表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学校の魔法使い =華・サフランの人間観察=  作者: 弐逸 玖
うつくしヶ丘高校の古道具愛好会
8/36

とおみノ原のコンビニ跡地 (上)

 ……会長やアイリスは多分この事態を予想した。

 だから魔法使いが体系化されて二百年の歴史でも例を見ない、

 “摂理アイ・オブ・の目(プロヴィデンス)"

 を持つ桜を同行させたのだ。


 それならそうと最初に言って欲しいものだ。

 仁史君が来ないと言うなら

 "女神(シ-ルド・オブ)の楯(・アイギス )

 は要らないと言う判断なのだろうけれど。



 だから、――ほら、あそこ!。と言われてもただの町並み以外。当初は全く見えなかった。

 但し結界術の基本は隠したいものから“目をそらさせること”。……だから。


「ほら、目の前。でっかい駐車場のあるコンビニの跡地があるでしょ?」


 と、言われた瞬間に"大型三台可"と書かれた看板以外、店名や名前の外されたコンビニ跡地と、その駐車場の真ん中、ポケットに手を突っ込んでこちらを含み笑いで見つめるうつくしヶ丘の制服の男子が見える。

「またうつくしヶ丘ウチの生徒かい!」

「そんな事より大葉さん、わかりますか?」


「あぁ、空間膨張? 認識拡散……。まぁなんでも良いが、あの駐車場。踏み込んだら最後、やたらに広くて迷子になるぞ! クロッカス、結界解放ブレイク出来るか?」

「パワーでは無くテクニカルな問題、……大葉さんでもダメ、ですか」


 グレードはともかく、テクニックは日本でも指折りの大葉さん。

 彼が見た瞬間にブレイクを断念するような結界。


「私が正面から当たります。大葉さんは、結界に踏み込む前に別れて、桜と組んで」

「いや、確かにアヤメちゃんからも神代ちゃんの面倒を見ろとは言われたが。……神代ちゃんと俺が組む? なんか手があるのか?」


 この結界。明らかにおかしい。桜では無いが、気が付いたのなら対処は出来るはず。


「どうせ相手は低級魔法使いクラスレス。少なくても私なら、魔法戦になったところでパワー負けはない。――桜、あの中に強烈におかしいところがあるはず。そこを見つけて大葉さんに壊して貰って?」


「華ちゃん、それってどんな感じ?」

「多分大きめの段ボール箱みたいな感じ。但し結界の中は校庭よりも広い上に自分以外の、というよりは他人の存在感自体が希薄になる、それは桜だって免れない。大葉さんとは絶対はぐれないように注意して」



 男性とそういう事をしろ。

 と言うのははばかられるがが、現状は桜の勘を頼るしかない。

 ならば桜を結界の中に入れざるを得ない。

 ……つまり口に出すしかない。



「……大葉さんと、手を。その、つないで。――絶対に放さないでね。はぐれて迷子になってしまったら。最悪の場合、こっちにかえって来られなくなってしまうから」

「うん、わかった」


倍力回路サーボユニットを組んでるか。なるほどな、この異常なまでの硬さはそれか」

「単なる増幅回路アンプリファイアかも知れませんが、いずれこんな感じ方は人の力だけでは有り得無い。何らかの魔法回路マジカルユニットが介在してます。――それに今現状、自分も結界の広さに飲み込まれて、こちらにはまだ気が付いていない。この結界自体、術者の制御下にある(アンダーコントロール)とは言えない、テクニックは素人も良いところ。かえって危険だわ」



道具使いアイテムテイカーだからな。単純なアンプリファイアのロジックもサーボを超えるような使い方、するかも知れねぇ、確かにな」

 ――こっちは店舗の隅から回る。タイミングは任せる。そう言うと大葉さんは桜の手を取り彼の正面の位置を離れる。


 私は正面から堂々と、B+の力を見せつけながら術者である彼の力に沿って進めば良い。

 それなら絶対に迷わない。


 もっとお行儀はよく出来るのだけれど、あえて自分の入り込むスペースにぶつかり、揺さぶり、土をグラブにしたパンチで叩き割った。

 どうせこの辺に関して言えば、すぐに自動で修復はなされるだろうし、この隙に大葉さん達は静かに中へと入れたはずだ。


 まさに広大としか言いようのない駐車場。

 目の前にあったはずの壁が一切見えずに地平線が見えている。――すぅ。息を吸い込む。

 執行官エンフォーサーをやる場合、これが一番イヤなのだが、規則だから仕方が無い。

 背後で叩き割った結界が修復する気配。旨くこちらを見つけてくれただろうか?



 ――こちらは政府の魔法案件対処部門である、特殊産業振興会執行部です!

 ――異常かつ違法な魔力の発動を確認しました。直ちにアイテムは放棄、呪術、術式は解除し、自己封印を施した上で投降するよう勧告します!

 ――勧告に従わない場合、即時強制執行を開始し、実力を持って魔法術式は解体解呪、この場合、術者も強制力をもって逮捕拘束します! 

 ――もう一度だけ繰り返します、こちらが実力行使を行う前に直ちに投降しなさい!


「――芸の無い意識放散結界なのだから、広く見えるだけで実際には目の前に居るはず。聞こえているでしょう? 返事をしなさい!」




「……僕の結界がなんなのか、わかっているようだね? キミも結界を使うのか?」

 嫌ったらしい男の声は結構近所から消える。

 ……既に補足されたか? こっちはまだ正確な位置がつかめていない。


「私が何者なのかは置いて、返事を聞きましょう」

「一年のサフランさんだったよね? この中なら誰も来ない。王である僕はキミをきさきとして迎え入れてあげよう!」


 答えを聞いて、全身に鳥肌が立つ。

 なんで最近、こんな頭のおかしいヤツばかりがっ!


「せっかく全校でも有名な君に会えたんだ、なるべく傷を付けないように先ずは自由を奪うよ。そのあとゆっくり僕を理解してくれれば良い。なにしろ時間はたっぷりとある」

 言うが早いか捕縛結界、俗称トリモチの気配。

 タイムラグゼロ。



 大葉さん並みに器用でないとこんな事は出来ない。多分諜報もこれにやられたのだな。

 ただし、サーボは周りの結界のみに有効のようだし、単なるトリモチに捕まる私では無い。

 ブレイクも容易だ。しかしあえて術は受ける。首より下の自由が完全に奪われる。


 ゆっくりと恍惚の表情を浮かべて彼が近づいてくる。


 ……嫌だ、来るな、寄るな、気持ち悪いっ! 


 彼との距離をつめる為にあえて術にかかったのだが、体は強烈な拒否反応を示す。

 この空間は正確な距離が測りにくい。もうちょっとだ、あとほんの少しだけ我慢しろ、私!



「君と話せる日が来ようとは。僕はね……」

「ブレイクっ!」

 ガシャーン! 砕け散るガラスの音と共に私を捕縛した結界は消え去る。


「あなたの考えはわかりました。強制執行を開始します!」

「ふふ、そう来なくちゃつまらない」

「自分と相手。双方の実力を見誤ると怪我をするのは自分だと、大前提がそもそも理解出来ていないようね。――舗装牢獄アスファルトプリズン! まずは私の目の前から失せろっ!」


 アスファルトで出来た壁が四枚、周囲から立ち上がり彼を取り込んで3m近くまで延びる。

 ……ふぅ、一安心。と、思った瞬間。風が渦を巻いてアスファルトを粉々に打ち砕く。風の魔法!? 



 ――土は水を吸い込む。だから水の魔法は土に飲み込まれる。

 ――水は火を消す。だから火の魔法は水に打ち消される。

 ――火は風で勢い付く。だから風の魔法は火に取り込まれる。

 ――風は土を削る。だから土の魔法は風にそぎ取られる。

 4エレメントの4すくみ。どうやらキチンと属性を理解して使ったらしい。




「魔法使いか。まぁ良い、僕はそう言う準備だってぬかりない」

 彼の右手に握られているのは一降りの指揮棒タクト

 風属性の魔法の杖マジカルワンド

 その大きさでその威力、どうしてそんなまともなアイテムを持っている!? 


「キミのように聞き分けの悪い子は、お仕置きが必要だね。僕は本当はやりたくないんだ、次からは聞き分けてくれよ?」

 彼は持っていたタクトを躊躇ちゅうちょなく捨て、胸元から新しいタクトを引っ張り出して一降りする。

 パーンっ! 辛うじて間に合った結界が水の玉を水蒸気へと還元する。


巫山戯ふざけるなっ!」

 私の放った風のブーメランが彼の右手を狙って飛ぶ。風の渦で右手の自由を奪えば終わりだ。

 しかし、目で見えるほどに空気が凝縮したブーメランは、彼の眼前で形を無くしただの空気へと帰る。


魔術防壁マジカルブロッカ!?」

「結界師の上に多重属性使い(マルチエレメンタラー)! なんて素晴らしい! キミみたいな人を探していたんだ! 僕と一緒にここで暮らそう、行く行くは一緒に表の世界へと進出しよう!」


 事前情報と違う。フィジカル、マジカル両方の防壁を張ることが出来るらしい。


「キミに会えて本当に嬉しいよ」

 そして口にする言葉が全てが、いちいち気持ち悪い。

 これも事前情報には無い。



「うるさい! 既に執行対象である以上、私の許可無く口を開くな下郎がっ!」

 マジカルブロッカを張ったところで私にはどうでも良いことなのだ。

 エア・ブーメランを弾かれた時にわかった。明らかに力の差がある。


 だから私は休むこと無く砂の散弾を放ち、土の塊をぶつけ、泥の縄を足に巻き付かせ、車止めのコンクリートブロックを地面から剥がして投げつける。



 一歩引いた冷静な私は。――こんなのは魔法戦では無いわ、みっともない。またお姉様にしかられるわよ? と言うのだがとにかくコイツを無力化すること。その事しか頭にないしそれ以外は考えたくない。

 この気持ち悪いやつの動きを止めないと!



「対魔法の、結界が、……いて。……効かない? ……痛た! ……なんでだ!」

「ただの力の差だから、驚くには値しないわ。――沈めっ! さざ波の大地グランドフローイン!」 


 アスファルトが剥がれた地面ににさざ波が立ち、彼は地面へと飲み込まれていく。

 圧死すると困るので膝より下でストップ。両腕はアスファルトで作った紐で固定した。


「死にたくなければ今すぐ結界を解きなさいっ! 地面で溺れ死にたいの!?」

「ある程度の調整は出来ても止めることが出来ないんだ。――実は僕もここに取り残されて出られなくて、だからキミと一緒なら出られるんじゃ無いかと……」




 これだけの大結界、張るだけだって最低数日は要するはず。

 結局、作ったは良いものの、制御出来ていたわけでは無かったらしい。


 …………全く。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ