集え! シュークリームタワーの記憶
私の前世の生まれた地は、格式ある世界有数の最高級ホテル―――
とある結婚式で華々しくデビューしましたの。
ウェディングケーキではなく、新婦が大好きというシュークリームで出来たシュークリームタワーケーキの一番下にちょこんと可愛く座っていたのです。
そして私は、新郎新婦か結婚式に呼ばれたゲストの皆さんに味わっていただく予定でしたのよ?
それなのに!
「どういうことよ!? ワタシと結婚するっていう話じゃなかったの?」
「どういうことだよっ!? 俺は信じてたのにっ!!」
招かれざるべき2名の乱入により会場は騒然になりましたの。そして、乱入してきた2名が、会場の片隅に飾ってあった私たちシュークリームタワーに突進し、事もあろうか、私たちを素手で掴み、新郎新婦に向かって投げ始めましたのよっ!?
こうして私のシュークリームとしての人生は終わりを告げてしまったのです。
とても残念で、やるせない結果でございますわ。
とりあえず、これだけは言わせていただきます!
「私たちを痴話喧嘩に巻き込まないでっ!!」
*****
月日は流れ……
私は、なんの因果か、前世で生まれた地であり、まったく不本意な形で呆気なくこの世から去った場所でもある、あのホテルのオーナーの一人娘に転生しました。そして、令嬢として然るべき教育を幼い頃から受けた私の隣には、気がつけば常に「ある男の子」がおりました。
私につきまとい、正直うっとおしいとばかり思っておりました。「なぜ、あの男の子が私の側にいらっしゃるの?」と、お父様やお母様に伺いましたら、なんでも優秀な方らしく、私専属のお世話係とのことでした。しかし、どんなに優秀だとしても、大変暑苦しい方でしたので、側にいて欲しくなかった私は、「お世話係なんて必要ありません」と主張しましたが、聞き入れていただけませんでした。そこで、私は徹底的にその方の存在を無視することにしたのです。
そう、セレブが集うパーティーへとお父様に連れられ、その会場でシュークリームタワーを見て、前世での「あの出来事」を思い出した「この瞬間」まで……。
「大丈夫ですか? お嬢様」
目覚めると、心配そうに見ているお世話係の男の子の顔が、私の目の前にありました。あんなに存在を無視し続けた私を心配するお世話係……。お人好し過ぎます。
お父様と一緒に会場にいたはずの私は、シュークリームタワーを見た途端、倒れたらしく、知らないうちにパーティー会場のホテルのスイートルームのカウチに寝かせられ、その間、ずっと付き添ってくれたようなのです。
私は、じっと彼を見つめ、気がつきました。そう、こんなに「お人好し」の方は、あの方しかおりません。
前世、私のすぐ上にいらっしゃり、私が投げられてしまわないよう、タワーが崩れたフリをして私の前に出て、庇ってくださった。
そして、私よりも先に投げ飛ばされてしまった―――
「もしかして、前世、私を庇ってくださったシューゾー様ですの?」
「!!」
私の言葉にシューゾー様が目を丸くし、「やっと思い出したのか」と、ニカッと満面の笑みを私に向けてくださいました。
「では、私の右隣にいたシュータマ様は?」
「あぁ、ボクたちより先に転生して、探偵をしている。既に敵の状況を把握し、動いている」
「本当にあの時の誓いを……でも、転生後まであの『誓い』を果たさなくてもいいのではございませんこと?」
「記憶は集い、あの誓いを果たさない限り、ボクたちは自由に生きられない」
「そうですか……、それでは仕方ありません。私も『記憶に囚われること』は望んではいないので、トコトンやりますわ」
シューゾー様は頷くと、私の手を引き、会員制のジュースバーへと連れていってくださいました。
*****
「待たせたな」
バーカウンターにお一人で座っていらした男性に、シューゾー様が年上にかける言葉としてはどうかと思われる言葉で、話しかけられました。
「いや、そんなには待ってないぜ? それよりお嬢が目覚めたってホントか!?」
「あぁ」
「お久しぶりです、シュータマ様」
「ホントだったのか……、じゃあ、いよいよあの『誓い』を実行するときだな」
私が頷くと、隣にいるシューゾー様も「ああ」と頷かれました。
「敵の場所や行動範囲は、把握している。データはこれだ」
シュータマ様よりデータが入っているスマホをシューゾー様がお受け取りになると、素早く操作して中身を確認し、「わかった」と呟かれました。
「では、私は全ての人脈を使い、実行いたしますわ」
「あぁ、頼むぜ! お嬢!!」
「お嬢様、原材料の『カラシ』は、既に手配済みですので、いつでも動けます」
「わかりましたわ。その方たちが買うすべての食材を『大量のカラシ入り』にいたします!」
*****
そう、潰れていく私の仲間と交わしたあの時の「誓い」
私たちを投げ飛ばした「招かれざる客」へ仕返しをする―――
それは「招かれざる客」の末代まで続く―――
あなたは、こんな言葉を聞いたことはなくって?
「食べ物の怨みは恐い」
【了】




