ねこじゃらしに起こされて
頬に感じるこそばゆい感覚で、目を覚ます。
まだぼやける視界で確認すると、それは自分の知る限り、ねこじゃらしに酷似した植物らしかった。
というのも、このような植物は見たことが無い。細い幹に不釣合いな太い穂が、幹を釣竿のように撓らせている。通常よりも大きなねこじゃらしは見たことがあるが、ここまで穂が太いものは見たことが無い。
「ロコノエを見るのは初めてかしら?」
声がしたほうを向くと、かわいらしい少女が佇んでいた。
若々しい印象を受ける整った顔立ちにブロンドの髪。服装はヨーロッパの民族衣装を思わせる、素朴なデザインの服だ。
「ふふ、こんな田舎に来るなんて、あなたも物好きな冒険者ですね。もしよろしければ、私の村に寄って行きませんか?お茶でもお出ししますよ」
こくりと頷いて、承認の返事を返す。
まずは状況の理解が先だ。曖昧な記憶も、自分の置かれている状況も、理解しなければいけないだろう。
原住民に出会えたのは運が良い。まずは彼女に話を聞くべきだ。
「では、案内しますね。こちらです」
起き上がり、服についていた汚れを軽くはたきおとして、彼女の後を追おうと、一歩を踏み出す。
「?」
ふと、何かを落とした気がして自分の寝ていた場所を振り返る。どうやらケータイを落としてしまったらしい。しゃがんでそれを拾うと、その下には妙な色のガラス片が落ちていた。白と黒の、現代アートのような柄をしたものだ。
「どうかしましたか?」
少女が振り返り、私に問いかける。
「少し荷物を落としていたみたい。拾ってからすぐに行くわ」
あまり不審に思われるのも好ましい展開ではない。すぐさまケータイとガラス片をポケットにしまうと、私は彼女の後を追って、小走り気味に歩き出した。
最悪の状況でない事だけを祈って・・・・・・。