クリスマスイブに北極が・・・・
ドピーが彼女を山に連れて来てから、さらに1ヶ月が経ち、町はクリスマスイブで賑わっていた。イルミネーションが飾られ、カップル達が大手通を行き交う中、サイトウは、作業着を買いに来ていた。作業着を買って、大手通を歩いていると、背の高いハリウッド男優のような格好いい外人が、話しかけて来た。
外人「やあ、サイトウさん。」
サイトウ「?」
マナ「こんにちは。」
サイトウ「ああ、こんにちは。」
外人「サイトウさん、僕だよ、ドピーだよ。」
サイトウ「ドピー?」
ドピー「そうだよ、宇宙人のままでウロウロするわけにはいかないから、変装してるんだ。」
サイトウ(変装ってかっこよすぎだろ、ドピー、それは反則だ。)
サイトウ「ドピー・・・・日本語上手くなったなあ。」
ドピー「スピードラーニングのおかげかな。」
サイトウ「ス、スピードラーニング・・・・。」
サイトウ(あれって、英語じゃなかったっけ?)
ドピーは、サイトウが持っている買い物袋の中を覗き込んだ。
ドピー「サイトウさん、クリスマスイブだっていうのに、作業着の買い物かよ。」
サイトウ「こないだ、作業着が破れてしまってね。」
ドピー「サイトウさん、イブを満喫しないと。"北極"が来たら、もうこんな幸せな景色は、二度と見れなくなるかもしれないよ。」
サイトウ「ドピー・・・・本当にその"北極"は来るのか?もうあれから2ヶ月経つぞ、ちゃんとドピーに言われたとおり、こうやっていつも酒を持ち歩いてるんだ。」
サイトウは、ポーチから透明の瓢箪を取り出して、ドピーに見せた。
マナ「私も持ってますよ。」
マナもバッグから、キラキラと眩しいぐらい緑色に輝く、30センチぐらいの水筒を取り出して見せた。
マナ「この水筒は、エメラルドでできてるんです。」
サイトウ「ドピー、俺もその水筒が欲しい。」
ドピー「ダメだよ、サイトウさんは。すぐ売ってしまうだろ?僕は作業着を着て、いつも楽しそうに山仕事をしているサイトウさんが好きなんだ。」
サイトウ(楽しく山仕事をしているように見えるのか?苦痛なんだが・・・・。)
突然、町中の人々が空を指差し、騒ぎだした。空に穴が開き、その穴は徐々に広がり始めた。穴の中は真っ暗で、何も見えない。
サイトウ「ドピー、北極が来るのか?ついに、北極が来るのか?」
ドピー「いや、まだだ、まだ様子を見ているだけだと思う。」
マナ「一応、太一君にもLINEしとくね。」
太一君は、マナと同じ大学のゼミ仲間で、サイトウと同じくドピーの友達だ。ブルース・リーが好きで、空手を習っており、県大会でたまに優勝したりする、空手界ではちょっとした有名人らしい。
穴は、町の半分ぐらいの大きさになったところで拡がるのをやめて止まったまま、しばらく町の様子を見ているようだった。そして、ゆっくりと小さくなり、穴は消えて、元の青空に戻った。人々は、しばらく空を眺めていたが、少しすると、そんなことはなかったかのように、また歩き始めた。
サイトウ「ドピーの言ったことは本当だったんだ、ドピーは、ホラ吹き宇宙人じゃなかった。」
ドピー「サイトウさん・・・・サイトウさんにもエメラルドの水筒をあげようと思ったけど、やっぱりあげない。」
サイトウ「そんな・・・・」
ドピー「マナちゃん、地球の近くに、かに座55eっていうダイヤモンドでできた星があるから、今度、ダイヤモンドをいっぱい取ってきてあげるね。」
マナ「本当?うれしい。」
ドピー「サイトウさん、メリークリスマス。」
サイトウ「メリークリスマス・・・・。」
ドピーとマナは、町のどこかへと歩いて行った。
サイトウ「口は災いの元だな。」