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三人組の正体

 アナスタシア達三人がマリエルを担いで外に出ると、大通りに繋がる狭い路地を塞ぐように、小柄な少年とぬぼっとした大男、それに線の細いなよっとした色男が腕組みをして立っていた。


「おい、おめぇら何もんだ! オラ達に成りすまして女ば横取りする気だな!」


 中央に立つ少年がリーダー格なのか、小さいくせに一番偉そうにしている。首にはストールを巻いていて、マネージャーが言っていたのは彼の事だと即理解した。


「……マジか。フハッ、アナとそっくりじゃないか」

「まあ、顔は似ても似つかないが、何だろうな、向こうが本物なのに、そこはかとなく偽者感が漂うよな」

「ちょっとハワード、私にそっくりってどういう意味かしら? 雰囲気が似てるのは私だけじゃないと思うけど?」


 相手側の色男が細身の剣を抜き、ジリジリとこちらに迫ってきたが、三人は特に気にせずズンズン路地に向って歩き出した。


「止まれぃ! そんな丸腰でオラの剣に勝てるとでも思ってんのがぁ? 田舎もんだと思ってなめんなよ! オラァ一味の中じゃ一番強いんだ! このレイピアはなぁ……」


 ヒュンっと風を切るような音がしたかと思うと、色男の剣は刃の部分が根元からポロリと落ち、キーンと音を立てて地面で数回跳ねた。


「王家……の…………。おめぇ、今どっからその光る剣ば出した? 何も無ぇとっから急に飛び出して来たでねえか! 魔法使いか? いや、幻でなく実体ば出せるって事は、魔法騎士か?!」


 アナスタシアは魔法で瞬時に剣を出し、男のレイピアを使い物にならなくした。魔力を帯びた剣に切れない物は殆ど無い。格下の相手を傷つけずに無力化させる手段として無意識に身体が反応してしまった。


「その剣が王家の、何? 縁の品だとでも言うつもりなら、ただの粗悪な模造品よ。本物はセーファス殿下が持っているもの。そこをどきなさい、怪我をしたくなければ、ね」


 ピタリと色男の眉間に剣先を向けると、その切っ先から小さな炎が上がり、チリチリと前髪を焦がし始めた。男は寄り目になりながらも、青白く輝く魔力が湯気の様に立ち上る刀身を見て、恐怖に慄き後ずさった。


「こっ、こいつらぁ本物だ! やべぇ、逃げるぞピッペ! モス! オラ達じゃ太刀打ち出来ねえ。人買いばしてる事バレたら縛り首だ、バッカス船長さ言って、さっさと船ば出すぞ!」


 こいつらは馬鹿なのか、マリエルを他所に運ぶだけかと思いきや、人買いをしていると自ら暴露してくれた。ハワードはそこから逃げようとするピッペとモスと呼ばれた少年と大男を瞬時に気絶させ、色男ににじり寄った。


「ピッペ! モス! まさか殺したんでねぇだろうな?」


 地面に倒れた仲間を心配して声をかけるが、気を失っていて反応は無かった。


「気を失ってるだけだ。世界中で奴隷制度が廃止され、この国で人身売買が禁止されてから70年以上も経つというのに、お前らのような輩が居なくならないのは何故だろうな。マリエルを捕まえに来て、思い掛けない土産まで出来た。そろそろ応援部隊が来る頃だろう。お前は、このままバッカスという男の所へ案内するんだ」


 ハワードの読み通り、それからすぐに大通りからこの狭い路地に騎士達が入って来た。そしてテッドが頼んだ応援部隊はマルクスを連れて来ていた。


「ご苦労だったね、アナスタシア、テッド、ハワード。と言うか、驚きだよ。今朝頼んでもう任務完了って、これじゃ先輩達は立つ瀬が無いな。団長も驚いていた。しかし……この店にも捜索に来ているはずなんだけどな……」

「キースリング副団長、実は思い掛けない収穫がありました」


 ハワードはアナスタシアに威圧されて動けない色男を指し、ニヤリと笑った。

 マルクスは色男の次に、地面に転がる少年と大男に視線を移し、何かに気付いた。


「君達、もしかしてこの男達に扮して潜入したのか?」

「まさか、これは偶然です。自分達も気付かずに、今日マリエルを引き取りに来る事になっていたこいつらの姿と似てしまっていたんですよ。お陰で、何の苦労も無くマリエルを捕らえる事が出来ました。そしてこの男達は、人買いの一味です。港にバッカスという男の船が待っているはずです。すぐに向って取り押さえましょう」

「はは……そりゃ大変だ。マリエルの事は他の者に運ばせよう。君達三人と、他に30名ほど僕に付いて来なさい。港へ行きます。他の者はこの店にいる仲間を捕らえて本部に連れて行くように」


 マルクスの指示で騎士達は即座に動き出した。10名単位のチームが三つ、迷い無くマルクスの前に整列した。


「あの、マルクス様、潜入前にここでたむろしていた男達が居たのですが、気を失っていたはずが居なくなっていて……」


 アナスタシアの発言を聞き、威圧を解かれてぐったりと壁に凭れていた色男がそれに答えた。


「ここさ転がってた男達は介抱して向こうの物陰さ寝かせてある。取り引きしねーか? オラ達の持ってる情報さやるから、縛り首は勘弁してくれ。ピッペは12歳でまだ子供だ。それに小せえ頃に誘拐されて来た被害者でもあるんだ。オラもモスもそうだ。この国の人間でも無えし、元から人買いの仲間だって訳でも無え。何でかバッカスに気に入られて、売られず下っ端として働く事さなったんだが、信用させていつか監視の目が無くなったら三人で逃げるつもりで居たんだ。頼む、国さ帰してくれ、せめてピッペだけでも」

「色男、お前の言っている事が本当なのか信用出来ない。何か証明できるものはあるのか?」


 色男は服で隠して首に下げていた守り袋を引き出すと、中に入っていた指輪を手に取り、ハワードに渡した。子供か女性用なのかサイズは小さいがそれは立派な紋章入りの物で、ハワードも見た事の無いデザインだった。これが彼の物だとすれば、間違いなく高貴の出という意味だ。


「オラは色男なんて名では無え。ホーク・ヴェルシュタム。森の民ユーリス族の族長シアの息子だ。ピッペが誘拐される所を見て追いかけたはいいが、力足らずで一緒に捕まっちまった。今のピッペと同じ年の頃で、もう5年も前の話だ」

「森の民ユーリス族……それってザイトブルクの少数民族じゃない? リサが言っていたわ。学園に入る直前に友達が行方不明になったって。確かピッペと言っていた気がする」


 リサからその話を聞いたのは一年生の頃。森の民に友人が出来たが、その子が行方不明になってしまったと悲しんでいた。同時に族長の息子も居なくなり、捜索隊が出たと言うがその後どうなったのか分からずじまいだったのだ。まさかこんな所で見付かるなんて誰も想像しないだろう。



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