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雲隠れ

「団長、それは本当ですか!? なんて馬鹿な女だ。一体何を考えているんだ!」


 団長が読み上げた報告書の内容にテッドは声を荒げ、三人は目を合わせた。

 あの事件の後姿を消したマリエルが、この町で娼婦をしているというのだ。別にそれだけならば彼女はこの町に埋もれ、誰も気に留めなかっただろうし、今更咎めもしないのだが、愚かにも客寄せのために余計な事を色々と暴露していた。

 自分は男爵の娘で第四王子と恋人関係にあったとか、学園にいた頃に、ある令嬢から婚約者を奪った事があるなど、箔を付けるつもりで学園で巻き起こした数ある武勇伝を惜しげもなく披露していた。それが自分の首を絞めているとも知らずに、有る事無い事言い触らしていたというのだから驚きだ。


 トラヴィスは騎士団の宿舎に入るなりその噂を耳にして、かつて恋人だったマリエルを探しに娼館を一軒一軒回っていたという事だ。娼婦が自分の身の上話を盛って話すのは昔から良くある事で、それを聞く相手は面白がりはしても本気にする事は無い。とは言っても、彼女の話は真実なのだから当事者にしたら大迷惑だ。早く口止めしなければ、後から来るアナスタシアにまた迷惑が掛かると思い、連日歓楽街を歩き回り情報を得ようとしたのだが、今や店のナンバーワンとなったマリエルを同業者達は庇い、居場所を突き止める事は難しかった。

 マリエルが教えたのだろう、トラヴィスが元第四王子である事を店の者達は知っていて、噂の王子が探し始めた事で厳罰が下る事を恐れ、マリエルは店に出ることは無くなり、雲隠れされてしまったのだ。


「元々歓楽街で働く女の中には、貴族の娘や亡国の姫だと言って自分の価値を上げようと嘘をつく者も多く、そのマリエルとか言う女もその一人として誰も気にしていなかった。最近人気にかげりが出て来たせいか、学園にいた頃の話なども吹聴し始め、具体的な貴族の個人名も出ていた。その中の一人の親がたまたまミナージュを訪れていて、女を捕まえて欲しいと頼まれた。見回りの者に探させたのだが、トラヴィス本人が派手に動いたせいで、どうやら雲隠れした様でな、今は捜索の真っ最中だ。お前たちも本人の顔を知っているなら協力してくれないか。同じ学園だった者達にも協力させるつもりだ。今朝早くトラヴィスを呼んで、話は全て聞かせてもらった。まったく、陛下の判断は甘かったな。爵位を取り上げ身ぐるみを剥いで放り出したくらいでは、あの手の輩は這い上がる術を知っている。緘口令を敷き、臭い物に蓋をしたつもりかもしれないが、せめて要職に就く者の耳には入れておいて欲しかった。お陰ですべてが後手後手に回り、今こうして余計な仕事を増やされている」


 団長は町の会合の席で、マリエルを庇う者には厳罰を与えると脅しをかけたが、歓楽街は裏組織が取り仕切っており、そう簡単に言う事を聞くとは思えなかった。

 

「私があの時、陛下に厳罰を願えば良かったのだわ。望むなら彼女の首をはねると言われて、そこまでしなくてもとお断りしたのです。リサも殺生は好まないから、あんな事を聞かれて相当困っていたわ。公表されていなくても、禁錮刑に処されているものと思っていたのに、まさか自由の身になっていたなんて」 

「馬鹿な……女性相手に同級生を処刑して欲しいかと、わざわざ訊ねたというのか? 女性に判断を委ねずに王の権限で即執行すべき所だろうが。あの方は戦争を知らない世代でも特に争いを好まない平和ボケした頭の持ち主だが、そこまで腑抜けだったか。さっさとジュリアスにその座を譲れと言いたい」  


 団長の過激すぎる発言に、三人は思わず周りを確認してしまった。こんな事、誰かに聞かれたらどうなってしまうか。マルクスは特に動じていない事からも、普段から彼はこんな事を言っているのだろう。


「僕も同感だけど、臣下としてその発言は不味いのではありませんか?」


 マルクスはアナスタシア達の表情を見て、気持ちを代弁してくれた。


「ふん、俺は今の陛下ではなく、ジュリアスの臣下だと思っている。隣国との戦争を終結させるために、あいつは子供の頃から……いや、今はそんな話はどうでも良い。話は戻るが、お前達はまだ面が割れていないから、私服で捜索に当たってくれ。始めるのは、明後日の入団式の後からで良い」

「いえ、直ぐに始めます」

「悪いな、まだ正式入団前だというのに」


 三人は声を揃えて返事をして、団長の言葉に軽く微笑むと、一礼して部屋を出て行った。


「真面目ないい子達だね。アナスタシアとテオドールは、領主になる為に数年で辞めなくてはならないのが惜しいくらいだ。最近は騎士の肩書きが欲しいだけのやる気の無いやつが多いのに、今年の魔法学園出身の新人は何だか今までと違う気がするよ。彼らが引っ張っているのかな」

「そりゃあ、女性騎士が誕生したんだ。男なら負けていられないと思うだろ」


 マルクスと会話しながら、団長は残りの報告書に目を通し始めたのだった。



 団長室を出た三人は急いで自室に戻り、制服から私服に着替えてマリエルの捜索に出る準備をした。

 アナスタシアは鏡の前で自分の姿を確認する。歓楽街を歩くならば、女性の姿では何かと不都合があるとハワードに言われ、手持ちの服を工夫して男装してみたのだが。胸元にフリルのついたブラウスを着て、膝下丈のズボンにロングブーツを合わせた服装は貴族の少年を思わせた。


「うーん、これじゃ変に目立ってしまいそうだわ。もっと着崩せば良いのかしら? それとも髪型のせい? 団長を真似て、サイドを編んだら少しは違って見えるかしら」


 アナスタシアは試しにサイドの髪を編み込みにして、髪に整髪料をつけ、無造作にセットしてみた。それが意外にも似合って、それに合わせて普段剣の訓練で着るラフなシャツとズボンに着替えてみた。いつもの格好だが、髪型を変えただけで随分雰囲気が変わった。

 部屋を出ると、アナスタシアほどでは無いが、町に溶け込むようにいつもと雰囲気の違う二人が待っていた。

 

「お待たせ。じゃあ行きましょうか」

「驚いた……団長をモデルにしたのか。下手な男よりカッコいいじゃないか」

「身体の華奢さは誤魔化せないから、せめて喉元を隠そう。これを首に巻いておけば、いざとなれば顔も隠せる」


 ハワードは手に持っていたアフガンストールをアナスタシアの首に巻いてやり、一歩下がって出来栄えを確認した。


「うん、不良少年みたいで良いんじゃないか。アナ、お前は後ろで周囲の状況を見て、おかしな動きをしている者がいないか確認してくれ。どこかからマリエル本人が様子を窺っているかもしれないしな」

「了解」


 三人は馬車で町まで出ると、途中で降りて歩き出した。町は朝から大変な賑わいを見せていて、また新たに異国の船が入ったのか、逞しい男性達が港へ続く道の方へ急いでいた。


「あ……そう言えば、トラヴィス様は今頃まだ食堂で、アナが来るのを待っているのだろうか?」

「フハッ、忘れてたよ。よく思い出したな、テッド」 

「もしかして、マリエルの事を話そうとしていたのかしら? だとしたら、ちょっと悪いことをしたわね」

「お前が気にする必要は無い。勝手に待たせとけ」


 大通りを進み、歓楽街へと続く横道に差し掛かった時、前方から来る男性二人組が話す内容が耳に届き、アナスタシアは足を止めた。


「つまんねーな、しばらく休業かよ。調子に乗り過ぎたか」

「そりゃ貴族連中も、あんな話を暴露されてると知れば流石に動き出すだろ。名指しはマズかったな」

「あれって本当だと思うか? 婚約者の居る王子を落としたってやつ。ちょーっと、あの程度の顔じゃ無理なんじゃねー? 身体とテクは大したもんだと思うけど、俺なら貴族のお嬢様を選ぶね」

「だけど気位の高い、いけ好かない女だったって言ってたぞ? それに不細工だって。気位の高い不細工って、プッ、最悪だろ。はっはっはっは」


 テッドとハワードは互いに目を合わせ、横を通り過ぎようとする男達を捕まえて狭い路地に引きずり込んだ。男達を壁際に追い込み、手を壁について進路を阻み、逃げ道を塞いだ。

 男達はイケメンからのいわゆる壁ドンにタジタジで、ちょっとだけ頬を染めた。


「お前たち、じっくり話をしようか」


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