ハンカチの女性
そして今日あったことを日記に付ける。この日記は祖母に自分の一日の様子を伝えるためのものでもある。
日記を書いているうちに、今朝出会った人物について思い出した。自分が転んでしまって、手を貸してくれた人物である。
今朝、七時頃に起き、学校に向かう準備をしていた。
新しい制服がまだ届いておらず、着ていく制服は前の学校でも着ていた姉のお古だ。
そのためサイズが合っておらず、少々小柄な自分にとっては大きい。夏服のセーラー服を着て、横のファスナーを上げ、タイを結ぶ。
そしてスカートの上からベルトをしめる。暑いから靴下は後から履くことにした。
ここまでは以前の生活と変わりないのだが、問題はここからだ。
自分は朝ご飯を食べなければ午前中は動けなくなるタイプだ。
しかし、今まではご飯は親が用意してくれていたし、一人暮らしをする前は祖母が用意してくれていた。ゆえに、自分はご飯が作れないのである。
悩んでいても時間がすぎるだけだと考え、とりあえず学校の用意をして途中でコンビニ寄って買うことにした。
幸い、コンビニはアパートの近くにあり、無事に朝ごはんを済ませることができた。
そして学校へ向かおうと歩き出した矢先、何かに躓いてしまい、転んでしまった。
幼少の頃からよく転んでいたので、転ぶことには慣れていた。
なので自分では「ああ、また転んでしまった」と思っていたのだが、不意に声がかけられた。
「あの、大丈夫ですか?」
その声はとても慌てていた。しかし、慌てていてもどこか上品さのあるとても可憐な声だった。
ふと顔を上げると、声と同様に上品で、可憐な女性が自分のことを心配そうに見つめていた。
その女性は何かを思いついたかのように鞄の中からミネラルウォーターとハンカチを取り出した。
そしてそのミネラルウォーターでハンカチを濡らした。
「足、怪我しちゃいましたね。消毒液がなくてこんなもので申し訳ないですが…。」
その言葉で右足の脛の部分を擦りむいていたことに気がついた。
少しヒリヒリとしていた原因はこれだったのかと納得していた。
膝の部分は長いスカートに守られていたようだが、脛は靴下を下ろしていたために擦りむいてしまったようだ。
女性はそんな脛を丁寧に優しくポンポンと叩いて拭いてくれた。
そして苺の柄をした可愛らしい絆創膏を取り出してつけてくれた。
「これで良いですね。では、気をつけて学校に行ってきてくださいね。」
女性は柔らかな笑みを浮かべで立ち上がった。
そして、一緒に来ていた友人のような三人の男性たちの方へと歩き出した。
「あの!」
気が付くと声をかけていた。女性は振り向き、首を傾げる。
「どうしたんですか?」
「ハンカチ!…と絆創膏、あ、ありがとうございました。」
どうしてお礼を言うだけでこんなにも緊張したのだろうかと今になると思うが、恐らく、あの女性から出ているオーラがそうさせていたのだろう。それだけ圧倒されていた。
「どういたしまして。…またね。」
女性は意味深な笑みを浮かべると、また男性たちのもとへ向かって歩き出した。とても不思議な雰囲気をした女性だった。