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学校の魔法使い =華・サフランの人間観察=  作者: 弐逸 玖
雑居ビル一階の魔法道具職人
18/36

うつくしヶ丘駅前の市道

2017.01.21

台詞を一部手直ししました。


2017.01.25

地の文の一部を加筆訂正しました。

「華ちゃん。乾燥じゃないわかめってまだあったっけ?」

「袋に1/3ほど。冷蔵庫の左側の奥に」

「スーパー行かなくて良いか。……じゃあそれと、昨日買ったお豆腐でシンプルなお味噌汁を作ろう!」

「……そう、なるよね」


 駅前の道をアパートに向かって、私と桜は歩いている。

 今日のお味噌汁の具が決まった理由は、もちろん桜が手にしている紙袋の、その中身。

 例のお椀が、二つ。


「ねぇ華ちゃん、今までのお椀はインスタント専用にしよう。あ、豚汁とかは今までのヤツでも良いかも。どう思う?」

「どう、と言われても。桜の良い様にするのが良いのでは?」

 テンションの上がった桜はどうにも扱いにくい。




 約一時間半ほど前。漸くランプの法則がわかった私は、インターバルを詰めて塵の弾丸(ダスト・ブレッド)を撃っていた。

 もうコンボ数を見ている余裕はない。


 とにかく撃てば、ピンポン♪ とチャイムが鳴る、と言うところまでは来た。

 一二連続になる前にマエストロが上がってきたら、この苦労は水の泡。だから私は考えるのを止め、的を撃ち抜くことのみに集中していた、


「華ちゃん、どうしたの! 顔色が真っ青! ……大丈夫!?」

 桜か駆け寄ってきて肩に手をかけてくれる。

「桜……。はぁはぁ。お、……おかえり」 


 普通に返事をしたつもりだったが、さっき自分で申告した上限を一〇発以上超え、インターバルを詰めたのは想像以上に効いたようだ。

 自分が肩で息をしている事に気が付かなかった。


「エラくたまったなぁ。しかも一七連、てえしたもんだぜ、クロ。……で? 何が欲しいんだ?」

「わ、私は……」


「なんか欲しいもんがあったから無理したんだろうがよぉ。ションベンたれのガキのくせに素直じゃねぇヤツだ」

「そうなの? 華ちゃん」

「べ、別に無理なんか。――では、その。さっきの、お椀を……」

「……華ちゃん、まさか」


 かっかっかっか……。突然マエストロが笑い出す。

「あ、あの。師匠?」

「……マエストロ?」

「お前らにゃ負けたよ。なんで、――女子高生が二つ組で欲しいって言わなきゃ売らねぇ、なんてロリコン爺が言ってたのを知ってやがる」 



「師匠。あの、ロリコンって……?」

「女子中高生が好きなんだ。だから嫁さんの来手が無かったんだろうよ、あの爺ぃ」

 今になってやっと気が付いた。桜のマエストロの呼称が“先生”から“師匠”に変わっている。


 つまり、桜は弟子入りを許された、と言う事なのだろうか。

 もっともその辺は桜なので、勝手に師匠、と呼んでいるだけなのかも知れないが、気難しいマエストロが意に介していないところを見れば。

 まずは色々な意味で第一関門クリア。


 桜には適性があり。

 マエストロはその適性と彼女のやる気を認め。

 桜も魔法道具職人アイテムクラフタとして立つつもりになってくれた。

 と。


 ちょっと肩の荷が下りた感じだ。

 桜と正式にバディを組む日が一歩近づいた。

 私の生まれて初めての小さな野望は、確実に一歩前進したのである。


「師匠、次はいつ来たら良いですか?」

「そうだな。明日。と言いてぇトコだが、明日はそのロリコン爺のところに行かなきゃいけなくてな」

 ――江戸漆器の職人の癖に、埼玉の山ん中に住んでやがんのさ。そう言って桜の頭にポン、と手をやる。本物のお爺さんと孫のようである。


「明後日、同じ時間に来い。さっき言った素材はもし持ってこれるならもってこい」

「はい、わかりました!」



「桜はちょっと、その辺見ててくんな。――クロ、振興会じむしょにけぇるか?」

「帰るというか顔は出します」

「なら、これを大葉あんちゃんに渡しておいてくれ」


 茶色の紙袋を渡される。触った感じはあまり長くない棒が二本。

「例の指揮棒、ですか」

「そうだ。――一応あんちゃんに言われて調べてみたが」

 はぁ。マエストロは結構な深いため息を吐く。


「何か問題が?」

「まさかこんなもんがおいらの街にでてくるたぁな」

「それは一体」

 ――最大に突っ込めば、さっきお前が撃ってたヤツの四発分は詰め込める。マエストロはそう言うと額の皺を深くする。


「かなりの精度だ。木工ベースでこんなもん作れンのは、自慢じゃねぇが日本じゃ、おいらくらいなもんだ」

「それは、つまり……」

「舶来品だな。お前もあやめも気をつけるこった」


 私が手に持つこれは、別に危険物や爆発物、武器というわけではない。

 先日の“呪いの書”だって見た目はただの本だったが。

 これだって指揮棒タクトなのだから、日本に持ち込もうと思えばいくらでも持ち込める。


 協会アソシエーション。こうなると、動悸はどうでも関与を疑うところである。

 お姉様の指揮するメンバーの絞り込み。それは進んでいるのだろうか。


「“充電”は素人でも出来るものなのでしょうか?」

「完全な素人じゃ無理だが、多少なりとも魔法の知識があるならそう難しいことじゃねぇ」

「魔力の補充が出来る、……と?」

「ん? あぁ、例の呪いの書みてぇことになるか、ってな話か? それは心配要らねぇや。アレと比べりゃ一〇〇分の一にもなりゃしねぇ」


 呪いの書は完全に鑑定され、“充電”された魔力をすべて解放。綺麗に復元した上で協会アソシエーションに引き継ぎされた。


 その鑑定と修復の作業を行ったのがマエストロとその仲間の、魔法道具職人アイテムクラフタでも国内最高峰グループ。

 表の職業は陶芸や紙細工、美術品修復などを手がける人も多い、表も裏も職人の集団である。


「但し、使い勝手はこっちのが百倍良いが、な。……外国が絡んでんのか?」

「その辺まだなにも」

「もう一度言う、気ぃつけんだぜ?」

「はい……」


「クロ。……桜の嬢ちゃんを、守ってやってくれよ? 二〇年ぶりのおいらの弟子だ」

 そう言いながらマエストロは、新聞紙でお椀を二つ包むと茶色の紙袋へとしまい、袋の上をぐるぐると絞ると、そのまま店の名前の書かれた紙袋へと入れる。

「ほれよ、クロ。持ってけ」

「……しかし、マエストロ。これは」   


「良いってこった」

「しかし約束では一つと……」

「くどい! ……二人暮らしの女子高生が持っていったと聞いたら、あのロリコン爺、泣いて喜ぶだろうよ。金なんざ要らん」


「師匠、あの、貰っておいてなんなんですけど。その、お値段っておいくら万円くらいなんですか?」

「まぁ一個三、〇〇〇円ってトコだろうかな」

「マエストロ、いくら何でもそんなに安いわけは……!」

「材料費と手間賃、そんくらいは貰わなきゃ困るって話よ。そして流通に乗れば“名前代”として誰かが後二〇万くらい乗せるだけだ。クロが心配してんのはその名前代だろうよ? ……要らん。そんなもん」



 と言う経緯をたどり、お椀は二つ揃って今、桜の手元にあるのだ。




「おかずは焼き魚なんて良いよね? やっぱ和食だよ、和食」

「さっきアイリスからもらった、かす漬けの鱈、とか……」

「いつ貰ったの!? うん、決まり! あとたくあん!」


 人間国宝でロリコン爺の職人さんが漆を塗ったお椀。

 これをベースに晩ご飯のメニューが決まっていく。


 そう、ロリコン爺、の部分を抜けば。なにも問題は発生しないではないか。

 桜がとても嬉しそうなので、私にしては珍しく。作った人の性癖はこの際、無視することにした。

 

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