北極が来る
サイトウの唯一の友人は、宇宙人だった。宇宙人の名前はドピー、身長1.2メートル程で、スターウォーズに出てくるヨーダに似ており、黄色の服に、黄色の三角帽子を被っている。といってもその服と帽子は、状況に応じて緑色になったり、黒色になったりした。
サイトウは、町でのサラリーマン生活が嫌になり、実家に戻り、林業を始めた。今、仕事をしている山の獣道で、ドピーがアケビを採ろうとしていたが、あと少しのところで背がととがず、サイトウが採ってやったのが出会いだった。それからドピーは、1週間に2回程度、サイトウの山にやって来るようになった。ドピーは植物学者で、宇宙の生物がいる惑星に行っては、植物を採集している。かなり危険がともなう仕事だが、地球の植物は綺麗で、動かないので、ドピーは地球が気に入っていた。ドピーはサイトウに会うと、透明の瓢箪のような入れ物に入った酒を、サイトウの水筒のコップに注いで、自分も飲んだ。その酒を飲むと、サイトウとドピーは、お互いに言葉を理解して、会話ができるようになった。サイトウは、ドピーに果物をよくやり、ドピーは喜んで食べたが、中でも柿が1番好きなようだった。柿を二人で食べながら、ドピーが言った。
ドピー「近々、この町に"北極"が来る、いつかは分からないけど、たぶんもうすぐだ。」
サイトウ「北極?なんだそれ、寒くなるのか?」
ドピー「肉食のヤバい奴らで、異次元の存在だ。たまたまこの町の空とも、奴らの世界が繋がったようなんだ、奴らは漁師で、奴らの世界と繋がった、この宇宙のあらゆる惑星の人間を食糧としている。」
サイトウ「俺達は、魚みたいなもんなのか?」
ドピー「そうだな。だから、この酒をやるよ、当分、地球には来れそうにないから。」
ドピーはサイトウに、透明の瓢箪のような入れ物を渡した。
サイトウ「いいのか?ありがとう。」
ドピー「"北極"が来るまで飲まないようにな。」
そう言ってドピーは、上木鉢のようなUFOの中に入った。
上木鉢のUFOから、透明の豆の木がグングンと空に向かって伸び、少しして、上木鉢のUFOは"パン"と、紙袋が破裂したような音を立てて消えた。
サイトウ「このUFOは、使い捨てなのか?」