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特殊技術産業振興会の第二会議室

「……そう言われたからといって、絵札達ピクチャーズに全幅の信頼を寄せる。と言うわけにも行かないのだけれど」


 週一回の東京本部じむしょでの報告の日。

 既に報告やら書類やら、面倒事は終わったのだが、本部長のアイリスから。

 ――二人共ちょっと待っててね。

 と言われるとあとはすることが無い。


 なので“第二会議室”とプレートの付いた部屋に桜と二人でいることにした。

 会議室とは名ばかりで、要するに休憩室。無料のコーヒーサーバーもある。


「コーヒー、勝手に飲んで良いんでしょ?」

 私が昔、寝床にしていた部屋でもあり。今もまだ、古ぼけたソファが陰に置いてある。

「華ちゃんはお茶の方が良い?」

「うん。……ごめんなさい、ありがとう」




 ――特に戦場いくさば先輩は信頼が……、と言いかけて止める。彼女を特に危険視する客観的、かつ具体的材料が無い。


 体育館の裏の件が無くても、仁史君に興味があるようだ。と私には見える。

 が、逆に言えばこれ以外、桜に警戒するようにと提示できる材料が無い。

 多少言動にエキセントリックな部分は有るものの、人となりをみてみれば真面目で、結界師としても優秀。

 こちらへの協力もむしろ率先して行ってくれている。



 だから多分、今のは。

 人間として足りない物だらけの私が初めて感じるヤキモチ的な感情なのかも知れない。

 彼女と仁史君が事務的な話をしているのを見るだけでイラッとくる。

 この感情は全く合理的で無い。



 別に誰に言うわけでも無し、私の意識だけの問題。ならばもう認めてしまおうか。

 きっと。逃げずにきちんと現状は認識した方が良い。


 私は、仁史君を男性として、意識しているっ!

 ……これだとまだ逃げている、か。


 そう、好きだっ!


 ……理屈は関係ない、好きなモノはしょうがない。

 

 ――思った以上に恥ずかしい。……なんだ? なんなんだ、これ。

 私は彼に、なにかを期待している?

 私の意識だけの問題だったのでは……。我がことながら良く分からない。



 休み時間ごとに恋愛話に花を咲かせるクラスメイト達は、みんなこんな感情を抱きつつ、普通に生活しているというのか。

 女子高生と言う職業は、かなりメンタルが強くないと勤まらないらしい……。

 



「あれ、どしたの? ……具合悪い? 顔、赤いよ」

「何でもない、……ちょっとだけ恥ずかしいことを思い出して」

「この部屋で寝てたんだっけ? ……ぜひ聞きたいなぁ、恥ずかしいこと」

「き、……聞いてもつまらない話なの」


「ふむ、まぁ何でもないなら良いけどさ。ともあれ。――ピクチャーズ(イギリスぐみ)は華ちゃんとかあやめさんは、立場的に難しいよね。話してみると、実は良い人っぽい感じだしねぇ」

「そう言う意味では悪い人達では無いのだと。私もそう理解はしているわ……」




「あやめさん、かえってこないね」


 今日は仁史君は柊先輩が送る。と事前に決まっていて、その二人は今日は振興会じむしょには来ていない。

 つまりお姉様の打ち合わせの中に終了時間がわからない、面倒くさい話がある。

 と言うことなのだろう。


 そのお姉様は、私達と一緒に来たものの、着いてすぐ会長室に入った。

 それ以来、顔を見ていない。多分一時間は優に超えている。

魔力捕捉器マジカル・トラップの話になれば、当然、五分一〇分の話では終わらないでしょうけれど」  


「こないだの、魔力の(マジカル・)落とし穴(ピットフォール)よりも規模が大きいの?」

「あの魔力の(マジカル・)落とし穴(ピットフォール)も強力ではあったけれど、魔力以外をどうこうは出来なかった。……魔力の源は人の意思。と以前教えた気がするのだけれど。桜、覚えている?」


「うん」

魔力捕捉器マジカル・トラップは人の意思を魔力に変換してため込む魔導回路がついているの。ただの落とし穴では無い以上、偶然に出来上がったりは。普通はしないのだけれどね」



「誰かが学校の中に作った……? 偶然出来上がらないのは絶対?」

 ウジャボード(※)を媒体に魔力の(マジカル・)落とし穴(ピットフォール)が偶然出来上り、爆発事故を起こして建物一つを吹き飛ばす。

そう言う事例があることを、彼女は大葉さんから聞いて、知っている。


「もう一個くらいウジャボードがあっても、そこはおかしく無いと思うし」

 そしてアイテムクラフタ見習いになった今では、どうしてそうなるのか?

 それを含めてある程度理解もしているだろう。


「無い、とは言わない。協会アソシエーション絵札ピクチャーズを投入してまで探している以上、核になったアイテムはかなり強力なものだと思うし。それに回路自体も多分、身代わりトランプを作った今の桜なら簡単に構成できる程度。……ならば置き場所や置き方によっては、勝手に回路が形成される可能性はあるけれど」



 アイテム絡みであるとなれば、アルバイトとは言え振興会所属のアイテムクラフタである桜。

 彼女に出動要請のかかる可能性も無きにしろあらず。

 当然そうなれば、桜の身辺警護を担当する私も同行することになる。


 その辺については“我が国のアイテムが核になっている"。と言うオルドリッジ先輩の言を信じる以外に情報がないのだが。


 振興会執行部長と特殊部隊ピクチャーズ隊長が“公式"に話をしたのは、先日の入部届の一件の時くらい。


 なのではあるが、一方で二人共、日本とイングランドで部門の責任者であり、高校生としてみた場合は、教室の席が隣同士で部活も同じ。

 事実ここ数日で、普通課二年では黒髪のお嬢様と銀髪の王子様。この二人の距離が急に縮まった。との噂が流れ、その話は一年の私達の耳にも入ってきている。


 それについては学年問わず男子女子、双方から悲鳴が上がっているそうだが、その事実や、悲鳴の種類は別の話なので、まずは置いておく。


 お互い、自分も相手も必要以上に目立つのは理解しているので、此所まではその類の噂が立つのを警戒して、なるべくお互いを無視していたのだろう。

 お姉様自身は相手が何者であるかうすうす知っていた上であえて触らなかったのだし、逆にお姉様の正体などオルドリッジ先輩ならば立場上、知っていて然りだ。


 但し、ここに来てそんな噂が立つならば、普段から普通に会話をしている。と言うことでもある。

 ならば仕事絡みの話を何一つしていない、と思う方がどうかしている。



 お姉様のことだから、表面上では必要以上に“仲良く"なりはしないだろうけれど、果たしてこの二人。非公式には何を話しているのか。

 お姉様が会長にあげる報告いかんによっては、桜の出動も視野に入れないといけないのだけが事実だ。



「アイテムが強力なら可能性あり、ってこと?」

「うーん……。あるいは」

「実は。落とし穴も何かに使えないかなって、考えてたんだよね」

「……え? なに?」


 ――こないださ。ごく普通に話し始める桜だが、魔力の(マジカル・)落とし穴(ピットフォール)なんか何に使うつもりなのだろう。

 過去に使われた事例を引いても、相手の隙を突いてある程度の魔力を奪う。くらいしか使い道は無い。


「師匠に魔力をくれって言われて。華ちゃん、具合悪くなっちゃったでしょ?」

「それは……」

 自己管理して然るべきラインを超えたからあぁなったわけで。

 別に魔力を供給すること、それ自体に問題があるわけでは無いのだけれど。


「普段から近所を誰かが歩く度に、少しずつわけてもらうって言うのはどうかなって。……でも、アレって対象を絞って使う前提だから、それだと安全装置の組みようが無いんだって大葉さんから」

「はい?」

「今、大葉さんにも設計、ちょっと手伝ってもらってるんだ。――魔力が必要なのは理解するし、私も今後欲しくなるんだけどさ。でも、華ちゃんやあやめさんが、必要以上に負担にならないようになったら良いなって……」 



「二人に頼みがある」

 急に声と共に開けっ放しのドアから入ってくるスーツの中年男性。

「……会長?」

「あ、お久しぶりです!」


「クロッカス、神代さん、ご苦労様。――クロッカスに頼みがあるので単刀直入に言う。……モノはわからないのだが、協会アソシエーションの紛失したアイテム。これを神代さん、南光君と協力し、探しだして欲しい」

「何故、桜と仁史君が……」


 会長の後ろに、ウェイブのかかったふわふわの金髪に抜けるような白い肌、事務服の胸とお尻をキツそうにしながらアイリスも居た。

 久しぶりに見ると、桜の言う“破壊力”を実感する。


「色々検討した結果、直接エージェント回せないの。あなた一人でもギリギリ」

「もしや予算が無い、とか?」

「そんなわけ無いでしょ、あくまで対外的に、って話ね。諜報の動きまで協会アソシエーションにバレてる以上スズランも動かせないし。……特別手当の対象だから、お給料増額、桜ちゃんと南光君も時給倍付。って事でよろしくぅ♡」


 そう言う軽いノリで頼まれて良いんだろうか。

 前回もこんな感じで大変な目に遭った気がする……。

「表面上友人として桜と仁史君の校内散策に付き合う。事実上二人の語衛、と言うことで良いの?」

「そういうこと。むしろ捜し物は表面上、二人にメインでやってもらう、ってことだね」


 前回、彼女がこう言う軽いノリで。

 世界でも数えるほどしか使えない、時空魔法の中でも最上級の魔法、次元ディメンジョン回廊コリダーを、こともあろうか結界の中、と言うあり得ない場所に展開して、戦闘の最前線にカキツバタさんを放りだしたのを思い出した。

 会長の渋い顔を見るに付け、よろしくない話なのは間違い無いだろう。


「わたくし達は表だって動けないのです。国際的に顔があまり知られていないハイランカーはあなたしか居ない。しかもハイグレーダーなのですから。桜さんと仁史くん、お二人のことは頼みましたよ?」

 ワンテンポ送れてお姉様も入ってくるが表情が無い上、具体的にはやはりなにも言わない。

「当然、華さん達に何かがあれば全力でサポートに廻りますのでそこは心配いりません」


 ……これは絶対に面倒くさい案件で確定だ。

※西洋風の“コックリさん"や“エンジェルさん"的な、簡易降霊術を行うためのボード。

 アルファベット、数字の他。イエス、ノーの文字もあって、まさに見た目は

 コックリさんそのもの。

 そう言う題名の映画もあったそうですので、知ってる人は知っているでしょう。

 洋の東西を問わず、この手の風習や道具は何処にでもあるんですね。


 桜が気にしているのは、前回の事件(公園の魔法使い参照)でアイテム関与に

 気付くきっかけになっている上、現地でボードの実物も見ているため。


 ちなみに海外では、ごく普通におもちゃ屋さんで買えるそうです。

 但し、ご使用は自己責任で。と説明書にはあるそうで、ちょっと怖い。


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