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学校の魔法使い =華・サフランの人間観察=  作者: 弐逸 玖
雑居ビル一階の魔法道具職人
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東京方面行き電車の二両目

『本日も、ご利用、ありがとうございます。次は、日之出本町、日之出本町、です。お降りの際には、お忘れ物など御座いませんよう。また、お足元にも十分ご注意下さい。お出口は、ひだりがわ、です。快速電車は、お乗り換えです。日之出本町、の次は、新日の出町、に、止まります』



 加速する電車の中。モーターがうなりを上げ、鉄のこすれる音。で。

 聞こえづらい車内のアナウンスは録音された女性の声で、次の駅が振興会へ行くときの最寄り駅であることを告げる。


 大きな建物は目の前に学校しか無い、終点のうつくしヶ丘とは違って結構大きな駅。

 この近辺ではそこを中心にお役所の建物なども集中している。いわゆる街中である。

 そしてこれから会いに行こうという魔法道具職人アイテムクラフタも、また街中にあるビルの一角に工房を構えている。   



「山の中じゃないんだ」

「……うん?」

「民芸品を作る職人さんって言ったら田舎の山の中、みたいなイメージが……」


「伝統と文化を、街中に住む人達に再認識してもらいたいのだとか。まぁこれは、お姉様が彼から聞いた話ではあるのだけれど」


 ――ついでに、と言ったら怒られるかも知れないが、週末には体験教室的なものも開催しているのだとも聞いた。

 これも桜としてはだいぶイメージが違った様だ。


「いかついお爺さんが、『何しに来た? まぁ振興会からじゃ仕方ねぇ。突っ立ってねぇでとっととへぇれ』。……みたいな感じでは無いかと思っていたんだけど」

 イメージとして大きく間違って居ないのだけれど。

 しかし、会ったことも無い桜にそれを伝えたところで、の人の第一印象が悪くなるだけで誰も得をしない。


「……や、山の中では会いに行くだけでも大変で、私達しんこうかいも困ってしまうわ」



 それにアイテム絡みの案件が出たときに監理課や技術課の人達が、いの一番に相談に行く人でもある。

 現状は振興会東京本部から歩いて五分。山の奥に住んでいたら移動だけでもかなり大変だ。

 先日の無限コンビニの件で押収したタクト。それも今のところ彼の元に預けてある。



「そりゃそうだ。――それに街中に居るんだし、今時取っつきにくい人じゃ、普段の生活だって大変だろうしねぇ」

 だからといって別に人好きのする人でも、話し好きな人でも無い。

 それも事実であるが、今は伝える必要は無いだろう。


「ねぇ華ちゃん。今度さ、週末の体験教室、一緒に行ってみない?」

「私は別に……。まぁ桜が興味があるというのなら」

 だいたいその週末の体験教室だって。

 魔法道具職人アイテムクラフタでは無いお弟子さんがやっているのだし。


 本人は基本的に週休二日で土日は休み。これも桜の“職人”のイメージが更に崩れそう。

 なのでせっかくその気になってくれている事だし、今は黙っておく事にしよう。




 本当に桜がアイテムクラフタに成れると言うならば。

 魔法と結界、両方自前で何とか出来るB+の私とであれば、アンクラスドである桜であっても振興会の“仕事”でコンビを組むこと自体は可能になる。



 元々はその為に、――アイテムクラフタ向きの人材が居ます!

 と私としては珍しく、アイリスや会長にも積極的に直訴した。

 その結果としての今日なのだ。

 何事もモチベーションは大事である。


 それに実際問題。アイテムクラフタ自体、常に人材が足りないのは本当。

 見習いだろうと初心者だろうと、本当に確保出来たなら。それは本当に助かるのである。

 執行部としても、現在は外部に頼るしか無いアイテムクラフタを組織内に抱えることが出来れば。

 この意味は相当に大きい。


 現地での執行時にアイテムクラフタが同行できるだけで仕事が捗るのだ。

 なにも実力行使だけが振興会の仕事では無い。調査や検証の際には、居ると居ないでは仕事の効率に明らかな違いが発生する。


 それにアイテム解析にしてもクラフタの都合などの考慮は無しで全て内部だけで処理ができる。

 内部で住むなら、執行に適したアイテムを状況に応じて作って貰うことも可能になる。

 単純にアイテムに関する窓口が増えると言うのも見逃せない。



 そしてこの件に関して言えばどんな理由よりもただ一つ、何よりも。

 私が桜とコンビで仕事が出来る、バディを組める。

 つまり、仕事であっても一緒に居られる。その可能性が高くなるのが良い。


 大葉さんやお姉様と組みたくない、というわけでは無い。

 もちろんそうでは無いのだが、私は出来ることなら桜と組みたい。



 要するに今回に関しては色々と諸事情あるので、桜のやる気がアクションを起こす前から減ってしまっては、執行部統括課長としても私個人としても困るのだ。

 そう、この場合。桜のモチベーションは私にとっても重大事。

 やる気が減ってしまったら単純に困る。



 

「振興会の近所にある雑居ビルの一階、なんだっけ?」

「あと、地下も工房で使ってる。……アイテムクラフタとしての工房はその地下の半分を使っているの」


 地下の工房自体の入り口、それは作品の並ぶ陳列棚の近所にあってお客さんに開放している。

 作業の工程を見てもらうことも商売の内であると、言葉は悪いがいかにも“頑固爺”の彼が、そこは意外にも進歩的とも言える考え方をしているからだ。


 だから時間が合えば地下に下りると、彼自身や彼のお弟子さん達が木工細工にいそしむ。その姿を間近で見ることが出来る。

 のみならず、都合が合えば道具や作品を触ることさえ出来る。


「そういうの、見てみたいなぁ」

「今日はお休みの日だけれど、今度行く時。誰か仕事をしている人が居ると良いね」



 一方で。個人的な生活スペースである、として地下の非公開の部分。

 アイテムクラフタとしての作業はそこで行う。

 あからさまに普通の木工細工では不要な工具や機械があるからだろう。



「普通の木工細工の時とは違う場所なんだ」

「入り口が完全に違うの。下りる階段も、彼しかカギを持っていない」


 いかにも型遅れのレジスターと時代を間違えたかのような電話機、そしていかにもな日めくりと紐で綴じられた伝票が載る、店の奥のカウンター。

 その後ろにお弟子さん達さえ入れない、地味なドアで閉ざされた下り階段はある。


 他の客が居るときにお姉様がその扉をくぐるときは、――彼女は自分の孫であるのでプライベートスペースに入れるのだ。と言う設定になっている。

 それに関しては、実は現状使っている戸籍では私はお姉様の義理の妹になっている。


 見た目どころか、誰が見たって二人の間に姉妹として共通する部分がない。

 義理だとしても何一つ、ない。


 この辺はなにを思おうが、お姉様がごり押しした設定だから仕方が無い。

 いかにも適当ではあるが、一応妹の前に“義理の”。が付いているのが、お姉様として最大限に気を使っている部分なんだろう。


 だいたい、サフランと月夜野なのである。

 両方日本人のはずなのに名字が違う、というのはどうして居るのか。

 私には全くもって理解が出来ない。



「いかにもな秘密組織の構成員と協力者だね」

「そう、なのかな……」

 ……まぁ。相も変わらず良く分からないが、その感じ方が桜なのだろうし。


 その設定が気に入ってくれるならそれはそれで良い。

 桜のモチベーションは何より大事。私が彼を苦手にしてるとか、その辺は無視。むしろ桜には内密にすべき事案だ。



『えー。本日もうつくしヶ丘線のご利用、ありがとうございます。次は日之出本町、日之出本町です。お出口変わりまして左側です。お忘れ物等ございませんようお手回り品ご確認下さい。東京方面への快速電車、着いた二番ホームからお待ち合わせ八分ですが、終点までこの電車の方が早くまいります。……お降りの際お足元ご注意下さい。ご利用ありがとうございます。次の日之出本町を出ますと新日之出町、この電車は終点まで各駅に止まってまいります』


 ブレーキがかかって、ぐっとスピードの落ちた車内に車掌さんのアナウンスが響く。

 まもなく到着であるらしい。

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