織物
ガドガト織りについての考察。
ガドガト織とはきわめて長大な時間をかけておられる布である。
まず基礎の技術を学ぶ、そして一通りその技術を習得して許されてガドガト織の制作に入ることができる。
一人の織り手が、織ることのできるガドガト織はたったの一反。そのため最初の部分を織り始めた段階で、その買い手が決まる。
ガドガト織は、まず初心者の段階で織り始め中盤ぐらいで技術は頂点に達する。最初の段階で極めて技巧達者だとしても肝心の中盤で伸びず、凡庸な出来になることもあれば、最初のつたなさが嘘のように中盤では神がかった技術の伸びを示すこともある。
そのためガドガト織を買うのは雄大な博打と言われる。
その値段は織り手が数十年分の生活費にせねばならない額だからだ。
不幸にして、織り手が数年で死去した時、残金は買い手に返却されねばならない。
ガドガト織はペダルが二つしかない極めて単純な機織り機で作られる。
そして普通織物につかわれる杼をほとんど使わない。
横糸は針で通される。
つまりガドガト織は機織り機にかけられた縦糸に針で刺しゅうする形で織りあげられるのだ。
最初は古代、機織り機がない時代、布は中空でからみ織という手法で織られていた。
からみ織は極めて緻密に糸を交差させる技法であり、そのため普通の織り機で織られた布の数倍の強度を誇る。しかし、その技術の習得は困難を極めそのため普通の機織り機に駆逐されてしまった。
最初はからみ織と機織り機両方の特徴をもつ布を作るために作りだされた技術だった。
点描画のように緻密なそれは数ミリ織るのに数日を費やし、いったん織り終えるのに数十年かかる。また使われる糸は最低でも五十色。それに太さや細さを加えればさらに種類は増える。
糸を何度も変えながら最初の一列が終わるとようやくペダルを踏む。ペダルを一日数回しか踏まないことも珍しくない。そのためガドガト織の工房はいつもとても静かで、針を落としても聞こえるような耳の痛くなるような静寂の中織り上げられる。
また最初の図案を練り直すために作業が止まることも珍しくない。一生に一反しか織れないゆえんである。
織り上げられる図案はカトリーズ神話に題を置くものが多い。
また、慣例としてガドガト織はカトリーズ神殿の巫女が着用することが多い。
長大な布のに描かれた様々な神話のシーン、それを儀式や状況に合わせて、身体に巻きつける部位を変えることで表現する。
ただし織り始めを出すことはあまりない。
まず技術的に未熟であるということ、そして織りあがった段階で極めて古びてしまっているということ。
ガドガト織に用いられる糸は、極めて発色がよくまた、退色を防ぐためのさまざまな手立てを取られているが、それでも限界はある。
最初から褪せる前提で淡い色合いでもおかしくない絵柄を選ぶ織り手もいるが、それでも使われることはまずない。
これはちょっと駄法螺が低いです。もしかしたら失伝した綴れ織りの技術ってこれかもしんないと思ってしまいました。