プロローグ
「はぁはぁはぁ。くそ!どうしてこんなことになるんだよ!」
キン キン
鉄同士のぶつかり合う音が耳に響きわたる
「俺が望んだのは……こんなんじゃないのにーーーー!」
2015年春
「あ~だりぃ~」
大学の新学期が始まる。
俺は何事もなく2年生になった。
「おーい湊ー」
久しぶりに聞いた声が俺の名前を呼びながら駆け寄ってきた。
「お~楓。久しぶりだな」
「久しぶり!どうだった?春休みは」
「いやなにもなかったよ。バイトして寝ての繰り返し。楓は短期留学どうだったよ」
「すっごい楽しかったよ!いろんな国の人と仲良くなれたしね!次は英語圏以外のところにも行きたいなー」
楓はすごい。通訳というやりたいことがハッキリしている、その為に必要なことをしている。
なのに俺ときたら…。
「どう?湊はやりたいことみつけた?」
「いや。なーんも」
どれだけこの無意味な日々が続くのだろうか。大学を卒業してやりたいことを見つけられるのだろうか。不安だけが頭に残る。
「湊はもっと行動してみたらいいよ。子供の頃は思いついたらすぐ行動に移してたじゃない」
「あの時は……何も考えてなかったからだよ。ただ夢中になってた。それだけだよ」
「今夢中になってることないの?」
「ない…かな」
「そっか。それじゃ子供の頃の夢はなんだったの?」
「子供のころ?どうしてそんなこと聞くんだ?」
「ん~子供の頃は何も考えずに夢を見つけてたよね。その時の気持ちってきっと純粋な好きから来るものだと思うんだ。お金のことや世間体のこと、自分の今の能力じゃ到底できそうもないことも無視して、ただこれをやりたい。これになりたいって。
すっごく純粋な気持ちだと思うんだ。
私もたまに考えるの。本当に今やってることが将来の為になるのかな?って。でもこれは子供の頃に叶えたかった夢だから。簡単には諦められないんだ。だから湊、湊はあの時なにになりたかったの?」
「俺は……」
ヒーローになりたかった。
悪から人を守りたかった。
正義の味方になりたかった。
特撮の影響もあるだろうけど、あの時はそう……夢見ていた。
「ヒーロになりたい……か」
「え?何て言ったの?」
「いや。あの時の夢は叶いっこない。現実はそう簡単にはいかないよ楓」
そう言うことしかできなかった。
楓は悲しそうな顔を浮かべたがすぐ笑顔になった。
「そっか。なら叶えたい夢ができたら言ってね!」
「あぁ約束するよ」
貴様の夢を叶えよう
バッと振り返る
「どうしたの?」
「え、いや今声が……」
気のせいだったのだろうか。
でも確かに声は聞こえた…はず。
「ふ~ん。おかしな湊だね」
後ろを振り返りながら俺に笑いかけた
「別におかしくは……は?」
車が信号無視をして楓に突っ込んできていた。
「楓!」
体が勝手に動いていた。
考えるよりも先に楓の肩を押し、前に吹き飛ばす。
その瞬間鈍い痛みが走った。
ドンッ!
「み、みなと?」
それが最後に聞こえた楓の言葉だ。
目を覚ませ
早く目を覚まさんか
なんだ?誰かの声が聞こえる。
確か俺は車に引かれて……。そっか、ここ天国か。
なら今の声は
「天使…さま?」
「悪いな天使じゃなくて」
目を開けると長い黒髪と長い黒服を纏った少女がいた
「私は死神だ」
少女は笑顔でそう答えた。