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古道具愛好会の本教室(下)

 なんとなくみんな机に収まることになった。

 大きな机が六つあるのだが、この人数だとちょうど机一つに全員収まる。


「それで、日本にはなにをしに来ましたの? お勉強、などと言う答えはいりませんわよ?」

「そんな事を言うために、わざわざこんなところには来ない。そうだろう月夜野さん?」

「ここに来たのだって、単純に愛好会に興味を持った。と言う可能性を否定は出来ませんわ」

 

 ――結界は入部の意思を持っていれば無効化できるのですから。何処まで本気で言って居るものか。

 お姉様はいつもの笑みを浮かべたまま話を続ける。

 この二人の会話は、怖くは無いが何かしら腹を探り合ってるように聞こえる。

 相手がなにを考えてるかわからない、そんな感じなんだろうか。


「何しろ、こちらが開示できる情報は無い、だってみんな知ってるでしょうからね。あとはキミたち次第よ」

 お姉様の隣に座り、扇子で口元を隠してそう言った百合先輩は、オルドリッジ“先輩"と正面から向き合うと扇子を畳んで机に、ぱん! と音を立てておく。

「私はあなた方にこちらへ開示するつもりはあるのだ、と理解していますけれどね」


「良いだろう。国元の諜報部とも先日やり合ったばかりだが、助けてもらってばかりではこちらの立場が無い」

 助けただろうか? そんなに何回も。



「我々がうつくしヶ丘高に派遣されたのは、例の呪いの書の一件が発端だと思っているだろうが……」

 どうやら先日の呪いの書を盗まれた某国は、イギリス、と言うよりイングランドだったらしい。


 盗難発覚が二月、そして三月にはピクチャーズの精鋭3名の派遣が決定した。

 しかもその時点でうつくしヶ丘高になにか仕掛けをされる。と言う予測があった?


 ……だけど確かに、それはおかしい。どうしてそうまでピンポイントで予想が出来る?

 協会アソシエーションには占い師でも居ると言うのだろうか。



「その前に、既にこの学校に不審な状況が合ったのだ」

「……なんですって? それは聞き捨てならないわね」

「日本国内の案件ならば、情報提供、共同調査。と段階を踏むのが普通。踏めない事情があった、と?」


「頂いた報告書では魔力の(マジカル・)落とし穴(ピットフォール)、と表現していたね。既にその時点で稼働しているものがあったのだ」

「しかし、アレはあくまで呪いの書を、低ランク魔法使いが稼働させるための……」


「だから諸君が見つけたものでは無い、別の落とし穴(ピットフォール)だ。そしてそれは、どうやら制作時に協会アソシエーションの技術が介在している」 


「アレとは別の落とし穴(ピットフォール)……」

「魔力であれば無差別に吸収してため込んでいるのだ。――此所から先は機密になる。月夜野さん、谷合さん。良いかね?」

「はい」

「わかりましたわ」


 

「この学校の平面図だ」

 戦場いくさば“先輩”からタブレットを受け取った彼はテーブルの真ん中へと滑らす。

 学校の敷地が歪んだ赤い線で囲まれている。


「敷地と言うのも封印の一種だ。必然、学校の敷地もある種の封印になり得る」

 各種の注意書きが付いているのを読まなくとも、話の流れから行けばこれは魔力だろう。

「学校の敷地をそのまま封印に使っている……」

「何故こんな大きなものが見つからずに……」


「先日、裏庭にため込まれた呪いの書の魔力、これを事後処理で抜き取ってもらったことには感謝する。危うく魔力同士が接触して魔導爆発を起こすところだった」

 ――呪いの書の処理自体も感謝しなければいけないのだがな。そう言うとふっ、と肩の力を抜く。


「回収した魔力をどこに持って行ったのか、本国とも話が付いているそうだし、それは私からは聞かないこととしておこう」

「こちらも、上層部間で高度に政治的な判断が成された。そこまでしか聞いていないけどね」

「その筋では有名な、百人殺しの呪いの書。その“中身"は当然純然たる呪い。興味深く研究の材料とさせて頂いている。と聞きおよんでおりますわ。一応本体はお返ししたわけですしね」



 ちなみにページ毎にバラされてしまった呪いの書本体だが、こちらは綺麗に直した上で残留魔力は全て抜き取って“某国"へと返還されたと聞いた。


「見つけてもらった上、本体の修復も完璧だったって、research and developmentのチームが驚いてた。表面上のみならず内包した呪術回路まで完璧だったって」

 円君がそう言って百合先輩の方をみる。

「自慢するようだけれど日本のクラフタは世界屈指。いや私は普通に一番だと思ってるわ。他人様ひとさまに返すと言うなら、当然壊れた部分は修理するでしょうし」


 ――あの。手を上げる。

 必要無いような気もするが、お姉様と百合先輩。この二人以外発言する権利が無いように思えたからだ。

「……先程何度も助けた、と言いましたけれど。私達は、何度も助けては居ない気がするのですけれど」


「日本屈指のエージェント、クロッカス……、いや、学校こうないではサフランさんだったな。ココまでで既に三つだ。更に先日一つ」

「私はみていたわ。全力の1/10も使わず一気に拘束するあの手際、まさにお見事だったとしか言い様が無い。奇襲でなければ私はあなたには勝てないでしょうね。――? もちろん、とおみノ原のコンビニの件よ?」


 戦場先輩が、ごく普通に私に話をフってくる。

 お姉様と百合先輩が、隠しきれずに明らかに驚いた顔になる。

 私はともかく、あの場にこの人が居たことをこの二人が全く気が付かなかったと言うことだ。

 桜も居たのに、彼女の“おかしい"の範疇からもどうやってか、外れた。

 隠遁術に限ればこの場の誰よりも上手いだろう。



「月夜野さん。先日、振興会が素人のアイテムクラフタをとおみノ原の廃コンビニで捕縛しただろう? ――その件だ」

「……なかなかよくご存じですわね」



 彼を取り調べ、身体も隅々まで検査した結果。

 結界術師としてはほぼ適性無し、本当の適性はアイテムクラフタ、あの指揮棒タクトも自分でこしらえたもので、増幅回路も自身で独自に設計したものだった。

 だからこそタクト自体は一回しか使え無かった。


 マエストロ曰く、例え使わなくても、一発目よりパワーが減衰しても。不測の事態に備えて最低2発、必ず撃てるようにしておくものなのだそうだ。


 そして不測の事態の時に発動を中止する回路。それが付いていなかったために自分の結界に自分が捕らわれて出られなくなる、と言う間抜けなことになった。



「あれがどうして、協会アソシエーションに礼を言われることになるのか。私には良く分かりません」

「サフランが言う通り、私も振興会われわれが対処すべき類の案件だと思うけれど?」



「あのアイテムのパワーの出所がこの校内だったからだ。表に出回ってしまうといろいろ不味いからな」

「あの規模の魔力なら、当然反応を拾えるはずですわ。何故我々が気が付かない、などと言うことが起こっているのかわかりませんわね」


 ――これも機密事項ですかしら? そう言ってお姉様はオルドリッジ先輩の目を見据える。

 これはなにか言うまでてこでも動かないぞ、と言う意思表示だ。

「もちろん機密事項だがな」

 そしてそれを受けて彼もまた、お姉様の瞳を正面から見返す。


「我々のアイテムが核になっている。だから我々、協会アソシエーション関係者以外は検知が出来ないのだ」

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