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ウルフ・ストーリー  作者: たぬたろう
第一章古代種
1/8

第一話 森の狼

この話は全て狼の目線というか狼の語りで進みます

500年ほど昔、一匹の狼が居た。

その毛並みは黒く、漆黒と言えるほど美しい物だった。

そしてなによりその犬は気高く孤高だった。

すべてを救う勇者として・・・・。


しかし狼は人でないにもかかわらず強すぎた。

人が触れれないような魔物を倒し、

山のような魔物を倒し、

人が畏怖を覚える魔物すら倒した。


それが魔物であれば良かった。

それが見境なく人を襲うのであれば良かった。

しかし狼は人を助けた。

それになんの見返りも求めず、ただ助けた。

例え人を苦しめるのが人間であろうとも殺した。

だから人は狼を魔物以上に恐怖した。


時が過ぎ、魔物の王を狼が倒しても人は恐怖した。

人で無い身で、人が敵わない者を打ち倒したからだ。

人々は何より速く、何より強靭な狼を、何より恐れた。

しかし、狼はただ人を救っただけだ。

狼が人知れず天に召された後も気づかない人間は愚かだった。



□■□□■□



「大丈夫?」


なにが起こったかわからなかった。

雨が降る中、いつもの縄張りの警戒中に強い衝撃を与えられ崖から落ちた。

このままだときっと死んでしまう。

それがわかっていたがどうしようもなかった。

なぜなら自分は狼だったから。

人であるなら人を呼べば助かるかもしれない。

しかし狼である自分は狼を呼んでも助からず、縄張りを奪われ食われて死ぬだけだと理解していた。


「今手当してあげるね。」


近くで人が何かをしている。

自分を殺すのだろうか?

それも仕方ない。

縄張りを守るために人間を襲うこともあった。

自然は弱肉強食。

何かに攻撃され、崖から落ち、満身創痍な自分には受け入れるしか出来ない。

だから何も言わずそっと目を閉じ眠りについた。



□■□



目が覚めるとパチパチと音がする。

体を見れば何かが巻き付いている。

不快だと思ったがそれが命を繋いでいるのだと本能で感じた。

だから剥ぎ取ることはせずそのまま受け入れた。

近くでコトコトと音もする。

そちらの方が重要だ。

これは人の気配。

なんの思惑が合って自分を連れてきたのかはわからないが危険である。

そう考えた。

だが傷ついた体は思うように動かない。

幸い気配は一つ。

それも子供であろう。

ならばそれを始末してさっさと縄張りに帰ろう。

そう思った。


「起きたの?ご飯食べる?」


出てきたのは少女。

狼には年齢までわからないがそれが非力な者である事は分かった。

だから落ち着いて対処しようと思った。

人間が持つ剣や弓も持っていない。

だからこの少女は今の自分の敵ではない。

殺そうとするなら噛み殺す。

しかし少女はそっと自分の前に肉を置いた。


「食べれる?」


首をかしげ自分を見る少女の目には敵意は無い。

ならば出されたものはそのまま受け取ろう。

そう考えて肉にかぶりつく。

どれほど眠っていたかはわからないがお腹が空いていた。

この肉が無ければ少女を食べていたかも知れないが気にはしない。

目の前により簡単に手に入る肉があるのだ。

ならば少女を襲うよりそちらの方が手軽だ。

出された肉を食べたらまた眠気が襲ってきた。

このまま寝るのは危険かもしれない。

この少女以外にも人間が居るかもしれない。

最近は魔物とかいう変な生き物もうろついている。

だから眠るわけにはいかない。

そう我慢しようとしていた。


「大丈夫・・・。怖くないよ。」


ふわっと少女が自分に抱きつく。

何をされたかはわからないがそれはとても心地が良かった。

ゆっくり目を閉じ四肢の力を抜く。


「おやすみ・・・。」


少女はそう言って自分を撫でた。

狼には初めての感情だったが、それが安心感だとなんとなく気づいた。



□■□



再び目が覚めた時、自分が寝ていた人間の住処にはあの少女は居なかった。

自分に巻き付いていた物は新しい物になっている。

それはあの少女が自分を助けたのだと簡単に理解が出来た。

しかしあの少女は今ここに居ない。

体もまだ万全じゃないが動くのに支障はない。

ならば立ち上がりゆっくりと回りを見渡し神経を集中する。

やはりこの住処にはあの少女の気配はない。

しかし外から感じられた。

この状態では縄張りも守れない。

だから今はあの少女の庇護を受けよう。

けれどその前にあの少女について知らなければならない。

敵意は無いがいつ殺しに来るかわからない。

難しい事はわからないがあの少女の世話になる前に知らなければならない。

ゆっくりと風の流れを読む。

あの壁から出れるようだ。

慎重にその壁を押し外に出ると少女はなにやら草を弄っていた。

人間の作る畑なのだろう。

自分が食べるものではないが慎重に近づく。

しかし壁を動かした時に音が出たのだろう。

その少女は自分に気がついた。


「もう起きて大丈夫なの?」


少女が優しく自分を撫でてくる。

人間に触られるなど不快だったはず。

しかしその少女の撫で方は嫌いではない。


「もうちょっと待ってね。ここが終わったらすぐご飯あげるから。」


そのまま少女は土を弄り始めた。

自分にはその行為がよく理解は出来なかったがおとなしくそこに座り少女が土弄りを終えるまで待つ事にした。


「お前大人しいね。それに伝説にある狼みたいに綺麗な毛並み。」


少女は楽しそうだった。

人間というのは常に群れて行動する。

しかし周囲には森が広がり人間の気配はない。

神経を集中させれば自分の縄張りと同じくらいの範囲を確認出来るのだがそれでも人の気配はない。

この少女は一人だった。

自分と同じ。

だからどうだと言うのだろう。

しかしなぜかその少女の事が気になった。

そしてもう一つ気になる気配があった。

魔物だ。

少女は気づいていないが近くに魔物の気配がする。

こちらに気づいているのか5匹ほどだろう。

ゆっくり近づいてきている。

この少女がどうなろうと構わない。

しかしなにか不満が残った。

自分の縄張りでも魔物はよく現れる。

勝手に暴れて縄張りを無茶苦茶にしようとするのだ。

気に入らない。

しかし相手は5匹。

いつもの自分ならその程度の数など、相手ではない。

しかし今は傷を負っている。

どこまで出来るかわからない。

けれど目の前で楽しそうに土を弄る少女は自分を助けた存在。

全て倒せるかはわからないがそれでも恩は返さなければと考える。


「ギィ!ニンゲン!ミツケタ!」


少し離れたところに醜い緑の人間モドキが出てくる。


「ゴブリン!?」


少女も気づいたのだろう。

現れた魔物におびえているようだ。

やはりこの少女は脅威ではない。

今の脅威は目の前に現れた3匹の魔物。

もう2匹居たはずだが隠れているようだ。

こちらの様子を伺っているのか、攻撃の意志は感じられない。

ならば今が絶好の機会。

3匹なら今の自分でも勝てる。


「駄目!狼さん!」


少女が後ろで何かを言っているが構わずそのまま目の前に居た1匹を爪で引き裂く。

あっけなく倒れ消滅した。

弱すぎる。

もう1匹が攻撃しようと飛びかかってきたのでそのままもう1匹の方へ弾き飛ばす。

そのままぶつかり1匹は気絶した。

そしてもう1匹は気絶したのをどかそうと必死になっている。

ならば立ち上がる前にそのまま噛み砕こう。

気絶したのを放置して立ち上がろうとした魔物の首を噛み砕く。

これもすぐ消滅した。

後は気絶した奴。

これも爪で首を掻き切る。

自分の縄張りに出るものより弱い。

圧倒的に弱い。

だから隠れているもう2匹も狩ってしまおうと考えたがすぐにやめた。

もう居ないのだ。

恐れて逃げたのだろう。

戦闘で昂った心を落ち着かせる。

それと同時に体に痛みが走った。

まだ傷が癒えてないのだ。

当然だろう。

しかし歩けないほどではない。

そのまま何もなかったように少女の近くまで行き、そのまま座る。

少女は唖然としていたが危険は去ったとわかると、また自分に優しく抱きついてきた。


「お前強いんだね。ありがとう。でも無茶は駄目だよ?」


少女の言いたい事はよくわからない。

けれど自分を心配してくれるのはわかった。

なぜかわからないがそれだけで満たされる気がした。

縄張りはもう魔物で溢れているだろう。

帰っても危険なだけだ。

ならばこの少女を守り、この辺りを自分の縄張りにしよう。

この少女の優しさはとても居心地がいい。

ゆっくりと目を閉じそのまま一声高く鳴いた。


(ここを自分の縄張りにする。文句がある奴はすべて殺す。)


そう周りに告げ、少女と共に人間の住処に入る。

少女は自分が守る。

そう心に誓って。

解説

壁を押す:扉を開ける事です


完全に狼の目線での物語となるのでここでたまに解説します

質問があれば次回更新時にここで回答します


軽くUPなので次話は一週間ほど先です

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