第二話 旅立ち
前回のあらすじ
狼拾ったら少女に懐いた
世界には勇者が居た。
しかし勇者は魔王を倒す事を良しとしなかった。
なぜなら魔王は倒される事を望んでいた。
今の戦争の理由も知っていた。
人間の傲慢。
人間の欲望。
そんな醜い人間のせいで起きたからだ。
だから魔王を倒したらより酷い事になると知っていた。
しかし狼には関係なかった。
そして狼によって戦争は終わった。
魔王よりも強く、魔物すら容赦なく狩るそれは醜い人間達にも恐怖だった。
だから勇者も魔王も知っていた。
狼こそ本当の勇者だと。
□■□□■□
あれから幾日も経った。
少女は毎日土を弄ったり、森で草を狩ったりしていた。
狼である自分にはその行動はわからなかった。
けれど少女の為に共に行動していた。
森には弱すぎる魔物しか居ない。
しかし少女はそれ以上に弱い。
だから自分が守る。
「リュコス、そろそろ帰ろう。」
少女は自分を呼ぶ時にリュコスと呼ぶ。
それも嫌ではなかった。
呼ばれたからには行かなければならない。
すっと立ち上がり少女の横に立つ。
自分はまだ子供で小さいがそれでも少女を乗せるには十分な大きさだ。
少女が背中にしっかり乗ったら走りだす。
いつもの帰り道、しかし住処に着くと明らかに様子が違った。
「そんな・・・!」
住処が燃えていた。
しかし敵の気配はないはずだった。
なのに目の前には骨の様な魔物が居た。
杖を持ち人が着るような布を纏って。
「嘘・・・!ボーンウィーザード!?」
少女の恐怖が伝わる。
だからわかった。
奴が敵なのだと。
少女はまだしっかり背に捕まっている。
この状態なら背にのせたままでも戦える。
骨がこちらに気づいたのか火を投げてくる。
少女を乗せたまま避ける。
遅い攻撃だ。
緊張する必要ないほど遅い。
「駄目!逃げようリュコス!」
少女は危険を感じているのか自分を掴む手に力を加える。
大丈夫。
こいつは前の縄張りで見たことがあるが遅い攻撃しか無い。
狼である自分にはそんな攻撃一切通用しない。
例え少女が乗っていても問題はない。
そのままゆっくり骨に近づく。
骨が何か叫んでいるが問題はない。
なんども火を投げてくるが関係はない。
のんびり避ければいいだけだ。
さぁこいつをどう倒そう。
また手を出して火を投げようとする。
ならばその手を噛み砕く。
簡単に砕けた。
前にみた緑のより弱い。
「キサマァ!タダノ狼デハナイナ!!」
何か叫んで居るが関係ない。
もう片方の手も噛み砕く。
その衝撃でぼとりと骨が地に落ちる。
両手を無くして狼狽えたように逃げようとする骨の頭に手を置きそのまま踏み潰す。
バキリと音がして骨はそのまま消滅した。
前の緑のもそうだったが何かキラキラ光るものを落として消える。
唖然としていた少女が我に返り、その光る何かを拾い上げる。
「凄い・・・ボーンウィーザードの結晶だ・・・。」
驚いているようだがそれよりも住処だ。
完全に燃えている。
これではここに住むことは出来ない。
「しょうがないよリュコス・・・。そうだ街に行こう?冒険者になって採取クエストすればなんとか生きれるから。リュコスが狩った結晶があれば当分なんとかなるし。」
自分に乗りながら優しく撫でてくれる少女。
だがしょうがない。
二人でずっとその火を眺め、日が落ちる前に火は消えた。
少女は燃え尽きた住処の中から無事だった荷物などを集め布に自分も包んだ。
暖かった。
ゆったりとしていたかったがそうはいかないらしい。
魔物の気配がする。
こちらを伺っている。
あれは自分によく似た姿の魔物達。
数が多いのはわかる。
ならばこれは群れだ。
ボスが居るはずだ。
それを倒せば他の奴は逃げるだろう。
駆け寄ってきた数匹を一瞬で倒す。
それらは消滅したが他の奴らは怯えたようだ。
けれど逃げようとしない。
だから待った。
ボスが出てくるのを。
「グルルルルルル・・・。」
さっきの奴らより一際デカイ。
ボスだ。
こちらの実力を伺っている。
簡単には倒せないかもしれない。
少女は疲れていたのか目を覚まさない。
逃げることは出来ない。
少女を守ると誓った。
だから逃げない。
ボスがこちらを弱いと認識したのか襲ってきた。
避けることもせずその攻撃を爪で弾く。
大きさの割に弱い。
倒せるかも知れない。
燃え尽きた住処より大きいそれはこちらの実力をわかったのだろう。
慎重にじりじりとこちらを伺うように動く。
次に攻撃してきた時がチャンスだ。
また飛びかかってきた。
今しかない。
一瞬で飛びかかったボスの下に潜り牙を使い首に穴を開ける。
ドシャっと血の音がする。
それに目の前で苦しそうに悶えている。
あれでは助からないだろう。
もう一度食いちぎる。
グチャっと音がして首が胴から離れる。
それで終わりだった。
ボスがキラキラ光るものに変わったら回りにいた群れが出てくる。
逃げずに攻撃してくるかと思ったらそのまま服従の姿勢を取った。
こいつらは俺には敵わないと理解したのだ。
ならばそれでいい。
光る物を咥え少女の足元に起き、隣に座り目を瞑る。
警戒していたが、目の前の魔物は歯向かってこないだろう。
そのまま眠りにつき、次の日を迎えた。
□■□
少女は驚いていた。
目の前の魔物達に。
怯えたように自分にしがみついているが、一声吠え魔物達が一列に並んだことから危険はないと判断したのだろう。
「凄いねリュコス。これサーペントウルフだよ?ランク1の冒険者じゃないと勝てないのに・・・。」
魔物達も少女に恭順の姿勢を取っている。
ひとまずは大丈夫だろうが油断は出来ない。
こいつ等の言葉は自分には理解できない。
だから任せられる保証はない。
今は自分の強さにひれ伏しているが何かに負けたらすぐ手のひらを返すだろう。
これはそういう魔物だから。
「さぁ街に行こう。荷物は・・・どうしよう?」
焼け残った物をじっと見ている少女。
きっと持って行きたいのだろう。
人間が使う馬につなげる様な板に乗っているがそこまで大きい物じゃない。
顔をくいっとやるとそれに気づいた魔物達が荷物の乗った板の前に立った。
「ありがとう。それじゃあ繋ぐね?」
手早く魔物と板を結ぶ少女。
それが済むとそのまま歩き出そうとする少女の前に座りじっと見つめる。
「わかったよリュコス。君は優しいね。」
少女が理解したのかそのまま背に乗る。
しっかり捕まったのを確認したら一声吠えて後ろの魔物達に合図を送る。
それを理解したのか魔物達は列を作りついてくる。
そしてそのまま森を抜け、人の作った道と少女の指示で街を目指した。
解説
火を投げる:炎の魔法です。狼には投げているように見えるんですよ。
キラキラ光る物:生物結晶といい、魔物を倒すとドロップします。というより生き物は死ぬとこの結晶になります。魔物や一部の人間はこの結晶状態から復活出来るのです。加工してアクセサリーや剣の装飾にすると物によっては強力な効果を発揮します。
ランク:冒険者のランクです。9~Rまでの段階です。数字が少ないほど高ランクですね。ちなみに1の上はA・S・SS・SSS・Rです。
サーペントウルフ:狼の姿をした魔物です。動物としての狼はもうほぼ絶滅しており、残る狼は魔物がほとんどです。群れを率いるボスを倒すと仲間になったりします。
荷物を引く板:猫車
次回の更新は頑張って早くします




