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学校の魔法使い =華・サフランの人間観察=  作者: 弐逸 玖
うつくしヶ丘高校の振興会分室
10/36

うつくしヶ丘高校普通棟横の木陰

12013.10.27 台詞の間違え直しと一部手直しをしました。

「でも委員長が振興会の人だとは思わなかったよ、なぁ桜」

「うん。だったらそう言ってくれれば良いのに。華ちゃんの事だって、委員長は初めから知ってたんでしょ?」

「一応ね。でも僕も潜入調査員だし、自分で言い出すわけにも行かないから、その辺はそう言われると辛い物があるんだよね。第一、サフランさんは僕の事は知らないわけだし」


 潜入してまでいったい何を調査していたのか。気になるのではあるが、楽しそうな桜の顔を見るに付け、そう言う話は切り出しづらい。



 私の他、桜、仁史君、そして委員長の4人は普通課棟横の木陰でお弁当を広げている。

 委員長がごく普通に展開した人払いの結界は大葉さんを超える程に緻密で正確。シートを敷いた大きさ + 1メートル四方のみを正確に人の目から覆い隠した。

 ソーサラーランクDの水使い、バリアマイトグレードも4のはずでは有るが、魔法や結界はパワーだけでは無い。

 この辺の緻密さ、結界展開の精度と早さは、やはり諜報課に配属されるだけのことはある。



「それに内緒と言えば、執行部から桜さんと南光君が、振興会われわれといったいどういう関わりがあるのか。と言う情報は基本的には秘匿されているからね。百合先輩は知っているようだけれど、今だって僕は良く知らない」

「そうなの? 華ちゃん」


「世界的に見てもレアケースである以上、先ずは情報統制を敷くのは当然。特に日本は諸外国に舐められている以上、手の内を見せたくないと言うのはあるでしょう。身内にも開示しない情報ならば外には漏れにくい。特に振興会のような閉じた組織なら」



 この二人のことに関して言えば、執行部でも私のように直接関わりも持つもの以外は、アイリスがどう言うつもりでアルバイトに雇ったのか。それさえ知らない人も多い。

 そしてアイリス自身、なんとなく気まぐれで雇いそうだ。と思わせる様なキャラで通してはいるけれど。しかし見た目と中身は彼女の場合、複数の意味で大違いなのである。


 但し、そのギャップは普段全く見せない。会長の絶対的な信頼をバックに、東京本部長であり、更に経理、総務の両部長を兼任するのは伊達では無い。



「私も委員長。と、このまま呼んでも良いのかしら?」

「執行部統括課長なんだし、それなら全然格上だろう? 名前で呼んでもらった方が気は楽かな」

「別に上下なんかどうでも良いけれど、ならば改めて富良野君。……あなたとスズランさん、百合先輩はなんのために潜入調査を?」



 やはりせっかくなので気になる事は聞いておいた方が良いだろう。執行課と諜報課はうつくしヶ丘校内にあっては協力するように指示が出ている。とはお姉様も言って居た。任務の内容によっては、私にだって手伝える事があるかも知れない。



「……それは」

「一応情報制限がかかっている以上、私から説明した方が良いのでしょうね。――全く、全てお見通しと言わんばかりですね。良い趣味とも思えませんよ。あやめさん」

「ゆ、百合先輩っ!?」


 言いよどんだ富良野君の言を引き継いで、凜とした女性の声がごく間近から響く。

 誰も近寄れない、気がつけないはずの結界の中。

 ごく普通にスズラン……、百合先輩がその中に立って声をかける。


「結界精度が悪いですよ、富良野クン。校内で使う時は最大精度で、とは何回も言ったつもりなのですが、相変わらずキミにはうまく伝わっていないようですね」

 現状で精度が悪い? ……求めるレベルが異常なのでは?



 桜がお弁当を詰まらせて目を白黒させているので、またしても気配は見抜けなかったものらしい。

 多少慌ててパックのお茶にストローを刺し、彼女に飲ませながら考える。


 富良野君は例のトリモチにはひっかかったのは確かにマイナスではある。

 でも人間としては、もちろん委員長としての彼に文句を言う者は居ないし成績だって問題なく優秀。

 魔法使いや結界師としてもかなり器用で秀逸なのは間違いが無い。


 そして百合先輩。

 昨日から閲覧可能になった個人情報を見る限り、通常のランクならクラスBとグレード3の評価のはず。

 けれどそんな情報は多分意味がない。

 クラスAでグレード2であるお姉様に直接対抗出来ると思える程に。かなり力のある魔法使いであり結界師だ。

 ここまでのエージェントを、桜や仁史君のいるこの学校に集中的に送り込む。


 振興会の意図。それはいったい何処にあるのだろう。

 伏線的なものは当然あるのだけれど。


 『未成年者でかつ修学年齢にあるものは、必ず高等学校卒業かそれと同等の資格を取得すること』

 『都内在住者に関して、希望するものについてはうつくしヶ丘高校に編入出来るよう振興会より便宜を図る』


 先日、振興会上層部から通達があった。

 便宜が図れるくらいだから、呪いの書事件の辺りでなにをどうやったものか、この学校自体、もしかしたら大学と高校3つを含む学校法人実法学院それ自体を、振興会の“縄張り”にしてしまったのかも知れない。


 そして通達自体に関して言えば、とりもなおさず、私を含め人間的に“野良”である人間が結構居た。

 と言う事であり、“便宜”を計らなければそもそも卒業どころか高校に在籍出来ない、私のような明らかな劣等生もある程度は居たのだろう。


 一方。お姉様や、きっとこの百合先輩もそうだろうが、卒業証書の有無以外。

 そもそも高等教育自体不要。と言うやたらに頭の良い人達が集まって居るのもまた事実。


 そしてリスクマネジメントを考えれば、そう言う人達は例え高校を卒業させる。

 と言う目的があるにしろ、頭が良くて編入試験や偏差値の問題が無い。

 ならば都内だとしても、他の地域の学校に潜り込ませる方が何かがあった時に都合が良いはず。


 うつくしヶ丘高校に集中している方が不自然だ。

 つまりはうつくしヶ丘高校(このがっこう)に何かがある、と言う事になるが。




「いずれにしろ、細かいお話しは放課後部室で。と言う事では如何でしょう? 時間に限りがあっては色々情報の共有に支障を来す事があるやも知れませんし。――ところでわたくしの趣味。とは一体全体、なにについてのお話しなのでしょうかしら、百合さん」



 百合先輩の現れた反対側にいつの間にかお姉様が立っている。

 人払い結界がある事実は完全に無視、ごく普通に結界内に現れたお姉様は、百合先輩に声をかけた。


 お姉様については元から多少思って居た事ではあるが。

 このレベルになると、もう何でもありなのだな。

 口には絶対出せないが、正直面倒くさい。この人“達”……。



「あなたの趣向に興味は無いわ。やることがいちいち悪趣味だと言っているのよ」

「はてさて、何のことやらさっぱりですわ。――それはさておき、お二人とも古道具愛好会に入部希望。と言う事で宜しいのですわよね? 百合さん」


「その通りです、あやめさん」

「では、お二人ともそのように。放課後までには部長にも話を通しておきます。入部届は部室に来て頂いてから書いて頂く事としましょうか」

「わかったわ。――富良野クン。放課後、古道具愛好会の部室前で落ち合いましょう。……ならば私は一旦これで」



 百合先輩がそう言った途端に、姿も気配もかき消える。

 自分の結界内部なのに富良野君も追えていない様でキョロキョロと辺りを見回している。

 ……いくら何でもヤリ過ぎではないだろうか。



「え? ……全然追えない、マジでっ?」


 消えるタイミングまで完全に見せている。

 まさに“おかしな事”であるのに、桜が気配をトレース出来ないレベルの隠遁術。

 さすがは諜報課長。


「すいません、悪気は無いし悪い人でもないんですけど、あぁ言う人なもんですから」

 一生懸命に百合先輩の分まで謝る、普段は頼りがいのあるクラス委員長、富良野君。

 その普段の姿を知ってる分、何かしらその姿は不憫にさえ見える。



「百合さんの事ならわたくしも良く存じておりますから。少なくても富良野君が気に病む事は何も無いのでは? うふふ……、なにしろ百合さんですからね。――ではわたくしも、昼休みの内に少々用事がありますのでこれで。皆さんは時間までごゆっくり。ごきげんよう」

 軽く頭を下げると、少なくてもお姉様は普通に歩いて校舎の影に消えた。

 但しその時点から気配もふっつりと途絶える。




「でもあやめさんはわかった。慣れてるからかな?」

「……?」

「多分初めから居たよ、あやめさん。気配に気が付いたのは百合先輩が出て来るちょっと前だし、姿は全然見えなかったけど」


 ……まるでわからなかった。

 私は国内結界師の頂点、ただ一人のグレード1なのに。


 但しお姉様に関して言えば、わざと気配を漏らしていた可能性はある。

 居る事が判れば密かに潜んでいる百合先輩も、出てきて口を開かざるを得なくなるのだから。


 あの二人の隠遁術はちょっと異常なくらいだ。

 いくら直接関係ないとは言え、結界術の位(バリアマイトグレード)はお姉様はグレード2、百合先輩に至ってはグレード3なのだ。



「流れを読んでたのか。さすがはあやめさん」

 素直にお姉様に感心するのは仁史君。


「委員長、二人が結界の中にいたの、わかった?」

「……全然、僕の結界なのに。百合先輩はともかく月夜野先輩までいたなんて」



 しかも多分二人共、結界展開後に入り込んでいる。

 いくら富良野君がグレード4とは言え、自分の結界に侵入されてまるで気が付かない。

 などと言うことは通常なら、あり得ない。

 あの二人は存在自体、既にあり得ないレベルに達していると言う事か……。

 なんて面倒くさい人達だろう。



「なぁサフラン、……あやめさんは百合先輩が、ここに来るのが初めからわかってた、って事なのか?」

「情報漏洩を徹底して防ぐ。その観点から見て諜報課長は少し頭に血が上っている様だから、私達が富良野クンを連れ出せばきっと接触するだろう。とお姉様は予見した」

「百合先輩が此所に来るところまで、あやめさんはお見通し。って感じ? ……うわぁ」


 桜の台詞を聞いて富良野君が頭を抱える。

「百合先輩以外にもそんな人が居るとは……」


 ――あなたとは仲良くなれそうな気がする。


「サフランさん、なにか言った?」

「……いいえ、なにも」

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