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古道具愛好会の本教室(中)

 飛び散ったカードの欠片が床に落ち、その場のみんなが落ち着きを取り戻したタイミングで。

 ――唐突に教室のドアが開いた。


 部室の扉は準備室も含めて三箇所。

 触ろうとした時点で開ける気が無くなるような、そんな封印が施され、実際に触れば即座に手を放したくなる、と言う同じタイプの結界が、二人の術者によって二重に施されている。


 ついでにそれを根性で乗り越えても、事実上の部長であるお姉様に未承認で扉に触れると、物理的に開かなくなる。と言うおまけまで付いてくる。


 しかも結界を張ったのはお姉様と百合先輩。そして最期のロックは私。あえて封印毎に術者を変えることで術者に対する耐性、そこまでフォローしているわけである。

 だから本来は部外者が扉を開けることは出来ない。

 そのドアが開いた。



「やはり振興会おまえたちか! 魔法の波動による時空震があったぞ。いったいここで何をしている?」

 銀髪碧眼、高い身長からこちらを見下ろすようにして。

 扉の前に立った人物は良く通る声でこちらに、お姉様に問いかけるが。


「大きなお世話ですわ。他人の庭ひとのフィールドの中にあっても、どうしても高いところからものを語りたいようですわね。何様のおつもりですの? お隣の席のカエサル君、いえ、ミスタオルドリッジと呼んだ方が良いのかしら? それともダイヤキング・シーザーが良いですか? お好きなものを選んで頂いて結構ですのよ?」


「ミスアヤメ。――いや、月夜野さん。失礼に聞こえたなら謝ろう。……ここで何をしようと、確かにあなた方の自由なのだが、しかし学校のようなオープンスペースで大規模魔法実験というのは……」


「あら。結界は張っていましたわよ? 時空震だって物理振動はもとより、感覚遮断も完璧だったはずです。時空震アレを検知できるのはハイランカーでかつ、建物内に居る。と言う前提の方だけですわ。――それに人権軽視をとがめられるような、そのような実験は一切おこなっておりません」


「月夜野さん。――あの、僕の人権は?」

「あら先輩。端から無いものを論じる、などと言うことが出来ると思って居まして?」

「非道い!」


 百合先輩が扇子をパチン! と畳むとそれでお姉様を制しつつ、そのまま前に出る。

「人の縄張りで、しかも三重の封印を無視して入って来た上で、更に上から目線でお説教? ……前回と言い、振興会こちらに喧嘩を売っているとしか思えないわね」


 そのうちお姉様と百合先輩の張った二つは、結界に触れたのが魔法使いや結界師だった場合。

 振興会東京本部名で進入禁止の警告を発するオプションがついている。


「ちょっと待て、結界とは……」

「 "Shut up!" ――平和裏に話をしたい。と一昨日うそぶいていた気がするけれど。あれはおためごかし、と言う事でいいのね? カエサル君。……私の全力は、ちょっと痛いわよ?」

 その台詞に反応して富良野君もすぅ。っと、音も立てずに立ち位置が変わる。

 この二人、やっぱり良いコンビだ。


「いや、ミススズラン。その話に嘘、偽りは……」

「本国なら絵札部隊ピクチャーズの名前で何でも出来るんでしょうけど……」

 そう言って百合先輩はカエサル・オルドリッジに向き直ると、凜とした声で言う。

 普段はあまり感情の見えない人ではあるのだけれど。これは、かなり怒っている。


「何度でも言うわよ? ココは日本なの。この学校は完全に“振興会うちの支部"の扱いなの。本国の協会アソシエーションからは未だに協力要請どころか、活動に関する認可承諾願いさえ来ていないの!」

 百合先輩はカエサルに対して真っ直ぐに立つと、閉じた扇子で彼の顔を指す。


「つまりこちらの、……いいえ。はっきり言っておいた方が良いわね。そう、私の判断ひとつであなたたちは排除対象になると言うことなんだけど。――カエサル君、この意味がおわかり? それとも、英語でもう一度言った方が良い?」


 ――もしなんだったら、せっかく封印も残っていることだし、今この場で強制排除を開始しましょうか? そう言うと彼女の周りの空気が揺らぐ。

 魔法の気配や殺気のようなものまでを、相手を威圧するために自在に操る。

 そんな事が自由に出来る百合先輩は、ハンパなく強い。それは間違い無い。


「ミススズラン。――では無く谷合さん。もし怒らせるような言動があったなら。それはこちらの落ち度だから謝罪をしよう。単純に日本語の単語、これのチョイスを私が間違えているのかも知れない。怒らせるつもりなど一切ないのだから」

 

 そしてそれをみてもたじろいだりしないカエサル・オルドリッジ。

 これもたいしたものだ。ただ者では無い。

 お姉様と言い、さっきまでは広いと思って居たこの狭い空間には、一人居るだけでも大変な、化け物クラスの魔法使いが集まっていると言って良い。



「まぁまぁ百合さん、その程度で。――ふむ。……では改めて。オルドリッジ君。扉はあなたが自分の手で、直接開けたのですか?」

 ――器具や魔法は使っていないのですね? そう言って青い目に向き直る。

「あぁ、そうだ月夜野さん。私が自分で開けた、それは間違い無い」


「ならば結界を無効化したのは意思を持っての事ですか? それとも自然に扉が開きましたか?」

「さっきの谷合さんの話だが、結界がある事自体、まるで意識をしなかった。……完全に検知できないなどむしろどう言う術式なのか、機密で無いというなら教えてもらいたいものだが」


 検知できない? そんな莫迦な!

 あれだけあからさまにやっている以上。絶対に封印には気が付くし、破るにはとてつもない魔力と、結構な腕力が必要になるはずなのに。


「では、特に警告や警報の類もオルドリッジ君には聞こえませんでしたね? サイレンの音は救急車を流用しましたが。あぁ言ったものは各国共通でわかるでしょうし。それに警告自体も概念なので、聞こえてさえいれば。言語は関係なく理解は出来たはずです」


 言語は、の部分に多少アクセントがかかる。

 日本語だったからわからない。ということはあり得ない、と言うことだ。


「……特には」

 しかし、お姉様はこの期に及んでなにを確認したいのか。

「なるほど……。ならば当然に、お連れの方も後ろにいらっしゃいますね?」


「ん? ……あぁ。後ろに2名とも連れてきている」

「では、遠慮なさらず中にお入りください。カエサル君のみならず。皆さんで、ね」

 カエサルの他、戦場乙女と、そして円君がいかにも気を使いながら、と言った体で入ってくる。


 私は塵の弾丸(ダスト・ブレッド)を即座に撃てるよう、後ろ手にした右手の人差し指を伸ばしたが……。



「協力関係を構築して情報の共有化を図って頂ける。そのお話は本当だったようですね。……部長、入部希望の方が三名。いらっしゃいましたわよ?」


「はぁ!? お姉様、どう言うことですか!?」

「はぁ!? 月夜野さん、なにそれ!?」

「はぁ!? あやめさん、それ、どう言うこと!?」



「あら、百合さんと華さんはご存じのはずでしょう? ……最終ロックの解除条件はわたくしの承認と,そしてもう一つ。魔法使い、もしくは結界師が入部の意図を持って扉を開けること。そのどちらか。……皆さん、入部の意思ありと認めます。ようこそ古道具愛好会へ」


 異口同音、と言うのはこんな時に使う四文字熟語なんだろう。

 カエサルとお姉様以外の、ここに集まった私を含めた全員が一斉に口を揃えた。

「えぇえっ!?」


「誤解が解けたようで良かったですよ、月夜野さん」

「それでも本国には内緒、なのですね?」

「……今のところはそう願いたい」

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