植物
石筍暗黒草の詳しい姿に関する一番信頼できる資料は盲目の画家エル・セドリックによるものである。
彼は触覚で形を判断し、構図を決める。
彼は粘着性の強い絵の具を指先で輪郭線を書き、色付けは妻が対象の色を見て判断する。
しかし、彼は今回に限り一人でそれを仕上げた。
そして、洞窟を出た後、彼の妻によって灰色と乳白色で彩色が行われた。
色は石筍を基準にしてあるが、それが正しいかは誰にもわからない。
その形状は一番近いのは葉ボタンだろうか。
波打つ柔らかな形に歯が一枚一枚重なっている。
その中心に丸い蕾のようなものがみられる。
数は五つ、しかしそれが蕾なのか、それとも蕾のような形状の花なのかそれとも新芽なのか、それは解析できないのが現状だ。
そして、さらに詳しい外観を示したのが、これまた盲目の塑造家ハンス・ヨハンセンだった。
彼もまた、葉ボタンに似た形状の植物を作り上げた。
そして、ただ丸としか描かれていなかった蕾のような物の詳しい形が作り出されていた。
それは先端がとがり、五つの割れ目が彫り込まれている。
射ずれその場所から割れて新たな目、ないし花が開くことを予想させる形状だった。
そして、エル・セドリック並びにハンス・ヨハンセンのモデルを務めた石筍暗黒草はまったく同じ個体だった。
二人が観測並びに作業を行ったのは十数年の開きがある。にもかかわらず、大きさの誤差はわずか数ミリ、まさしく本物の石筍や鍾乳石と同じ有給の寿命を持つ植物だという証明だ。
この、暗黒石筍草が、何故闇の中だけその葉を広げるのかは謎だ。通常の植物は太陽光線が当たるその時間帯により大きくその葉を広げる。
光が当たらない時まったく真逆の行動をとるのは何故なのか。
ある学者はこう言う。
「闇は光の不在ではなくそれこそが多いなるエネルギーを秘めているのだ」
そのエネルギーの正体はいまだ解明されていない。
また、不毛の岩に根を張るその根は一体何を吸い上げているのかそれもまた謎であり、その謎がとかれる日はおそらく来ない。
前回の動物は難か探したらいそうな気がしますが。こっちは絶対見つからない自信があります。