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叙任式の後は

10/29に5話からの話を差し替えたので、まだ読んでいない方は話が繋がりませんので、そちらを読んでから最新話を読んで下さい<(_ _)>

  謁見の間には騎士となる卒業生達が軍隊の如く綺麗に整列し、叙任式が始まるのを待っていた。リサは父兄席で皆の晴れ舞台を見守る。敵国の皇女がこの国の騎士の誕生を見守るなど前代未聞だ。

 司祭が一人一人に祝福を与え始めた。これが済めばいよいよ叙任式の始まりだ。


 陛下はお父様を呼び出して、私が後継者となることを放棄した件を話しているのかしら? いえ、それもあるけれど、男の子の親子鑑定の事ね、きっと。私が新人研修に向う前に結果が分かれば良いのだけれど。


 父兄席には遅れて来て深刻そうな顔をしたランスウォール伯爵が並ぶ。国王が玉座に着き、叙任式が厳かに始まった。騎士になる者全員が一斉に跪き己の番を待った。一人ずつ王の前に進み、騎士としての誓いを立て、宣言し、跪き頭を垂れて、国王の長剣を肩に受ける。

 魔法騎士となるアナスタシア達にはさらに司祭から魔法騎士であることを示す守りのクロスを受け取る。それを襟元に装着し、晴れて魔法騎士となる事ができた。

 ランスウォール伯爵は娘の快挙を喜び涙した。後継者となるかどうかは別として、この日、世界初の女性騎士が誕生したのである。アナスタシアがクロスを受け取った瞬間、シンと静まり返っていた謁見の間には感嘆の声が洩れた。



 叙任式は滞りなく終了し、全員一度、各寮へと戻った。この日ばかりは専門棟の寮の結界は外されている。

 寮の前には各家からやって来た馬車がずらりと並んでいて、従者や侍女などがその前で主の帰りを待っている。中でも一際目立つのは、さすがは王族、ザイトブルクからリサを迎えに来た馬車は計12台。その周りに黒い護衛騎士が30騎待機している。この国の貴族の物と馬車の作りが違うせいもあり、煌びやかで近付きがたい雰囲気が漂っている。すでに従者やメイド達の手でリサの寮の部屋から荷物を運び出し、次々馬車に積み込んでいる。

 アナスタシアの家の馬車はまだ来ていないようで、寮の前にはランスウォールの紋章の付いた馬車は見当たらなかった。迎えの列は長く、この場に入りきれないでまだ寮の敷地の外に並ぶ馬車も多い。


 アナスタシアの使っていた部屋で、リサの荷物の運び出しが終わるのを待っていた。部屋の窓から外を見ると、次々と生徒達が迎えの馬車に乗り帰って行く。魔法科の皆とは昨夜のプチ卒業パーティーでお別れの挨拶は済ませたが、それでも窓から外を眺めているアナスタシアとリサを見つけて手を振ってくれた。

 リサ以外とは社交シーズンが来ればまた会うことになるのだ、一年目はリサの事で険悪だった魔法科の生徒達とも、時間をかけて良い関係を築く事ができ、アナスタシアは満足だった。

 馬車から手を振る友人達に手を振り返しながら、リサと最後の会話を楽しむ。


「アナのお家の馬車はまだ来ていないの? これだけの数が一斉に迎えに来てるんだもの、仕方がないかもしれないわね。先に帰り支度をしていた魔法科の子達だってまだそこに居るくらいだもの、叙任式に出ていた騎士科と魔法騎士科が帰れるのはまだまだ先ね。専門棟でこれだと、騎士科の寮はもっと大変な騒ぎなんでしょうね」

「ふふ、きっとそうでしょうね。それにしても、リサが王族だって忘れかけていたけど、あれを見たらやっぱり王族なんだって実感するわ。今度はいつ会える? ジュリアス殿下との結婚式までは無理かしら?」


 リサは目を丸くしてアナスタシアを見る。


「私が何も気付いてないと思ったら大間違いよ。あなたの部屋にこっそり入って行く殿下を何度か見たもの。それにね、窓を開けたままで、ああいう事は止めた方が良いと思うわ。下の階は空室だったから良いけれど、隣の私の部屋には全て筒抜けだったわよ?」

「ちょ、嘘でしょう? ジュリアスが来た時はアナは部屋に居なかったはずだもの。いつも剣を持って鍛錬に行っていたでしょ?」


 真っ赤になって慌てふためくリサに、舌を出しておどけてみせる。リサはそれが嘘だったと気付いて怒りだした。アナスタシアの肩をポカポカ叩く。


「もう! カマをかけたのね? 酷いわ!」

「ふふふ、部屋に入るところは見てないけれど、非常口から寮に招き入れているところは何度か見たわよ? あのジュリアス殿下が、辺りを気にしてキョロキョロしちゃって。そこまでしても会いたかったのでしょう? 羨ましいわ。私は結局、学生のうちに恋愛を楽しむ事すらできなかったもの」


 リサはアナスタシアに向けて振り上げていた手を、ゆっくり下ろした。長年トラヴィスという婚約者が居たせいで、誰とも恋愛出来なかった事は知っている。その当のトラヴィスは堂々と浮気していたわけだが。

 魔法騎士科の男性達は皆アナスタシアに恋をしていたが、トラヴィスという婚約者が居たから気持ちにブレーキをかけていた。婚約破棄宣言で邪魔な存在が消えた後、こぞって告白でもするのかと思えばそれは無く、いつの間にか、仲の良かったハワードとテッドが微妙な関係になっていた。抜け駆け禁止とでも約束したのか、この二人はある時からアナスタシアと二人きりになる事は絶対に無かった。昨夜の非常階段での出来事で久しぶりにテッドと二人だけで話をしたのだった。


「アナ……誰か好きな人が居るの?」

「……それを聞かれると、良く分からない」


 沈黙が続く中、リサはあることに気付く。アナスタシアの部屋は荷物が片付けられていて、五年分の荷物にしては少な過ぎる大きなトランク二つをドアの前に置いてあるが、まだ壁には男物のコートが掛けられていた。初めは昨日お父様の物を借りたのだろうと思って気にも留めていなかったが、それはどこかで見覚えがあった。どこで見たのか思い出そうと頭を悩ませていると、窓の下にテッドが見えた。


「テッド! テオドール・バルシュミーデだわ! それ彼のコートよね、どうしたの? いつコートを借りるタイミングがあったのかしら?」


 リサはコートを指差した。持ち主を思い出しスッキリした顔をしてアナスタシアに疑問をぶつけた。


「え? ああ、昨日の夜、眠れなくて非常階段から空を眺めていたの。そしたら丁度、テッドも酔い覚ましに外に出てきたのよ。その時に薄着だった私に貸してくれたの」


 淡々と話すアナスタシアだったが、昨夜の事を思い出し、内心ドキドキしていた。リサのお陰ですっかりポーカーフェイスが上手くなり、少しも動揺は見せなかった。


「酔い覚ましって? 男子寮ではお酒を飲んでいたっていうの?」

「ええ、私たちが知らないだけで、よく羽目を外していたみたい」


 こんな会話をしているうちに、リサの荷物は積み終わっていた。メイドがリサに声をかける。


「殿下、そろそろ馬車にお乗りくださいませ。ジル殿下もお待ちで御座います」

「お兄様が迎えに来て下さったの? そんなタイプでは無いのに、どういう風の吹き回しかしら? 家族は誰も来ないと手紙には書いてあったのよ?」

「ジル殿下は親友となられたアナスタシア様に一度お会いしたいと申されておいででしたが」


 リサとメイドはアナスタシアに目を向ける。


「光栄ですこと。私もご挨拶させて頂きたいです。馬車まで送るわね、リサ」




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