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エピソード0・親友になる前は

物語は完結していますが、カットしたエピソードを追加します。

トラヴィスに罵倒される直前のお話です。

つまらなかったらごめんなさい。

 初めて彼女を見た時、「あの山の向こうにこんな可愛い子が居たのね」って、馬鹿みたいだけどそう思った。小さな頃からあの険しい山の向こう側には敵がうじゃうじゃ居て、私達の国に攻め込もうとしているんだって教えられて来たのよ。そのせいで、想像の中のザイトブルクの人達は恐ろしい悪魔みたな姿だと思っていたの。



「彼女はリサ・ザイトブルク第二皇女様です。この学園へは特別に留学が認められました。魔法科と魔法騎士科では皆と同じに扱います。皆も普通の学友として仲良くして下さいね」



 仲良くって……そんな簡単に敵国の姫と仲良くできると思っているのかしら? 想像してたよりずっとずっと可愛いけれど、あの子も警戒心剥き出しじゃないの。お姫様なら顔に出しちゃ駄目でしょうに。



 12歳のアナスタシアが敵国の皇女リサと初めて会った時、その印象は最悪だった。彼女は常に眉間にしわを寄せ、周りの生徒たちを威嚇するように睨みつけていた。通常授業が始まってからも誰とも口を利かず、彼女は一人で行動していた。

 そんなある日、リサが学園の魔道具の使い方が解らずオロオロしている場面に遭遇した。それはこの国の者ならば誰でも使える、何てこと無い道具だった。魔法科の生徒達が、コソコソと影口を叩いている。

 アナスタシアは堪らずリサに声をかける。


「どうしたのですか?」

「あ……この使い方が解らなくて……私の国には無い物だから……」


 リサは恥ずかしそうに答える。それを聞いて周囲にいた生徒数名が笑い声をあげた。


「そうですか、これの使い方は簡単なのですよ。誰だって、初めて目にした物を説明も無しに使えるわけがありませんもの。私だって、初めは父に説明を受けるまで使えませんでした。知らなくても恥ずかしくなんかありませんよ。ほら、ここをこうして……」


 道具の使い方を丁寧に説明し、リサを笑った生徒を睨み付ける。


「あなた達だって初めはこうだったのを忘れてしまったの? 困っている人を笑うだなんて、同じ国の者として恥ずかしいわ」

「……あなた、アナスタシアさんと言ったかしら? ありがとう、私に話しかけるの、嫌だったでしょう? でもそんな言い方をしたら、あなたも標的にされてしまうわ。ごめんなさい、私のために……」

「リサ様、そんな事気にしなくて良いのですよ。では私はこれで失礼しますわ」

「あ、待って!」


 立ち止まり振り返るアナスタシアに、リサは両手に拳を握り、勇気を振り絞って話しかける。


「良かったら、この後一緒にランチに行かない?」


 アナスタシアは、皇女のまさかの言葉に目を丸くするが、満面の笑みで答える。


「ええ、喜んで」





 学園長に呼び出され、魔法科の専門棟と学園の校舎を繋ぐ渡り廊下を颯爽と歩きながら、アナスタシアはリサと出会った頃を思い出していた。ここへ来る途中にリサが苦戦した魔道具が置いてあり、それを見たせいだろう。


「ねぇリサ、今思い出したんだけど、私、あなたの第一印象最悪だったわ。あなたったら警戒心剥き出しで、目が合えば必ず睨みつけてくるんですもの」

「ふふっ、そんな時もあったわね。だって仕方ないでしょ? 父の命令で来たくも無い敵国にやって来たのよ? 周りにいるのは鬼の子だと思って怖かったし、学園内には護衛も侍女も居ない、一人ぼっちでいじめられてしまうんじゃないかって不安だったもの」

「鬼の子?」

「国境の在るあの山の向こうには、鬼が住んでいると思っていたのよ。小さい頃に乳母が私に聞かせた話を信じていたの。そんな訳ないのにね」

「私は悪魔のような姿の人達が居るのだと思っていたわ。笑っちゃうわね。お互い同じように思っていたなんて」


「話せば分かり合えるものなのよね。私達が分かり合えたように、二つの国が仲良くなれる日が早く来てほしいわ」

「あなたとジュリアス殿下が婚姻を結べば良いのではなくて? 私が知らないと思ったら大間違いよ。殿下が子供の頃、ザイトブルクへ短期留学した時に知り合っていたのでしょう? 成長して再会したあなた達を見て、ピンと来たわ。あなたに気付いた殿下は面会に来たはずの私なんか目に入らずに、リサの事ばかり見ていたもの。それにあなたも殿下を見つめる目がうっとりしていたわ。よく知る二人が一目惚れする瞬間を目撃しちゃって、こっちが恥ずかしかったわよ」


 第二王子セーファスと第三王子クレメンスは幼少の頃からランスウォールの地に定期的に遊びに来ていて、アナスタシアとは仲が良かった。美しく成長していく彼女の事を、婚約者でありながら無視する弟トラヴィスには、わざと何も教えなかった。それ故に大惨事となってしまったのだが。

 年に一度、騎士団の視察に来ていた第一王子ジュリアスもまた、アナスタシアと交流を持っていた。弟の婚約者として将来の義妹をとても可愛がっていた。

 セーファスとクレメンスに連れられて、アナスタシアに面会に来たのは半年前。そこでリサと再会し、互いに惹かれあい、密かに逢瀬を重ねている。二人は気付かれていないと思っているが、リサを見ればバレバレなのだ。

 もうすぐ学園も卒業する。リサは母国に帰り、国王を説得するだろう。二人には、もう何十年も続く休戦状態から、両国の話し合いで完全に戦争を終わらせて欲しいと願う。




 コンコン


「学園長、魔法騎士科第5学年が揃いました」

「ああ、奥へ通して下さい」


 年に数回、学園長に呼ばれて茶話会のような事をしている。魔法騎士科の他学年もしているようだが、学年末に一度だけらしい。数回呼ばれるのは、リサ皇女の様子を見るためだろう。学園生活に不便な事や不満に思った事は無いかと執拗に聞いてくる。初めの頃は色々あったリサも、アナスタシアと初めて会話したあの日から学園内で嫌な思いをしていない。茶話会は一時間ほどで解散となり、専門棟へ戻る渡り廊下を進む。


「アナスタシア・ランスウォール! お前との婚約を破棄する!」


 中庭にある小高い山の上で、昔の面影を残す婚約者のトラヴィスが見知らぬ少女と腕を組み、取り巻き達に囲まれて何やら叫んでいる。7歳で初めて会ったあの日から、実に10年振りの再会であった。

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