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手作りの卒業パーティー

 王立魔法学園の卒業式を明日に控え、遠方に住む卒業生達の父兄が王都に集まった。待ちきれず面会に来る家族も多く、アナスタシアの元にもランスウォール伯爵が顔を出していた。面会の為に用意された魔法科の教室に通され、長期休暇以来の親子の対面に、お互い思わず顔がほころぶ。


「アナスタシア、卒業おめでとう。本当にやり切ってしまったのだな。初めは無理だと思っていたが、毎年成長していくお前を見て関心したよ。お前は私の自慢の娘だ、何があってもそれだけは絶対に変わらないよ」

「ありがとうございます、お父様。これでランスウォールも安泰よ。ふふふっ」

「そうだな……ああ、その通りだ。お前が次期ランスウォール伯爵だよ」


 父に抱きしめられるが、どこと無くいつもと違う香りがした。微かに香る、女性物の香水の香りに、とうとう父にお付き合いする相手ができたのかと頭を過ぎった。

 母が他界して10年以上が経つ。アナスタシアが5歳の時に二人目を妊娠していた母は、妊娠7ヶ月で弟を出産し、まだ小さ過ぎた赤ん坊は当時の医療では助ける事も出来ず翌日この世を去った。母は産後意識を失い、出血が止まらず、治癒魔法をかけても効果が出ずに数日後そのまま息を引き取ってしまった。悲しみに暮れるランスウォール伯爵は後妻を迎える事を頑なに拒み続け、王家からの申し出を受けて第四王子トラヴィスを婿に迎え、爵位を譲る事にしたのだった。それほどまでにアナスタシアの母を愛していた。彼は今まで浮いた話の一つも無く、未だに亡くなった妻を想っている。そんな父に恋人が出来たとしても、口出ししようとは思わなかった。


 

 その夜は専門棟の講堂で魔法科と魔法騎士科合同のプチ卒業パーティーが開かれた。下級生達が手作りしたパーティー会場は可愛らしくデコレーションされており、食堂から持ち込まれた料理が並び、ちょっとした立食パーティーを用意されていた。

 本格的な卒業パーティーはひと月前に盛大に執り行われ、全校生徒が初めて集まる機会となった。言うまでも無く会場内は全校生徒がアナスタシア達を取り囲む大変な事態になり、魔法騎士科の生徒は二階席に避難する事を余儀なくされた。二階で悠々食事をしながらいつものメンバーでダンスを踊る。下の会場ではそんな彼らを見上げながら溜息を吐いていた。ちなみにトラヴィスは何食わぬ顔でパーティーに出席しており、アナスタシアに熱い視線を送っていた。あれ以降、毎日反省文と称したラブレターをアナスタシアに送りつけ、高価な贈り物をいくつも届けさせていた。その全てを送り返しているが、彼はめげる事無くそれを続けている。

 今夜はひと月前、まともに卒業パーティーを楽しめなかった彼らの為に、下級生が企画して最後の夜に思い出を追加してくれようというのだ。


「いい子達ね、私達の為にがんばって用意してくれたのね。これは楽しまなくちゃいけないわ。アナ、何だか元気がないけれど、卒業するのが辛いと感じるほど私達この学園を愛しているわ。残していくあの子達の気持ちを汲んで、笑顔を見せましょう」

「そうね、じゃあ、お腹が空いたから何か食べましょうか」


 リサと二人、皿を持って料理の前に行くと、この会を企画した女生徒達がプルプルと震えながら飲み物を運んで来てくれた。


「アナスタシア様、リサ様、ど、どうぞ」

「ありがとう。皆のお陰で楽しい思い出が一つ増えて嬉しいわ。勉強をしながらの準備は大変だったでしょう?」

「い、いえ。先輩達の事を思えば何でもありませんでした。ただ、こんな幼稚なパーティーを喜んで頂けるのかが心配で、こうして笑って下さって、私達も嬉しいです」 

「幼稚ではないわよ。とっても心を尽くした素敵なパーティーだと思うわ。ここに居る皆にもお礼を言わせて欲しいわ。私達のために、素敵なパーティーを催して下さってありがとうございます。目一杯楽しませて頂きますね」


 アナスタシアの労いの言葉を聞き、周囲にいた下級生たちは涙ぐんだ。

 歴代の魔法騎士科の生徒達は高飛車でいけ好かないタイプが多かった。普通科だけでなく、騎士科や魔法科の生徒までを見下す様な者の集まりだったのだ。これまで下級生と仲良くするなんて事はありえない事だったのだが、アナスタシアとリサが入った事で状況は一変した。長年の魔法科との確執も無くなって、交流の輪が広がった。勉強を教えてやり、剣や魔法の指導も行っていた。

 一部の下級生の中にはいまだに自分は優秀だと他人を見下す者も居たが、アナスタシアの世代の成績を知るなり大人しくなった。

 テッド達の女の子には負けられないという男の意地と、男の子に追いつきたいアナスタシアの頑張りがこの世代の成績を上げるきっかけになり、特別枠のリサ以外、全員が卒業試験をほぼ満点という歴代一位の成績で卒業を迎えた。


 パーティーは一時間半ほどで終了し、卒業生達はそれぞれの部屋に帰って行った。


「リサ、相談に乗って欲しい事があるの」

「何かあったの? パーティーの間は隠しきれていたから他の子達は気付かなかったでしょうけど、何か悩んでいると思っていたの。おじ様に面会してからよね、何か言われたの?」


 部屋に戻ろうとしていたテッド達も同じ事が気になっていて、いつ聞こうかとタイミングを計っていた。二人の会話を聞いて話に加わった。


「アナスタシア、俺達にも相談しろよ。5年も一緒に過ごしてきたんだ、君の様子がおかしい事位お見通しだぞ」

「テッド……気に掛けてくれてありがとう。じゃあ、談話室を借りてそこで話すわ」



 8人は談話室に入り、使用中の札を出してドアを閉めた。談話室には3人掛けのソファが向かい合わせに置いてあり、一人掛けのソファが奥に一脚、手前に一脚、そして中央にテーブルが設置されている。アナスタシアを中心にしてソファに座り、カイとエドガーが紅茶を淹れて、それぞれの前に置くと、アナスタシアは目を瞑って息を吐き、話始めた。


「実は信じられない事が起きていて、私、どうしたら良いのかわからなくなってしまって。今とても混乱しているの」

「ええ、それで何があったの?」


「お父様に隠し子が居たの。3歳の男の子よ」

 


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