短剣
後宮の短剣
ある国の話だ。その国の皇帝は側室を5人しか持ってはいけないと定められていた。
そのため新しい寵姫を娶る際に、寵愛を失った側室を処刑することが行われていた。
その際に苦しむことなく速やかに命を絶てるように薄くなおかつ鋭い刃が作られた。
美女の細頸に合わせた緩やかなカーブをつけ、その刃紋は優美に波打つようにつけられていた。
仮にも王族に仕えた側室の命を絶つために作られるのだ、刃だけでなく柄もまた贅をこらした。貴金属で作られた柄に五色の宝石を嵌めこまれたそれは宝物といってもいい出来栄えだった。
その短剣は一人の側室に一本と定められていた。仮にも皇帝に仕えた側室だ、皇子皇女を生んだ女性もいる。その死に際しても相応の格式は整えられるべきだという意見のため、ほかの側室に使った短剣を使われることはまったくなかった。
そうした節約に励んだおかげで、その国は栄え、長く続いた。そのため短剣は数多く作られた。
一人の王が、数十本の短剣を用意したこともあったらしい。
そのため、実質的な価値とは裏腹に結構お求めやすい美術品として愛されている。
そして美術品愛好家以外に祖の短剣を求める顧客は飽きた妻をどうにかしたい夫達だった。
妻がいなくなりますようにと祈りを込めて購入する。
そうした美術商達が、副業として、毒薬販売業者に、後宮の短剣購買リストをよく売っている。
持ちつ持たれつの商売なのだそうだ。
毒薬販売業者によれば思い切りはご婦人のほうがいいらしい。
後宮の短剣の在庫は切れることがない。