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充電器(バッテリー)の取り出し口 ~うつくしヶ丘高校、大爆発!?~

 女子高生という括りに所属するものは大概。

 オカルト話は恋愛話の次に大好物である。

 女子高生を多く知っているわけではないが。

 知り合いの女子高生、1年B組女子に限ればほぼそうだ。


 ちなみに、私が目指す女子高生のテンプレートたる桜は、その類いの話はたいそう苦手にしているので、当然個人差はあるのだろうけれど。


 そのクラスメイトたちが、あたかも自身が経験したかのように、まことしやかに話すところの死の間際に起こること。

 それは大体こうであるらしい。

                



 例えば、車にはねられて地面に叩き付けられるまで。

 車の屋根についた汚れを見て、たまたま近所を歩いていた人と目が合い、そしてアスファルトの上の小石の数や形。舗装のヒビの長さや深さ、そこから生えた雑草の葉脈に至るまで。全てが鮮明に見える。

 時間の経過がゆっくりになって、死ぬまでの一瞬が10分にも感じられるのだと。



 彼女たちは当然に日本の女子高生である以上、そうそう死ぬ様な目に遭うわけもなく。

 だからそこは雑誌やネットの受け売りなのであろうということは、もちろん言わずもがなではあるけれど。


 ただ、現象としてはそういうことは確かにある。断言する。

 だって私が今、それを身をもって実感しているところなのだから。





 “バズーカ”の筒先が光り、男が引き金に力を込め始めた矢先。

 お姉様のブラウス、その襟につけたピンズが吹き飛んで粉になる。

 男が引き金を絞ると、筒先よりも遙かに大きな魔力の塊が“ズルン”、という感じで出てきて、そのままぶよぶよの巨大な丸い玉になるとこちらへと迫ってくる。


 前の二人が一体どんな結界を張ったのか、魔力の塊がその結界に触れたことで結界が輝きを放ち可視化される。

 戦場先輩が作り、お姉様が魔力全開でフィールドを強化したそれは。

 やや上を向いた巨大な漏斗じょうご



 ぶよぶよした塊は漏斗をくぐり抜けることで圧縮、収束され、丸い塊。としてはっきりした形になってスピードを上げ私の眼前に迫る。

 ――絞りが甘いからかえってスピード上がるかも。とは確かに戦場先輩から聞いた。

 が、考えようによってはこれは、私の必殺を狙っているとも見えなくもない。



 但し、そういう嫌がらせや私の消滅を狙ったものではない。というのはわかっている。

 高さ約一,五mで人体に当たっても。ほぼぶつかった箇所、つまりは私の上半身を削り取るだけでそのまま通過するだろうけれど。

 コンクリートでできた建物に衝突すれば、魔力は当然のように飛び散る。


 できる限り小さくまとめて、あえてスピードと破壊力を上げ、さらに方向を変えよう。というのはつまり。

 最悪の場合。建物に衝突してもまとまったまま突き抜けて、被害最小限でどこかへ飛んでいってほしい。ということである。

 それでも、運悪く校舎に居る人たちには。大なり小なり被害は出るのだけれど。


 しかし下半分がきれいに削れた漏斗型の結界を見る限り。

 収束はできたが前列二人の規格外のパワーをもってしても、なお。

 戦場先輩の狙いもむなしく、上向きのベクトルはほぼ与えられなかったらしい。


 二mに満たない高さで校舎に衝突すれば、貫通はするだろうが一方。

 下向きに飛び散る魔力は減衰する時間もなしに校庭地下へと向かってしまう。


 そして魔力が通過し、崩壊を始める漏斗の両隣にたつ女子の制服二人分が、なすすべ無く左右に吹き飛ばされていくのが見える。


 そしてこの辺から時間の感覚が元に戻りつつあるのを感じる。

 歩くよりゆっくりだった魔力塊が、明らかにスピード感を持って近づいてくる。

 一瞬の後には何もなくなるとは言え。



 せめて直接の被害が私だけで、桜と仁史君には及ばないと良い。

 本気でそう思った。

 


 死ぬ間際。そういえば走馬灯、という現象もあったはずだけれど。それはどうしたのだろう。

 などと思った矢先。目の前がまぶしくて何も見えなくなった。





「うまくいったはずだ! 桜、どうなったかわかるか!? どうだ!!」

相殺そうさい分までほぼ全て回収できたっぽい! 誘爆はしてない!」

 桜と仁史君の声が聞こえる。もう頭が無くなってしまったのに。


「サフラン! 大丈夫だったか!? ぶっつけだったから、お前をカバーできたかわかんないんだ! おい、返事してくれ! 飛び散ったやつ、かぶってないか!」


 "女神(シ-ルド・オブ)・アイギス ”を使った時のお約束通りに。


 相も変わらず、服の端々に焼け焦げを作って。でも今回は気絶したりはしないで。

 仁史君が私の肩を抱く。目の前には彼が手にぶら下げる真っ赤なガソリンタンク。


「私の頭、まだ付いてる。みたい。……だね」

 足下がおぼつかなくて、言葉が紡げないのは外的要因では無い。

 さっきの魔力吸収分が間もなくなくなる、そういうことだ。思ったよりも持たなかった。

 彼に“大丈夫”、を示すために、預かっていたキャップをタンクにはめる。


「華ちゃん! 大丈夫だった!?」

「仁史君もそうだけれど、桜には、……かなわないわ」

 なんてことを考えつくんだろう。


 "女神(シ-ルド・オブ)・アイギス ”で発生した相殺そうさい分まで含めて、魔力をまるごと全て吸収するなんて。

 そして本人も言っているように。それをぶっつけ本番で実行する仁史君、彼もそうなのだが。

 結果的に。この二人のおかげで私の首はもげないで済んだのだから、文句を言うのは筋違いなんだろう。


 そして。助けてもらった以上は“お支払い”の義務が発生する、そういう約束だったのを思い出す。

「……ねぇ仁史君」

 ちょっと思いついたので巫山戯ふざけてみようと思う。

 相手が仁史君。しかも後で何か言われても、覚えていない。で押し切れるか、という打算も働いたのは否定しない。


「ジェラート……。五二〇円のやつに、まけて?」

「大丈夫なんだな? はは、よかった……。ふふ、ははは……、絶対まけねぇよ、一番高いやつだ!」



 数メートル前、ブラウスの袖口を鼻血で真っ赤に染めて、吹き飛ばされたはずの戦場先輩がいつの間にか、右手に透明なハンマーを握りしめて半身で立っている。

 彼女はこちらを振り返りつつ、私と目が合うと一つだけうなずいて、ぼんやりと立つキモオタテイカーの方を向く。


「…………あんただけは、ぶっ殺すっ!!」

 そう言ってダッシュしながら右手を振り回すと、キモオタテイカーが後ろに吹き飛び、体育館のコンクリートでできた壁に吹き飛ぶ。


 壁にぶつかって赤いシミになってお終い。

 だったはずだが、そのままずるずると壁を伝って下に落ちる。

 ……! 結界をクッションに使った!? 殴るときも、壁にぶつかるときも!?

 あの人の結界の使い方は本当に常識を越えてる。


 さらに男の前まで歩いて行くと、おもむろに。――何度も蹴り飛ばして踏みつけた。

 ……魔法ですら無かった。この人の行動は読めない。


「が、がはっ、はがっ、ぐはっ……!」

「なんでこんぐらいで動けなくなってんのよ! ふざけんな、なんとか言えっ! こんのおっ! クズっ! ボケ! カスっ!」

「おげぇ……!」


「ちっ。……これ以上は月夜野ちゃんに迷惑か。――私、ゲスト扱いだったよね? とどめさしちゃ、不味いよね?」

「お気遣いいただいた様で恐縮です」

 そしてこちらも、いつの間にか戦場先輩の隣に腕組みで立っていたお姉様が、体中に風をまといながらそう言った。


「それにさ。……ぶん殴ってお終い、ってんじゃ腹の虫が治まらないでしょ?」

「大事な華さんを、危険な目に遭わせざるを得なかった苦悩。とくと思い知っていただく必要は、確かにありますわ」


 お姉様は薄く笑みを浮かべたまま。身をかがめて、落ちていたタクトを一本。拾い上げる。

「わたくし。こう見えて自分で決めたルールに沿って、それなりに自身を律して生きていますのよ? ……故に。ルールも無しに気の向くまま、好き勝手に生きておられる方は、基本的にはあまり好きませんの」


 持っていたタクトは、何の前触れもなく、キュウリの様に薄く輪切りになって地面へとぽろぽろ落ち、残った持ち手の部分は手を開いて地面に落として見せる。

 あぁ。これは本気で怒っている。……怖い。


「まさか、その程度で済む。などと思ってはいらっしゃないでしょう? まさにその通り。炎のタクトも結界の魔方陣も。まだお持ちでしょう? さあ、かわして見せてくださいな。……薄刃カミソリ乱舞!」

 お姉様、技の名前が……。

「あぎゃあぁああああ!!!」

 男が叫び、上半身の服がミリ単位の繊維になって無くなる。


「結果的にわたくしが裸にしてしまいましたわね」

 別に血だるまになったりはしていないが、男は上半身を抱えてブルブルと震える。

「あ、ああ、ああ、あ…………」



「体の表面をうすーく切り刻みました。血も出ない程度にね。痛いですか? 顔を狙わなかったことに感謝していただきたいですわね」

 見てる方が痛いのですがそれは……。

「もう動けないのですか? 全く……。拷問する気もありませんが、あっさり死ねるとも思わないでくださいね?」


 お姉様はそう言うと、足下に落ちていた百科事典に目をやりながら電話を取り出す。

「戦場さん、触らないように。――会長、アヤメです。うつくしが丘高校内にて事項ホ-3発生、至急処理班を編成、急行を乞う、――はい、なお現状は……」




 もう立っていられなくなって、膝から崩れる次の瞬間。

「おっと! しっかりしろ。……おい、サフラン! お前、ほんとに大丈夫なんだろうな?」

 肩を抱いていてくれた仁史君が、倒れないように支えてくれた。


 事実上、仁史君に抱きかかえられている。というこれ以上無い現状。

 但し、そんな至福の時間はそう長く続かないのは初めからわかっている。


 魔力吸引マジカルサクションの副作用で、体の力が抜けるだけで無く、徐々に思考に霞がかかってくる。

 徐々に狭まる視界の隅に、この場を離れようとする戦場先輩の姿を捉えた。

 


「い、くさば、……先輩」

「ん? 完全勝利のダメ押し? ……意外と性格悪い子だったのね」

 この人の思考はよくわからない。なんでそうなる?

「そうでは、無く、帰る前、水道で……。顔、洗ってください」


 鼻血だけで無く、額からの流血もどうやら止まったようだが、顔は血まみれだ。

「それと、着替え。良かったら。わたしの服。うちにあるので。桜に、出して。もらって……」

 彼女の制服は所々ほころびて、泥にまみれて血が付いて。

 そんなワイルドな女子高生は、あまり見たことがない。


「……おぉ。忘れてた。確かに。このなりでは、電車待ってる時点で通報されるわ」

 もしかしたらと思ったが。

 本気で自分の見た目がどうなっているか、そこに思考が及ばなかったものらしい。

 仮に男子だってそこまでじゃないと、個人的には思うのだが。 


「気持ちはうれしいけど、今日はジャージ着て帰るわ、うん。……サフランちゃんとサイズは近そうだけど。……ある一部分、具体的には。む・ね・が。苦しそうだし。……んふふふ♪ んじゃね!」

 …………!

「おつかれっしたぁ! ……華ちゃん、いつの間に戦場先輩と仲良しになったの?」

「お疲れでした。帰り、気をつけてくださいよ?」



 な、な、何を言い出すのだろうあの女! 

 しかも仁史君の居る目の前で!

 やっぱり尊敬なんかできない!


 その仁史君が何かを言おうとして、私の顔をのぞき込んだところで。

 音が聞こえなくなり、視界もブラックアウトした。

 なに? 何を言おうとしたの!? 

 その後。何を言われたのか、とても、非常に気になるのだけれど……。



 しかし、私の意識もそこで途切れてしまった。

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