む。

 その間に、血の匂いは全くせず、四人目の衛兵の剣を腰の鞘から抜き、最後の一人の腹に突き立てた時、最初に切った衛兵の裂傷から漸く鮮血が迸った。

 

 自身の尋常では無い速さに、軽く首を左右に振って喉に突き立てたままになっていた片刃の剣を引き抜き、一つ振って血の滴を払う。


「……凄まじいな。まるで聖騎士の如くだ」


「連中はこんな早き世界に生きてるのか? そりゃ、おいそれ勝てんわな」


 何故、私がその域にまで達しているのか良く分からず、首再度左右に振ると、ロズはそれが貴公の呪術と言う事だろうと真面目な表情で告げた。

 つまりは、肉体の反射速度やらを向上させる術を自身に常時掛けているようなものだと言うのだ。

 これのおかげで聖騎士と一対一なら渡り合えると言う訳だ。

 ……一体何を代価に支払うのやら見当もつかぬ。

 ともあれ、急ぎその場を離れようとした私に、ロズが待ったをかけた。


「貴公に頼りっ放しでは、余の名折れ。ちと待っておれ」


 そう告げて、倒れ伏す五体の骸に向けて、何やら呪句を唱える。

 ロズの身に宿る見えない力が、骸を縛り、使役するべく放たれた。

 途端、ある種の力場が一瞬発生し、周囲に小さな衝撃波を放つ。

 すると、揺れ動く草々に横たわっていた明らかに死んでいると分る衛兵達が、のろのろと起き上がり、街へと降りていく。

 ……これで街は混乱に陥るな。


「この騒ぎの隙を突くぞ」


「……父母が見たら泣くな」


 禁句かも知れないが、流石に良い気はせずに思わずそう呟いた。

 だが、彼女は臆する事無く私を見て言った。


「非才の我が身だ。使える手段はすべて使う」


「……そうだな。敵に憐れみを向ける余裕は我らにはない」


 そう告げてから、ロズに非礼を詫びる為に頭を下げた。


 騒ぎに乗じて物陰から物陰へとこそこそと移動しながら、最寄りの門へと向かう。

 何人かに見られているが、彼らが私たちを訝しむ前には何とか隠れてやり過ごす。

 門に辿り着いたら、状況次第では強行突破だ。

 ノロノロしていては、脱出の機会は失われてしまう。


 如何にか、王都にある四方の門の一つ、西門に辿り着いた。

 東にある門が正門と呼ばれる大きな門であり、その他三つは正門ほど大きくは無い。

 だが、王都に四つしかない出入り口の為、正門以外の門も概ね混雑している。

 物陰に隠れながら、どんな連中が居るかを見定めると、多様な姿が視界に入る。

 数名で旅立とうとしているローブ姿の巡礼者と思しき一団。

 馬と言うよりは、牛に近い形の力強そうな動物に車を引かせる商人。

 鹿……ではないな、レイヨウか? それに似た生物に騎乗した戦士など様々だ。

 

「如何する、セイシロウ」


「……そうだな……警備は厳重だ。それに強行突破では他に死者が出そうだな……」


「……うむ、間違いなく出るな」


 ここを強行突破するのは難しくは無い、私だけならば。

 だが、ロズを連れてとなると一気に厳しい状況になる。

 では、どの様な手を打つべきかと頭を悩ませていると、ロズが不意に何かに気付いたようにはっとして、こちらを見た。


「……ある種、強行突破になるが……」


「うん?」


「外より無数の竜馬りゅうばの骨を呼び寄せる。そのどれかに掴まって逃げ出すと言うのは如何だ?」


 竜馬りゅうば? 不思議そうにする私に、あれだとロズが示したのは、鱗が生えた馬の頭をトカゲにすげ替えた様な珍妙な生き物だった。

 その背に乗るのは腕が立ちそうな戦士ではあったが。

 ……背高く、腕や足は太い、力のありそうな戦士だな……。


「騎馬民族に次ぐ速度を誇る騎乗用の獣だ。あれの骨ならば、数多戦場跡に眠っておる」


 なるほど。それ操り場を混乱させるわけか。

 だが、問題は多々ある。


「如何程の時間を有する? それに、離れた場所にある骸を呼び寄せるのならば、大分力を有するのでは?」


「少々時間は掛かるし、暫くは余は術を使えぬ」


「……分かった。やってくれ」


 その間は私が守り抜くよりなく、竜馬の骨に掴まり門を超える際にも、彼女を抱えて逃げねばならんようだな。

 だが、このまま手をこまねいて居るよりはマシだ。

 頷きを返せば、ロズは早速、呪句の詠唱を始める。

 徐々に力の高まりが感じられれば、私はいつでも剣を抜けるように身構えた。


 当然、周囲がざわめき、衛兵がこちらに気付く。

 城壁の上に立つ者が矢を射かけてきたが、それを払い除け、ロズの安全を確保する。

 再び矢を放つ者に紛れ、衛兵たちが集まってくる……が、不味いな。

 この騒ぎを聞きつけてか、明らかに異様な力を持つ者が近づいてきている。

 聖騎士か……。

 ロズの詠唱が最高潮に達した時には、周囲を衛兵に囲まれ、その衛兵達を割って、巨躯の聖騎士が姿を見せる。

 

 さて、この状況、どう切り抜けるか。

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