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充電器(バッテリー)の取り出し口 ~標的(ターゲット)の値段~

「まだ撃たないって。……本気でエネルギー全解放するつもり!? さのばびっち!!」

「ふっふっふ……。サフランさんは必ずだけど。そこの全員、巻き込んでやる!」

 それは絶対に不味い。

 そして今に始まったことではないが、言葉使いに品がない。


 ……言葉使いはさておき。

 戦場先輩のエネルギー量の鑑定も、さっきのお姉様の読みも恐らく当たりだとして。

 それならば。

 うつくしヶ丘高校は完全壊滅、直径約四キロのクレーターの中心になって、被害はうつくしヶ丘駅や中央公園付近にまで拡大する。ということだ。


「何とか止める手立ては無いものでしょうか……」

「月夜野ちゃん、迂闊に手を出しちゃダメだよ? もう20%は超えてる。今の時点でも、学校の建物半分はそのままの意味で消し飛ぶからね?」


 そして建物に当たった瞬間に魔力が飛び散り、ここはクレーターと化すのだ。

 ……やはり戦場先輩にはエネルギー総量が見えている。

 そんな能力は聞いたことがない。さすがはエリート中のエリート。

 

「桜、何か出来ない?」

「会長さんが仁文を連れて行けと言った意味……。あ、あれだ! 相殺そうさい!」

「おいっ! 俺に死ねってのか!?」


「桜、"女神(シ-ルド・オブ)の楯・アイギス ”は多分、不味い」

「なんで?」

「アレはどこからかエネルギーを取りだして相殺する、と言う技だから」


「……どゆこと? 問題、ないんでは……」

「どう言う形で相殺するのか、魔法のエネルギーが完全消滅するのかどうか、前回二回はきちんと観測できていない。……つまり、完全相殺できずにエネルギーの一部が飛び散って、もしも地下のエネルギーに触ったら」


「う、……結局同じ。ってことか? サフラン」

「や、やるつもりだったの!? 仁史君!!」

「あぁは言ったが、他に手は無いだろ? 俺には他にできないしな」


「一つだけ思いついたんだけど……」

「桜、何でもやるわよ! 私で良ければ!」

「華ちゃん、あのさぁ。……動けないじゃん、今」


 確かに。抱きかかえられて、桜の胸に頭を預けている人間の台詞ではないだろう。

 ただ。その気になれば、さっきの魔力吸引から逆変換で無理矢理、体力に変換できないこともない。

 少なくても私はできる。


 その状態で大立ち回り、などということになれば。

 身体が動かない期間が大幅に延期、一週間くらいに延長になるだろうが。

 もっとも。体ごと吹き飛ばされてしまっては、動かないも何も無い。


「それに華ちゃんにはできないんだよ、私にもできない。――仁史でないとね」

「まさか、……相殺と魔導具を使う(アイテムテイク)を同時に? そのタンクを!?」

「そういうこと」


 何をする気なのかはわかった、ならば。

魔力吸引マジカルサクション! ……くっうぅ」

「ちょい待ち! 華ちゃん、何してんのっ!?」

「ちょっと、魔力の……うぷっ、――うぇ、……補給を」

「そうでなくて!」


「少しだけ、待って。……体力変換フィジカルインバート!」

 一気に体力がよみがえった私は、桜の腕の中から立ち上がる。

 明らかにドーピングの類いだし、長持ちしないのは目に見えている。

 吸収した魔法量から行くと、いいところ一〇分。といったところか。

 次に電池切れを起こしたら。今度こそ二日は体が動かない。


「私はお姉様たちに今の話を伝える。桜は仁史君と打ち合わせを!」

「急にどうなったの!?」

 まぁ桜から見ると急かもしれない。

 体力変換フィジカルインバートなんて知らないのだから、これはおかしなこと。なのだろうか……。


「さっきのをもう一度、規模を小さくやったの。魔法も使えないし、時間が経てばまた動けなくなるけれど」

「うんわかった、じゃ、お願いして良い?」 

 たった数mでコミュニケーションが取れない、というのは意外にもどかしい。




「先輩、敵の狙いは私。うまく避けてください」

 お姉様には、アイコンタクトだけでほぼ伝わったので戦場先輩の元へ。

「間違いなく狙いは私です。……ギリギリの距離ですが多少でも上向きに誘導を」

「それやると、多分絞りが甘いからむしろスピード上がっちゃうけど良いの? ――おとりになるのかぁ……、おいしいとこを」

「は?」


 ぐっと声のトーンが落ち、きめの細かい肌も、額の傷も、鼻血で汚れた唇も。よく見えるくらい顔が近づく。

「あなたみたいなわかりやすい子は大好き♡ ……嫌みじゃないよ?」

「え? いや、あの……」


「でも仁史くんのことは話が別。……明日からあなたとはライバルだから。初めて会った日に告白するっていったよね? あの部分は嘘じゃないんだな」

 桜の木の下とか言っていたあれか!

 そんなの、アイリスの小説でしか見たことない!

 ……それに。


「ああ、あ、あなただけは絶対認めないっ! 人前で、て、手鼻をかむような人は、そんな品のない人は! 仁史君にはふさわしくない!」

 まぁ、さっきはかっこよくも見えたのだけれど。それならそれで、話は別である。

 ポケットテッシュくらい持ち歩けという話だ。



 ……私は実は非常に心当たりがあって。

「華ちゃん。……二度とやらないで!」 

 当初、桜にだいぶ怒られた。



「ふふ……。やっぱり私、大好きだな、サフランちゃん。おとりだったらあなたみたいなまっすぐな子より私がふさわしいのに。――そこは失敗しちゃった、ごめんね」

「謝る意味がわかりません! 彼のすぐ横で守ってもらうのは私です!」

 これは自分で完全にわかった。今、顔は真っ赤だ。


「ひゅー。やられたぁ。……でもまぁ。この場は一歩リード、許したげる。ん? ――あのね、うまく切り抜けてさ。そんで、終わったら。明日から、二人で。恋のライバルっていうのをやってみようよ」

「……へ? あ……。その」

「言っとくけど、私は今まで男の子とそういう関係になったことないから」

「は?」 


「一目惚れってやつ? ……男の子好きになるの初めてなのよ。キャラに逢ってないかもだけれどさ」

 ……明らかにあっていない。

 だいたい、人質にしようとした相手に惚れるとか。それを私に躊躇無く伝えるところも含めて。

 この人は、結界師やエージェントとしては超級だが、女子高生としてはどこまでもどうかしてると思う。


「全量変換してフルチャージまで後一分、……けがなんかしちゃだめだよ。もう私はそういう予定にしたんだし。サフランちゃんの勝手な都合で、明日から喧嘩できなくなっちゃ困るしさ」

 ニッと男前に笑って右手をあげてみせる彼女に、私も精一杯嫌みに見えるように。歯が見えるように笑顔を作って返す。

「……先輩も」


「"Ill weeds grow apace." みたいな。日本語では……」

「……憎まれっ子、世にはばかる」

「うーん。そうだねぇ。うへへ……。悪いけど、はばかっちゃうから。わたし」

「やっぱり誘導失敗して巻き込まれてください……」




「自発的に発動するなら絶対そうだと思う」

「わかった。さっきサフランがやったみたいに、吸い上げるイメージ、か」

 打ち合わせが終わったようで桜が、すっと仁史君と距離をとる。


 私は桜と仁史君の間に入って、私たち三人の前に魔道結界マジカルブロッカを張る。なにもないよりはましだ。

 前の二人はこちらを振り返りもしないで位置取りを変更、私から男の顔が正面に見える。



「あと三〇秒くらいだと思う」

「あぁ」

「多分、私の頭を狙ってくる……。すぐ隣にいるし、戦場先輩からサインも来るから対処は簡単」


「桜もおまえも、ひでぇよ。人ごとだと思って。だいたい……」

「失敗したら私は首がもげる。人ごとではない、当事者なの。……それに一瞬後には学校ごと何もなくなるとは言え、首の無くなった姿は仁史君には見られたくない」


「……俺も見たくないな」

「だから。……私のことを。守ってね?」


 本来、彼や桜を含めた世の中すべてを守るのが私の役目。

 けれど。うつしが丘を守るために頼るべきは、もう彼しかいない。

 私などの言葉で彼を鼓舞したことになるのだろうか?


 最後かもしれないからちょっとだけ本音を混ぜてみた。

 というのは誰にもいわないでおこう。

 ……けれど。


「あぁ任せろ」

 仁史君はそう言うとニッと笑って、赤いガソリンタンクの栓を開け、私に渡すとタンクを持ち上げてみせる。

「……それにおまえを守るのは、なにも俺だけじゃないぞ。道具屋のじいさんに桜、な? ――それに前のお姉さん方二人も。可能な限りで軌道を変えてくれるんだろ?」


 お姉様と戦場先輩、二人とも後ろ手にした手が、同じタイミングで親指を持ち上げる。

 ……き、聞かれてたっ?

 こういうのも立ち聞きといって良いのだろうか。

「もちろん俺も頑張る」

「……は、はい」



「だから。終わったら帰りに例の公園でアイス、おごりな?」

「私の首、もう少し高いのではないかと思っていたのだけれど……」

 お小遣いで間に合う範囲だった。

 ……どころか、ジェラ-トと同じ値段と言うのは……。


「いや。一番高いやつ、六五〇円のやつだぞ?」

 ふと史君と二人、目が合うとお互い自然に口元に笑みが浮かんだ。

 ……なるほど、こんな何気ないやりとりが。仁史君となら、こんなにも気持ちよくてうれしい。

 私のおとり代は、先払いでもらってしまったようだ。


 

「さて、サフランさん。お別れはすんだかな? お姉様方も、距離をとらないと巻き込まれるぜ?」

 自分は平気なつもりらしい。

 何をしようとしているのかやはり理解ができていないようだ。

 私の頭を消し飛ばした時点で、ここは直径4キロのクレーターの中心になる。すべてお終いだというのに。


 もしも何もないとしても、その後。

 全エネルギーを解放してしまったら。お姉様と戦場先輩をどうするつもりなのだろう。

 本当に後先考えていないとは……。それはそれで恐ろしい。


 戦場先輩が、後ろ手にした指でいくつかサインを作る。

 ……充填完了、来る! だ。

「仁史!」

「……あぁ、わかってる。――サフラン、守ってやるからな!」

「お願い。します……!」


 私の正面、男の構えたバズーカの先端。

 鉄でできた筒の先端に光が集まる。

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