道具
謎の道具
遠い昔に滅びた国がある。その国のいたるところから、何に使ったかわからない道具が大量に出土する。
その使い方は誰も知らない。
形状が何に由来しているのか、その使用用途は何なのか。
千の発想、万の意見そのどれもすりあわない。
既存のどんな道具とも違うそれをどう使うのか、解き明かした者はいない。
にもかかわらず、それは大量に発見されているのだ。
表面の突起は何のためにあるのか、つるつるした材質は何のために加工されたのか、左右で形が違うのは何のためか、まったくわからない。
それが何に使う道具だったかすらわからないのだ。
その道具が何であったのか、実は単なる調理器具だ。
その滅びた国のただひとつの料理を作るためだけの。
しかし、原材料となる植物は、野生種はすでに絶滅し、栽培種は国が滅びる際の混乱ですべて枯れ果ててしまった。
その原材料となる動物も、国が滅びた後、しばらくして、絶滅してしまった。その姿をとどめ置く画像すら残っていない。
道具の構造の理由の一つは、その植物の特性にあったのだが、その植物が絶滅している以上それを解き明かすすべはない。ましてやその動物が、食用になっていたことすら忘れられているのだ。
また左右で形が違うのも動物の形で、形態がきめられたのだからだが、その動物が絶滅している以上それを知るすべはない。
そして、つるつるの表面の加工も調理手順のためなのだが、レシピが失伝している以上それを知ることはできない。
だからそれが何なのか決して知ることはできないのだ。
その料理専用の道具ってありますよね、巻きずしの巻きすだったり、押しずしの箱型だったり、巻きずしを知らない人には巻きすがどういう道具なのか全く分からないだろうなと思ったのがきっかけです。